道化よ、アンダよ、妹よ!
「道化よ!」
「盟友(アンダ)よ!」
「妹よ!」
練馬区にほど近い、かろうじて新宿区と呼べる場所に建つ一軒家に、大仰な客が姿を見せた朝。
各世界代行者の手には、目一杯のおもちゃ、沢山のお菓子、そして「オルド招待券」という謎の封書。
「帰りたまえ」
この一軒家の家主である男の声がした。
おもちゃに、お菓子に、オルド招待券にと、謎の貢ぎ物を前にきょとんとしている幼子を抱っこしている男は。
テスカトリポカは。
「帰りたまえ」
「妹と過ごさせて下さい」
「帰りたまえ!!!! というか何故この家の住所を知っているのだね!? あと大勢で押しかけて来ない!! ご近所迷惑だよ!!」
誰よりも近所迷惑な大声で、来訪者三名を威嚇した。抱っこされている小さなサモナーは、不思議そうにハッピー○ーンを食べていた。
「叔父様ぁ! 戦争屋のもとに身を寄せるよりも、ルールメイカーズでお暮らし下さい!」
甥が増えた。
「何故増えるのだね!?」
「兄様!! 幼い兄様がいらっしゃると聞いて!」
「お姉ちゃんとして弟の近況を聞くのは当然のこと! 良い子にしてる? 好き嫌いはない?」
「多いよ!!」
六名もの世界代行者が押しかけてきた一軒家の玄関。扉が壊れそうである。
あまりの人口密度に幼いサモナーはテスカトリポカにしがみついたし、酸欠を起こしたテムジンは倒れそうになった。
「で。なんの用だね、君達」
方や、インベイダーズとインベイダーズとインベイダーズ。もう一方はルールメイカーズとルールメイカーズとルールメイカーズ。
真の三大ギルドの世界代行者が顔を合わせたテスカトリポカ宅。こんな所で真の三大ギルドが相まみえるな。他にすることがあるだろう。
そんなツッコミもどこ吹く風で、テスカトリポカからの問いに答える男がいた。
「道化を傍に置くは皇帝である余の、当然の権利であろうが! 道化を余に差し出せ!」
ペルーンである。
「待て、我が同盟者よ……! 盟友(アンダ)が幼ければ、我を裏切る心配もない筈であろう……今こそアンダを迎える時!」
テムジンである。
「妹を保護してくれてありがとうございます、幼いとお世話も大変でしょう? これからは僕が責任を持って妹に尽くしますので、どうかお譲りを」
フッキである。
インベイダーズの面々が各自好き勝手に主張する中、口を開いたのはルールメイカーズの彼だ。
「お待ち下さい。叔父様がそれを望んでいるというのですか? 叔父様が真に望まれない限り、物のように受け渡す事など許されませんよ」
ホルスは胸を張って主張した。その視線は、テスカトリポカの膝の上でアンパン○ンチョコレートを頬張るサモナーに注がれている。
「兄様? ルールメイカーズに起こし下さいますよね? 兄様はこのミカイールと共にあって下さいますよね?」
「幼子に縋るように問いかけるの、やめてくれんかね、君ィ」
普段は騒がしく振る舞う方であるテスカトリポカが、ものすごく静かに、じっとりとした目でミカイールを見ている。珍しいこともあるものだ。
明日はきっと雪が降るだろう。
そんな事は置いておいて。
突如として始まった親権争いは、テスカトリポカとサモナーを放ったらかしにして、インベイダーズ対ルールメイカーズの口論のようなものに成り果てていた。
誰がサモナーを育てるのに相応しいか。
誰が最もサモナーへの教育に貢献できるか。
テスカトリポカは、端末を操作する。
そして
「……もしもし、同盟者? 暇かね? ちょぉっと出てきてくれまいかね、今てんやわんやのシッチャカメッチャカで」
バロールに連絡を入れていた。
説明を省きやがるんじゃねえ、と、電話口で苦言を呈されていた。
