「成人の日、万歳！」
　リョウタが明るく言い放つ。成人の日と週末を含めて三連休。その間の課題は少なく、まさに遊ぶには持ってこいなのである。
「淑やかに、立派に成人を迎える先輩方を見習って、俺たちも立派に課題をやり遂げるべきではないかと思うんだ」
　シロウがいつも通り、真面目なことを言う。それにケンゴが眉を潜める。トウジは同意を示すために頷くし、モリタカは苦手な科目を教えていただきたいと気合いを込めていた。
　サモナーは……実は、シロウに教えてもらい、こっそり課題を終わらせていたりする。
　連休に休めないなんて言語道断と言わんばかりに、済ませるべきことは済ませ、アルバイトの予定も入れていなかった。目指すはセーフハウスだ。
　ハヌマンも合流し、集団でセーフハウスへ向かう。ツァトグァが新しいゲームを買った、とのハヌマン情報に、リョウタとサモナーが沸いた。

「サモナー、僕が課題をやってる間、頼んだよ！」
「任せてリョウタ。課題を終わらせたらタッチ交代だからね」
　固い絆で結ばれた……ゲームとお菓子大好きな二人は、握手をしたあと、一方はテーブルに教科書とノートを広げ、もう一方はテレビの前に陣取り、双方、臨戦態勢をとった。
　微笑ましいものを見るかのように目を細めるシロウは、キッチンでお茶を入れている。集中力が増すというハーブティーだ。トウジが英語の教科書を開き、英和辞書まで開いているのに感心しつつ、シロウは空いている席に座る。
「ケンゴ、日本史はできてなんで世界史はできないんだ。教えるから教科書を……持ってきていないのか!？　お前ってやつは！」
「ノート写させてくれりゃあいいじゃねえか」
「いいわけあるか！　ああもう、俺の教科書を貸すからちゃんと見るように！」
「ぐえ」
　説教混じりのシロウの声と、ケンゴの苦悶のリアクションを皮切りに、それぞれが行動を開始した。昼前のことだった。

「ツァトグァさん、なんでキングボンビーなすりつけに戻ってくるの!？　待って待って待って、あー！」
　サモナーの悲鳴とともに、グフフであーる、というツァトグァの悪どい笑い声が響く。課題をさっさと終わらせたリョウタも参戦し、友情崩壊ゲームと名高い桃太郎電鉄は白熱の一途をたどっていた。サモナーがキングボンビーを抱えながらツァトグァを追いかけるが、進む度に金が減っていく。リョウタがそれを見て、僕に押し付けていいよ、と言うが、サモナーは首を横に振った。
「リョウタ今借金あるじゃん！　そんな人に押し付けられないよ！　あー！　億単位でお金なくなった！　おのれキングボンビー！」
「ハヌマン流忍術……おわーっ！　福岡に飛んだでござるぅ!？」
「みんな弱すぎなのであーる。ほれ到着。我社長、一番乗りであーる」
　貧乏神を育ててキングボンビーにし、それを近くにいるサモナーに押し付けるところまで作戦通りなツァトグァが、余裕のゴールを果たした。

「シロウ、このポルコ・マーロってのは何した奴だったっけか」
「マルコ・ポーロだ、ケンゴ」
　ゲームお預けで勉強に勤しんでいるグループは、ハーブティーを飲みながらシロウの講義を聞いていた。英語に世界史に地学と数学B。ランダムなタイミングでランダムな科目の質問が飛び交うのに、シロウは慌てず、落ち着いて答えている。
「本居、どう訳しても『この席は横綱ではありません』になるんだが」
「ノースモーキングをノー相撲キングに訳している人を実際に見たのは初めてだよ」
「委員長殿、これはリンゴですか？　いいえ、バナナです、という英文を考案したお方は『見て分かるであろう』という言葉の英訳は高校生にはまだ早いと判断なさったのでござりましょうか？」
「そこまで考えてないと思う」
　英語が苦手で気が散っている二名の問いかけに、半分ほど笑っていたが。
　エビルたちがお茶菓子を運んでくる。よちよち、てちてちと動き回り、お茶のおかわりを持ってくる勤勉さに、周囲が和んでいた。

