ちょっと遊ぼうか
ちょっと遊ぼうか
一週間後の金曜日など、すぐにやってくる。
大学と小学校に通い、時々学園軍獄に顔を出し、たまに喧嘩をしていれば、本当にすぐだ。
義体が直ったから受け取りに来てくれと、蒲田のギルドから連絡が入ったのが、金曜日の午前だった。
「やっと大人に戻れるのだよ。そうしたらケツァル、君と対等だ」
やれやれ、とため息をつくテスカトリポカだが、そもそもテスカトリポカが無茶をしすぎたせいで義体が大爆発したのである。やれやれではない。
「子供の体は返却するのか?」
なんの気なく尋ねたケツァルコアトルに、目を丸くしたテスカトリポカが、少し不思議そうに答えた。
「いかんかね? 臨時の義体だから常用する予定はないのだよ」
「ふぅーん……けっこうかわいいのに」
「フハハ、そうだろうそうだろう! 私は美と誘惑の化身だからね。どんな姿でも魅力的なのだとも」
胸を張って笑うテスカトリポカ。彼はそれから悪い笑みになって、ケツァルコアトルの耳元に口を近づけた。
何か企んでいるな、と察したケツァルが耳を貸すと、テスカの楽しそうなささやき声が鼓膜を揺らした。
「……ちょっと遊ぼうか、きょうだい?」
「遊ぶ? 小学生のテスカくんはどんな遊びを所望するのかね?」
「バトルだよ、バトル。フフ……この体も今日で見納めかと思うと感慨深い。そこで、最後に一発、派手にアプリバトルといこうじゃないかね」
ニヤリ。
口角を上げたのは、ケツァルコアトルだ。
ほほーん? と楽しそうな顔になる。視線をテスカトリポカに向けて、竜蛇は言った。
「手加減なしでいいな? 泣いたら負けだぞう、きょうだい」
「フハハ、それはこちらの台詞だよ! さあ、きょうだい! 二人で大戦争だ!!」
「大きいほうの義体が直った直後に、なんで小さい義体をボロボロにして来るかな!」
蒲田のギルドマスター、クロガネは、困ったように仁王立ちをして、ちょっと壊れかけている少年姿のテスカトリポカを見ていた。
やりすぎた自覚はあるらしい。ケツァルコアトルが苦笑いしている。テスカトリポカはやけに清々しい表情をしていたが。
「無茶をしないようにって、子供の義体を渡したはずなんだけどなぁ」
「フハハハ! このテスカトリポカに、無茶をしない、という概念は存在せんのだよ、君ィ!」
「うーん、後輩に相談しとくか」
「あっ!! なぜそこでサモナーを呼ぶのだね!?」
慌てふためく少年が、納品されたばかりの大人の義体に駆け寄る。
「さっさと移してさっさと帰ろう!」
「はっはっは! 逃げるのかね、きょうだい!」
「逃げるのではないよ、戦略的撤退だとも!」
そんな会話をするテスカトリポカとケツァルコアトルに、見ていたクロガネも吹き出した。
少年の義体は一応メンテナンスをして、ぬいぐるみボディ同様、大人の義体が使えなくなったときのために備えておくらしい。
「可愛くなくなったな」
大人の姿に戻った半身に、そんな辛辣な言葉を吐く。ガタイはいいし、背は高いし、声は子安だ。愛らしい要素はあまりない。
「格好良くなったろう?」
フフン、と余裕の笑みを浮かべるテスカトリポカは、ケツァルコアトルの肩を抱いて、額を彼の首筋にこすりつけた。
ケツァルコアトルの尻尾が、ゆるくテスカトリポカの足に絡まる。
「……一回、学園軍獄に戻るんだろう?」
「仕事が溜まっているからねえ」
「今回の騒動とは関係なしに溜まってたんじゃないのか?」
「しーっ」
「しーっじゃないよお前は」
どうせ期限までには間に合わせるのだとしても、どうも執務を放って遊びに出てしまう悪癖がある最前線指揮官である。
「三日ほど帰れないと思う」
ジャガーの耳がペタリと垂れる。
「三日で溜まってた仕事を片付けられるのか?」
羽毛ある蛇は首を傾げる。
「私は情報生命体だからね。高速処理しようと思えば何とかなるさ……しようと思えばね」
「しようと思えよ」
頑張って来い。
パン、と軽くテスカトリポカの背を叩き、ケツァルコアトルは仕方ないものを見るかのように笑った。
はーぁ、と息をつくテスカトリポカは、今生の別れでもあるまいに、ケツァルコアトルの手を取って名残惜しんでいる。
「帰ってきたら……ちょっと遊ぼうか」
ケツァルコアトルが言った。
「アプリバトルかね?」
テスカトリポカが問うのに、半身である竜蛇は悪戯っぽく笑って、首を横に振る。
「お前がその体じゃなきゃできないことを、俺たち二人で、いくらでもしよう」
待ってる。
気恥ずかしくなったのか、視線をそらして呟くケツァルに、テスカトリポカはフ、と小さく笑んだ。
ケツァルコアトルの鼻の頭に、キスを落とす。
「必ず帰るとも、君のもとに」
「……大袈裟だな、俺たち」
「フフ……言うんじゃない、そういうことを」
二人で笑った。
ケラケラと笑った。
二人の間に溝はある。
どうしようもない価値観の差とてある。
けれどそれは、二人が肩を並べてはいけない理由には、ならないはずである。
ジャガーの背に生えた翼が竜蛇を囲むように広げられ、竜蛇の尻尾はジャガーの手首にゆるく巻き付いた。