それはそうである。
「何のサミットだ、これは」
テスカトリポカ宅に到着したバロールがツッコミの声を上げる。仕方のないことだ。世界代行者達がみちみちに集まっているのだから。
皆、思い思いのやり方でサモナーに関わろうとしていた。皆が皆、猫なで声に近かった。
若干、気持ち悪い。
「道化よ、歌を下賜してやろう」
先陣を切ってペルーンがカラオケマイクを取り出した。何処から出したのだという視線も何のその、彼はマイクを握りしめ、意気揚々と歌う。
ペルーン最高、キーテジの皇帝ペルーン、おおペルーン、我らが代行者、誇り高き男、その名もペルーン、ウーラー。
「うーらー?」
「きょうだい、真似しちゃいけないぞう?」
ペルーンリサイタルに他の代行者たちが眉をひそめる。小さなサモナーは興味深そうに首を傾げている。見ちゃいけません、とでも言うようにテスカトリポカが幼いサモナーの目を塞ぐ。
「新春隠し芸大会ならよそでやりやがれ」
バロールの冷静な声がただ響いた。
ペルーンはガハハと笑っていたが。
目一杯のおもちゃとお菓子を与えられた小さなサモナーは、興味津々でそれらを眺めて、それからテスカトリポカの方を見る。
普段、こんなにいっぺんに与えられた事がないから、もらってもいいのか、遊んでもいいのかと、テスカトリポカにお伺いを立てているようだった。
「なんて可哀想な妹でしょう……保護者の顔色を伺って、自由に遊べないだなんて」
「誤解を招く言い方はやめたまえよ、君ィ。捧げてばかりだと教育に悪いと言われているのだよ」
フッキの煽るような言葉に、喧嘩ならば買う、と言わんばかりにテスカトリポカが返す。
おそらくシンノウに釘を刺されているから、好きに買い与える事ができないのだろう。
「弟が元気そうで良かった……お姉ちゃん、それだけで充分……あ、お風呂には何時に入れています? おやつはオーガニック? それとも市販の健康的なお菓子? お昼寝の時間はちゃんと設けているかしら? 言葉の習得に遅れはない?」
「それだけで充分と言った割にグイグイ来るね」
アマテラスの質問攻めに次ぐ質問攻め。
アマテラスが持ってきたのだろうポンデライオ○のぬいぐるみを気に入ったのか、幼いサモナーが、きゃあ、と声をあげて抱きしめる。
それを眺めながらテスカトリポカがツッコめば、アマテラスもサモナーを眺めながら返した。
「いずれ我が家に迎える日のために、知識のすり合わせをしておかなければと」
「怖い怖い怖い」
「兄様!」
「叔父様!」
「妹よ!」
「アンダよ!」
迫りくる四人に、サモナーはてちてちと逃げる。テスカトリポカの陰に隠れ、バロールのズボンをキュッと握る。
人見知りをする年頃の子にとって、急に沢山の来客があったのは、やはりストレスだったらしい。
「妹よ、少しでいいです、少しだけでいいですから……抱っこを、させてくれませんか?」
甘い声音でフッキが頼み込む。
「変な事はしませんから……家に連れて帰るだけですから……」
「二言目の時点で充分変な事しようとしてないかね、このホウライの人」
「さあ、妹よ、こちらにおいでなさい! お兄ちゃんが愛してあげますよぉ!」
「頬を赤らめて興奮するのをやめたまえよ!」
自称兄と自称きょうだいが争う。
大人の無様な戦いを見ていた幼いサモナーが、バロールにしがみつきながら、息を吸い込んだ。
「おにわちゃぁん! たしけてぇ!」
カンッ! という干渉音。
溢れ出る光。
リビングに現れる、額に傷を持つ青年。
「どうした、主様……おい本当にどうした、何だこの状況」
「おにわちゃぁん!」
呆然とするオニワカに、サモナーが抱きつく。
