放サモB級グルメ2話
サモナーに呼び出されたので何事かと思えば、ソフトクリーム専門店の新作を食べに行こう、と無邪気に誘われた。
臨戦態勢を解いて、美少年は肩をすくめて笑みを見せる。やれやれ、ボスったら、なんて言って、その美少年……オセは、軽くウィンクを飛ばした。
「この敏腕エージェントを急いで呼び出したんだ……ボス、もちろん甘い中にもピリリとしたスリルがあるんだろうね?」
豹の美少年の挑発的な笑みに、呼び出した張本人である高校生は、少し考え込む素振りを見せる。そうして、首を傾げた。
「それは分からないけど、新作が売り切れるスリルはあるかも」
「おっと! それはいけない。急いで向かおう、ボス? 僕たちに失敗は許されないのだから」
手を差し出すオセ。手を取るサモナー。
二人はいたずらっぽく笑うと、揃って駆け出すのだった。
ソフトクリーム専門店は既に人混みができていた。話題の新作を求めて、主に高校生たちが集まっているように見える。
新作のソフトクリームはラズベリーチーズケーキをうたっており、薄黄色のクリームの中に赤いラズベリーが混じり、マーブルになっていた。
「あった! まだあったよ、オセ!」
嬉しそうに飛び跳ねるサモナー。それにオセは微笑む。ソフトクリームが食べたいのはサモナーの方。オセはサモナーのコロコロと変わる表情こそを見たいのだ。
ふと、オセが何かを見つけた。
ソフトクリーム専門店の裏手にある路地。
そこに、こちらの……いや、サモナーの様子をうかがう何者かの姿が複数あった。
行列に並び、お目当てのラズベリーチーズケーキ風味のソフトクリームを二つ手に入れたサモナーが、戻ってくる。
オセはそんなサモナーの口元に、自身の人差し指を静かに当てた。
「しぃー……」
サモナーはぱちくりと瞬き。オセがこうして自分を静かにさせる時というのは、ムードを大切にしたい時か、ムードが壊れている時かのどちらか。経験で知っているサモナーは、ソフトクリームを両手に、オセの目を見て訊ねた。
「何があったの?」
オセは小さく頷いて、満足そうだった。
「ボス、ちょっとだけ待っていておくれ? ボスの手を汚すわけにはいかない、すぐに戻るよ」
パチリ、とウィンクを飛ばすオセ。
美しい顔立ちでのウィンクはやはり凄味がある。
サモナーはコクリと頷くと、オセに向かって真剣な様子で返した。
「信じて待ってる」
信じられては、報いなければなるまい。
待たれては、間に合わなければなるまい。
美少年は路地裏に駆け込む。そうして、大人の姿になる。すぐに何者かに取り囲まれたが、オセの心は凪いでいた。
笑みを崩さず、周囲を見回す。
サモナーズのギルドマスターを狙った不審者たちは、銃やナイフを握っていた。
「何の用か……なんて、野暮なことを訊ねるのはよそう。何せ、ソフトクリームが溶けてしまう前に、終わらせなければならないのだからね」
オセが宣言する。
それと同時だった。
不審者たちが得物を引き抜いたのは。
彼の白い服に汚れはなかった。
サイレンサー付きの銃で不審者たちの得物を弾き落としたエージェントは、腰を抜かしている人物らに流し目を寄越す。
不審者のうちの一人が、オセの足を掴もうと手を伸ばしたか、オセはその手を革靴の踵で弾き、おっと失礼、などと言って微笑んだ。
「今、僕を汚していいのは、ボスと、ボスが買ってくれた、ソフトクリームだけなんだ」
カツン、カツンと革靴の音を響かせる。
オセは、戦意喪失している男のもとへ近づく。
黒服だ。銃を取り落としたその者は、敏腕エージェントを呆然と眺めている。
オセが手を伸ばす。
黒服の、胸ポケットへ。
「失敬」
そう言って白いハンカチーフを抜き取ると、くるりと踵を返して、路地裏から出ていった。
「急がないと、ボスのお気に入りが溶けてしまう……ふふ、まったく、これほどのスリルもそうはないよ、ボス」
サモナーは店の前で、ラズベリーチーズケーキのソフトクリームを二つ持って立っていた。そう時間は経っていないが、日差しが強い。
垂れそうになっているソフトクリームを、オセを待たずに頬張ってしまってもいいが、小さく首を横に振ってその欲求を捻じ伏せていた。
オセと食べるから良いのだ。
「やあ、お待たせ、ボス」
その声と共に、白いハンカチーフがサモナーの片手を覆った。
「やっぱり早かったね」
破顔するサモナー。
「このハンカチは何? どうしたの?」
不思議そうに訊ねてくる主人に、エージェントは笑い、人差し指を自身の口元に持っていく。
「僕は確かに言ったよ? ボスの手を汚すわけにはいかない、と」
そうして、ハンカチーフで覆われていない方の手からソフトクリームを受け取ろうと、手を差し出す。サモナーがラズベリーチーズケーキ味のそれを渡そうと、少し傾けた時だった。
「あっ!」
ポタリ、と、赤いソースが一滴。
オセの袖を、汚した。
「ご、ごめん! オセの服が!」
慌てたように、サモナーが声を荒らげる。
オセはひどく落ち着いた様子でソフトクリームを受け取り、袖に落ちた赤い汚れを見て、愛しそうに目を細めている。
「ああ、そうか、そうだね、やはりそうだ」
納得までするオセに、サモナーは不思議そうだ。
オセが、嬉しそうに言う。
「僕を汚していいのは、やっぱり……ボス、君だけだよ」