「初手レインボーロードはきつい」
　サモナーが観戦する側に回ったマリオカート。時刻は昼過ぎを指していて、ケンゴ、リョウタ、ツァトグァ、ハヌマンの四人が出場していた。
　ランプが青になった瞬間、ケンゴのロケットスタートが決まる。
「ぬぐぁー！」
　ツァトグァのマシンを弾き飛ばしたらしい。悔しそうな声が響く。ケンゴはドリフトターンを決めると、コーナーで差をつけろと言わんばかりに加速していった。それを追いかけるのは意外なことにリョウタでああり、イカスミを使って画面を暗くする戦法で邪魔をする。
　ハヌマンが大砲のキャラクターの姿になって後部からぶっちぎる。ものすごいスピードでケンゴに迫っていく。それを阻止したのは、ツァトグァの赤甲羅だ。
「ツァトグァ殿、あんまりでござるぅー！」
「我の邪魔をするもの、みなドカーンであーる」
　ぎゃあぎゃあと騒がしい中、コース上のバナナを踏んだケンゴが、人知れずコースアウトして落ちていった。サモナーがツボに入ってしばらく立ち直れなかった。

「次はなにする？」
　リョウタが声をあげる。
「マリパしようぜ、それなら犬塚もやれんだろ！」
　ケンゴが課題を終わらせてこちらを眺めていたモリタカに手招きをしながら言う。
　ゲーム慣れしていないトウジも、マリパなら入門にちょうどいいだろうと、背を押されてテレビの前に座らされた。シロウもやろう、とサモナーが言う。俺はこういうの強くないからなあ、と苦笑しながら、シロウも参戦した。
「シロウてめえ妨害すんのうますぎんだろ！」
「ああ、俺は強くないからな。足を引っ張る作戦でいかせてもらう！」
「拙者、このオバケらしきものにコインを根こそぎ奪われてござります！」
「逐一起こるミニゲームが難しいぞ！」
　初心者のモリタカとトウジが悪戦苦闘しながら楽しんでいる横で、妨害ガチ勢とでも呼ぼうか、シロウがケンゴに適度なストレスを与えているのを、サモナーはハーブティー片手に、エビルをもちもちしながら観戦していた。
「おい誰だ俺のスター盗っていくの！　……お前か犬塚ーっ！」
「申し訳ござらん！　勝手がよく分かっておりませぬ故、容赦されよ！」

　少し遅めの昼食をとる。
　デリバリーサービスで届いたピザだ。ツァトグァの奢りだというので、ありがたく頂くことにした。はちみつがかかったピザはツァトグァ一人のものである。そういった暗黙の了解を、みんなちゃんと分かっていた。
　課題は片付けた。
　腹は膨れた。
　まだ午後三時だ。
　ならば……遊び倒すほかあるまい。
　いつもは羽目を外さないようにと注意する側のシロウも、この日ばかりは年相応に笑っていた。
　連休はまだ二日ある。
　明日はなにして遊ぼうか、と声が上がる。
　アギョウがゲームを羨ましそうに見ているので、高校生のお兄さん方は、しょうがないなあ、などと先輩風を吹かせて、本日二週目のマリオカートをさせてあげることにしたのだった。
「あはは！　アギョウめちゃくちゃバナナまくじゃん！　いいぞ、いけいけー！」
　サモナーの応援にアギョウが楽しそうにスピードを上げる。キノコ三連発で他のプレイヤーたちを抜かしていく。上手い上手いとサモナーズの面々が盛り上がった。
「今度、ボードゲームでもして遊ぶであーる」
「いいね。人生ゲームやろうよ、みんなで」
「拙者はモノポリーも捨てがたいでござるぅ」
「物取りい？　待て、ハヌマン。それは空き巣や窃盗犯の遊戯なのか？」
「そんな物騒なゲームあるわきゃねえだろ」
「あるにはあるのであーる」
　リョウタが人生ゲームを用意しながら、あるんだ!？　と目を丸くして驚く。
　トウジが、嘆かわしいな、とボードゲームを相手に本気で憂いている。
　日が落ちて、夕方になり、学生寮に帰る時間がくるまで、サモナーズのセーフハウスからは明るい笑い声が響いていた。
「明日こそは優勝するからな！」
　そう宣言するサモナーに
「受けて立つ」
　と、サモナーズのメンバーが、口を揃えて答えた夜だった。
　その日の月は、いつもより輝いて見えた。