「増えた……!! 人口密度が上がった……!!」
テスカトリポカの、半笑いになったツッコミが、虚しく宙を舞う。
「主様よぉ、主様は誰と暮らしてえんだ。話はそれからじゃねえのか」
オニワカに至極もっともな言葉を投げかけられたサモナーは、事の大きさを理解しているのかいないのか、オニワカの膝の上でココナ○ツサブレを食べている。フッキが気を回して買ってきてくれた市販品である。
「しゃも、てしゅかがいい」
「だとよ、解散」
オニワカの淡々としたセリフ。それに言葉を詰まらせる来客たち。オニワカは、主を見た。
自分のあぐらの中央に、ちょこなんと座って、時々お菓子のお裾分けをくれる主を。
穢れを知らない幼子が、汚れを知っている男の足の上で、リラックスしていた。
自分がどれだけ恐ろしい相手の膝の上にいるのか、いまいち理解していない……そんな印象を受ける。……恐ろしい男と、無垢な子供。オニワカの脳裏によぎったのは、いつかすれ違ったスーツ姿の鳥獣人と、カメラを首から下げた三つ編みの獣人少年の組み合わせ。
ドン、と呼ばれる鳥獣人が、パシャリパシャリと街中の写真を撮ってははしゃぐ少年に、慈しみの目を向けていた光景だ。
「……やっぱり、無垢な子供には敵わねえってこったな」
「ん?」
「何でもねえよ、主様。ほら、ほっぺたに食べかすついてんぞ?」
しゃも、てしゅかがいい。
その一言で、世界代行者達は今のところ、引き下がるようだった。本当に今のところであるが。
何かあればすぐにでも幼いサモナーを引き取りに来ると宣言した代行者達に、来なくていいよ、と眉間にシワを寄せるテスカトリポカである。
「ダイコクに言って警備を厚くせねばならんかね」
「あのオークショニアに連絡しやがる気か貴様」
「あれでいて優秀かつ有能なのだよ? 我が同盟者?」
残った大人達が何やら会話をしているのを聞き流しながら、オニワカはサモナーを抱き上げる。
小さな背中をポンポンと叩いてあやしていれば、お菓子を食べたあとの幼子は、抵抗することなくお昼寝タイムと相成った。
幼いサモナーが、はふ、と小さくあくびをする。
終
「盟友(アンダ)よ!」
「妹よ!」
練馬区にほど近い、かろうじて新宿区と呼べる場所に建つ一軒家に、大仰な客が姿を見せた朝。
各世界代行者の手には、目一杯のおもちゃ、沢山のお菓子、そして「オルド招待券」という謎の封書。
「帰りたまえ」
この一軒家の家主である男の声がした。
おもちゃに、お菓子に、オルド招待券にと、謎の貢ぎ物を前にきょとんとしている幼子を抱っこしている男は。
テスカトリポカは。
「帰りたまえ」
「妹と過ごさせて下さい」
「帰りたまえ!!!! というか何故この家の住所を知っているのだね!? あと大勢で押しかけて来ない!! ご近所迷惑だよ!!」
誰よりも近所迷惑な大声で、来訪者三名を威嚇した。抱っこされている小さなサモナーは、不思議そうにハッピー○ーンを食べていた。
「叔父様ぁ! 戦争屋のもとに身を寄せるよりも、ルールメイカーズでお暮らし下さい!」
甥が増えた。
「何故増えるのだね!?」
「兄様!! 幼い兄様がいらっしゃると聞いて!」
「お姉ちゃんとして弟の近況を聞くのは当然のこと! 良い子にしてる? 好き嫌いはない?」
「多いよ!!」
六名もの世界代行者が押しかけてきた一軒家の玄関。扉が壊れそうである。
あまりの人口密度に幼いサモナーはテスカトリポカにしがみついたし、酸欠を起こしたテムジンは倒れそうになった。
「で。なんの用だね、君達」
方や、インベイダーズとインベイダーズとインベイダーズ。もう一方はルールメイカーズとルールメイカーズとルールメイカーズ。