臨戦態勢を解いて、美少年は肩をすくめて笑みを見せる。やれやれ、ボスったら、なんて言って、その美少年……オセは、軽くウィンクを飛ばした。
「この敏腕エージェントを急いで呼び出したんだ……ボス、もちろん甘い中にもピリリとしたスリルがあるんだろうね?」
豹の美少年の挑発的な笑みに、呼び出した張本人である高校生は、少し考え込む素振りを見せる。そうして、首を傾げた。
「それは分からないけど、新作が売り切れるスリルはあるかも」
「おっと! それはいけない。急いで向かおう、ボス? 僕たちに失敗は許されないのだから」
手を差し出すオセ。手を取るサモナー。
二人はいたずらっぽく笑うと、揃って駆け出すのだった。
ソフトクリーム専門店は既に人混みができていた。話題の新作を求めて、主に高校生たちが集まっているように見える。
新作のソフトクリームはラズベリーチーズケーキをうたっており、薄黄色のクリームの中に赤いラズベリーが混じり、マーブルになっていた。
「あった! まだあったよ、オセ!」
嬉しそうに飛び跳ねるサモナー。それにオセは微笑む。ソフトクリームが食べたいのはサモナーの方。オセはサモナーのコロコロと変わる表情こそを見たいのだ。
ふと、オセが何かを見つけた。
ソフトクリーム専門店の裏手にある路地。
そこに、こちらの……いや、サモナーの様子をうかがう何者かの姿が複数あった。
行列に並び、お目当てのラズベリーチーズケーキ風味のソフトクリームを二つ手に入れたサモナーが、戻ってくる。
オセはそんなサモナーの口元に、自身の人差し指を静かに当てた。
「しぃー……」
サモナーはぱちくりと瞬き。オセがこうして自分を静かにさせる時というのは、ムードを大切にしたい時か、ムードが壊れている時かのどちらか。経験で知っているサモナーは、ソフトクリームを両手に、オセの目を見て訊ねた。
「何があったの?」
オセは小さく頷いて、満足そうだった。
「ボス、ちょっとだけ待っていておくれ? ボスの手を汚すわけにはいかない、すぐに戻るよ」
パチリ、とウィンクを飛ばすオセ。
美しい顔立ちでのウィンクはやはり凄味がある。
サモナーはコクリと頷くと、オセに向かって真剣な様子で返した。
「信じて待ってる」
信じられては、報いなければなるまい。
待たれては、間に合わなければなるまい。
美少年は路地裏に駆け込む。そうして、大人の姿になる。すぐに何者かに取り囲まれたが、オセの心は凪いでいた。
笑みを崩さず、周囲を見回す。
サモナーズのギルドマスターを狙った不審者たちは、銃やナイフを握っていた。
「何の用か……なんて、野暮なことを訊ねるのはよそう。何せ、ソフトクリームが溶けてしまう前に、終わらせなければならないのだからね」
オセが宣言する。
それと同時だった。
不審者たちが得物を引き抜いたのは。
彼の白い服に汚れはなかった。
サイレンサー付きの銃で不審者たちの得物を弾き落としたエージェントは、腰を抜かしている人物らに流し目を寄越す。
不審者のうちの一人が、オセの足を掴もうと手を伸ばしたか、オセはその手を革靴の踵で弾き、おっと失礼、などと言って微笑んだ。
「今、僕を汚していいのは、ボスと、ボスが買ってくれた、ソフトクリームだけなんだ」
カツン、カツンと革靴の音を響かせる。
オセは、戦意喪失している男のもとへ近づく。
黒服だ。銃を取り落としたその者は、敏腕エージェントを呆然と眺めている。
オセが手を伸ばす。
黒服の、胸ポケットへ。
「失敬」
そう言って白いハンカチーフを抜き取ると、くるりと踵を返して、路地裏から出ていった。
「急がないと、ボスのお気に入りが溶けてしまう……ふふ、まったく、これほどのスリルもそうはないよ、ボス」
サモナーは店の前で、ラズベリーチーズケーキのソフトクリームを二つ持って立っていた。そう時間は経っていないが、日差しが強い。
垂れそうになっているソフトクリームを、オセを待たずに頬張ってしまってもいいが、小さく首を横に振ってその欲求を捻じ伏せていた。
オセと食べるから良いのだ。
「やあ、お待たせ、ボス」
その声と共に、白いハンカチーフがサモナーの片手を覆った。
「やっぱり早かったね」
破顔するサモナー。
「このハンカチは何? どうしたの?」
不思議そうに訊ねてくる主人に、エージェントは笑い、人差し指を自身の口元に持っていく。
「僕は確かに言ったよ? ボスの手を汚すわけにはいかない、と」
そうして、ハンカチーフで覆われていない方の手からソフトクリームを受け取ろうと、手を差し出す。サモナーがラズベリーチーズケーキ味のそれを渡そうと、少し傾けた時だった。
「あっ!」
ポタリ、と、赤いソースが一滴。
オセの袖を、汚した。
「ご、ごめん! オセの服が!」
慌てたように、サモナーが声を荒らげる。
オセはひどく落ち着いた様子でソフトクリームを受け取り、袖に落ちた赤い汚れを見て、愛しそうに目を細めている。
「ああ、そうか、そうだね、やはりそうだ」
納得までするオセに、サモナーは不思議そうだ。
オセが、嬉しそうに言う。
「僕を汚していいのは、やっぱり……ボス、君だけだよ」
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