一週間後の金曜日など、すぐにやってくる。
大学と小学校に通い、時々学園軍獄に顔を出し、たまに喧嘩をしていれば、本当にすぐだ。
義体が直ったから受け取りに来てくれと、蒲田のギルドから連絡が入ったのが、金曜日の午前だった。
「やっと大人に戻れるのだよ。そうしたらケツァル、君と対等だ」
やれやれ、とため息をつくテスカトリポカだが、そもそもテスカトリポカが無茶をしすぎたせいで義体が大爆発したのである。やれやれではない。
「子供の体は返却するのか?」
なんの気なく尋ねたケツァルコアトルに、目を丸くしたテスカトリポカが、少し不思議そうに答えた。
「いかんかね? 臨時の義体だから常用する予定はないのだよ」
「ふぅーん……けっこうかわいいのに」
「フハハ、そうだろうそうだろう! 私は美と誘惑の化身だからね。どんな姿でも魅力的なのだとも」
胸を張って笑うテスカトリポカ。彼はそれから悪い笑みになって、ケツァルコアトルの耳元に口を近づけた。
何か企んでいるな、と察したケツァルが耳を貸すと、テスカの楽しそうなささやき声が鼓膜を揺らした。
「……ちょっと遊ぼうか、きょうだい?」
「遊ぶ? 小学生のテスカくんはどんな遊びを所望するのかね?」
「バトルだよ、バトル。フフ……この体も今日で見納めかと思うと感慨深い。そこで、最後に一発、派手にアプリバトルといこうじゃないかね」
ニヤリ。
口角を上げたのは、ケツァルコアトルだ。
ほほーん? と楽しそうな顔になる。視線をテスカトリポカに向けて、竜蛇は言った。
「手加減なしでいいな? 泣いたら負けだぞう、きょうだい」
「フハハ、それはこちらの台詞だよ! さあ、きょうだい! 二人で大戦争だ!!」
「大きいほうの義体が直った直後に、なんで小さい義体をボロボロにして来るかな!」
蒲田のギルドマスター、クロガネは、困ったように仁王立ちをして、ちょっと壊れかけている少年姿のテスカトリポカを見ていた。
やりすぎた自覚はあるらしい。ケツァルコアトルが苦笑いしている。テスカトリポカはやけに清々しい表情をしていたが。
「無茶をしないようにって、子供の義体を渡したはずなんだけどなぁ」
「フハハハ! このテスカトリポカに、無茶をしない、という概念は存在せんのだよ、君ィ!」
「うーん、後輩に相談しとくか」
「あっ!! なぜそこでサモナーを呼ぶのだね!?」
慌てふためく少年が、納品されたばかりの大人の義体に駆け寄る。
「さっさと移してさっさと帰ろう!」
「はっはっは! 逃げるのかね、きょうだい!」
「逃げるのではないよ、戦略的撤退だとも!」
そんな会話をするテスカトリポカとケツァルコアトルに、見ていたクロガネも吹き出した。
少年の義体は一応メンテナンスをして、ぬいぐるみボディ同様、大人の義体が使えなくなったときのために備えておくらしい。
「可愛くなくなったな」
大人の姿に戻った半身に、そんな辛辣な言葉を吐く。ガタイはいいし、背は高いし、声は子安だ。愛らしい要素はあまりない。
「格好良くなったろう?」
フフン、と余裕の笑みを浮かべるテスカトリポカは、ケツァルコアトルの肩を抱いて、額を彼の首筋にこすりつけた。
ケツァルコアトルの尻尾が、ゆるくテスカトリポカの足に絡まる。
「……一回、学園軍獄に戻るんだろう?」
「仕事が溜まっているからねえ」
「今回の騒動とは関係なしに溜まってたんじゃないのか?」
「しーっ」
「しーっじゃないよお前は」
どうせ期限までには間に合わせるのだとしても、どうも執務を放って遊びに出てしまう悪癖がある最前線指揮官である。
「三日ほど帰れないと思う」
ジャガーの耳がペタリと垂れる。
「三日で溜まってた仕事を片付けられるのか?」
羽毛ある蛇は首を傾げる。
「私は情報生命体だからね。高速処理しようと思えば何とかなるさ……しようと思えばね」
「しようと思えよ」
頑張って来い。
パン、と軽くテスカトリポカの背を叩き、ケツァルコアトルは仕方ないものを見るかのように笑った。
はーぁ、と息をつくテスカトリポカは、今生の別れでもあるまいに、ケツァルコアトルの手を取って名残惜しんでいる。
「帰ってきたら……ちょっと遊ぼうか」
ケツァルコアトルが言った。
「アプリバトルかね?」
テスカトリポカが問うのに、半身である竜蛇は悪戯っぽく笑って、首を横に振る。
「お前がその体じゃなきゃできないことを、俺たち二人で、いくらでもしよう」
待ってる。
気恥ずかしくなったのか、視線をそらして呟くケツァルに、テスカトリポカはフ、と小さく笑んだ。
ケツァルコアトルの鼻の頭に、キスを落とす。
「必ず帰るとも、君のもとに」
「……大袈裟だな、俺たち」
「フフ……言うんじゃない、そういうことを」
二人で笑った。
ケラケラと笑った。
二人の間に溝はある。
どうしようもない価値観の差とてある。
けれどそれは、二人が肩を並べてはいけない理由には、ならないはずである。
ジャガーの背に生えた翼が竜蛇を囲むように広げられ、竜蛇の尻尾はジャガーの手首にゆるく巻き付いた。
10/10ページ