真の三大ギルドの世界代行者が顔を合わせたテスカトリポカ宅。こんな所で真の三大ギルドが相まみえるな。他にすることがあるだろう。
そんなツッコミもどこ吹く風で、テスカトリポカからの問いに答える男がいた。
「道化を傍に置くは皇帝である余の、当然の権利であろうが! 道化を余に差し出せ!」
ペルーンである。
「待て、我が同盟者よ……! 盟友(アンダ)が幼ければ、我を裏切る心配もない筈であろう……今こそアンダを迎える時!」
テムジンである。
「妹を保護してくれてありがとうございます、幼いとお世話も大変でしょう? これからは僕が責任を持って妹に尽くしますので、どうかお譲りを」
フッキである。
インベイダーズの面々が各自好き勝手に主張する中、口を開いたのはルールメイカーズの彼だ。
「お待ち下さい。叔父様がそれを望んでいるというのですか? 叔父様が真に望まれない限り、物のように受け渡す事など許されませんよ」
ホルスは胸を張って主張した。その視線は、テスカトリポカの膝の上でアンパン○ンチョコレートを頬張るサモナーに注がれている。
「兄様? ルールメイカーズに起こし下さいますよね? 兄様はこのミカイールと共にあって下さいますよね?」
「幼子に縋るように問いかけるの、やめてくれんかね、君ィ」
普段は騒がしく振る舞う方であるテスカトリポカが、ものすごく静かに、じっとりとした目でミカイールを見ている。珍しいこともあるものだ。
明日はきっと雪が降るだろう。
そんな事は置いておいて。
突如として始まった親権争いは、テスカトリポカとサモナーを放ったらかしにして、インベイダーズ対ルールメイカーズの口論のようなものに成り果てていた。
誰がサモナーを育てるのに相応しいか。
誰が最もサモナーへの教育に貢献できるか。
テスカトリポカは、端末を操作する。
そして
「……もしもし、同盟者? 暇かね? ちょぉっと出てきてくれまいかね、今てんやわんやのシッチャカメッチャカで」
バロールに連絡を入れていた。
説明を省きやがるんじゃねえ、と、電話口で苦言を呈されていた。
それはそうである。
「何のサミットだ、これは」
テスカトリポカ宅に到着したバロールがツッコミの声を上げる。仕方のないことだ。世界代行者達がみちみちに集まっているのだから。
皆、思い思いのやり方でサモナーに関わろうとしていた。皆が皆、猫なで声に近かった。
若干、気持ち悪い。
「道化よ、歌を下賜してやろう」
先陣を切ってペルーンがカラオケマイクを取り出した。何処から出したのだという視線も何のその、彼はマイクを握りしめ、意気揚々と歌う。
ペルーン最高、キーテジの皇帝ペルーン、おおペルーン、我らが代行者、誇り高き男、その名もペルーン、ウーラー。
「うーらー?」
「きょうだい、真似しちゃいけないぞう?」
ペルーンリサイタルに他の代行者たちが眉をひそめる。小さなサモナーは興味深そうに首を傾げている。見ちゃいけません、とでも言うようにテスカトリポカが幼いサモナーの目を塞ぐ。
「新春隠し芸大会ならよそでやりやがれ」
バロールの冷静な声がただ響いた。
ペルーンはガハハと笑っていたが。
目一杯のおもちゃとお菓子を与えられた小さなサモナーは、興味津々でそれらを眺めて、それからテスカトリポカの方を見る。
普段、こんなにいっぺんに与えられた事がないから、もらってもいいのか、遊んでもいいのかと、テスカトリポカにお伺いを立てているようだった。
「なんて可哀想な妹でしょう……保護者の顔色を伺って、自由に遊べないだなんて」
「誤解を招く言い方はやめたまえよ、君ィ。捧げてばかりだと教育に悪いと言われているのだよ」
フッキの煽るような言葉に、喧嘩ならば買う、と言わんばかりにテスカトリポカが返す。
おそらくシンノウに釘を刺されているから、好きに買い与える事ができないのだろう。
「弟が元気そうで良かった……お姉ちゃん、それだけで充分……あ、お風呂には何時に入れています? おやつはオーガニック? それとも市販の健康的なお菓子? お昼寝の時間はちゃんと設けているかしら? 言葉の習得に遅れはない?」
「それだけで充分と言った割にグイグイ来るね」
アマテラスの質問攻めに次ぐ質問攻め。
アマテラスが持ってきたのだろうポンデライオ○のぬいぐるみを気に入ったのか、幼いサモナーが、きゃあ、と声をあげて抱きしめる。
それを眺めながらテスカトリポカがツッコめば、アマテラスもサモナーを眺めながら返した。
「いずれ我が家に迎える日のために、知識のすり合わせをしておかなければと」
「怖い怖い怖い」
「兄様!」
「叔父様!」
「妹よ!」
「アンダよ!」
迫りくる四人に、サモナーはてちてちと逃げる。テスカトリポカの陰に隠れ、バロールのズボンをキュッと握る。
人見知りをする年頃の子にとって、急に沢山の来客があったのは、やはりストレスだったらしい。
「妹よ、少しでいいです、少しだけでいいですから……抱っこを、させてくれませんか?」
甘い声音でフッキが頼み込む。
「変な事はしませんから……家に連れて帰るだけですから……」
「二言目の時点で充分変な事しようとしてないかね、このホウライの人」
「さあ、妹よ、こちらにおいでなさい! お兄ちゃんが愛してあげますよぉ!」
「頬を赤らめて興奮するのをやめたまえよ!」
自称兄と自称きょうだいが争う。
大人の無様な戦いを見ていた幼いサモナーが、バロールにしがみつきながら、息を吸い込んだ。
「おにわちゃぁん! たしけてぇ!」
カンッ! という干渉音。
溢れ出る光。
リビングに現れる、額に傷を持つ青年。
「どうした、主様……おい本当にどうした、何だこの状況」
「おにわちゃぁん!」
呆然とするオニワカに、サモナーが抱きつく。
「増えた……!! 人口密度が上がった……!!」
テスカトリポカの、半笑いになったツッコミが、虚しく宙を舞う。
「主様よぉ、主様は誰と暮らしてえんだ。話はそれからじゃねえのか」
オニワカに至極もっともな言葉を投げかけられたサモナーは、事の大きさを理解しているのかいないのか、オニワカの膝の上でココナ○ツサブレを食べている。フッキが気を回して買ってきてくれた市販品である。
「しゃも、てしゅかがいい」
「だとよ、解散」
オニワカの淡々としたセリフ。それに言葉を詰まらせる来客たち。オニワカは、主を見た。
自分のあぐらの中央に、ちょこなんと座って、時々お菓子のお裾分けをくれる主を。
穢れを知らない幼子が、汚れを知っている男の足の上で、リラックスしていた。
自分がどれだけ恐ろしい相手の膝の上にいるのか、いまいち理解していない……そんな印象を受ける。……恐ろしい男と、無垢な子供。オニワカの脳裏によぎったのは、いつかすれ違ったスーツ姿の鳥獣人と、カメラを首から下げた三つ編みの獣人少年の組み合わせ。
ドン、と呼ばれる鳥獣人が、パシャリパシャリと街中の写真を撮ってははしゃぐ少年に、慈しみの目を向けていた光景だ。
「……やっぱり、無垢な子供には敵わねえってこったな」
「ん?」
「何でもねえよ、主様。ほら、ほっぺたに食べかすついてんぞ?」
しゃも、てしゅかがいい。
その一言で、世界代行者達は今のところ、引き下がるようだった。本当に今のところであるが。
何かあればすぐにでも幼いサモナーを引き取りに来ると宣言した代行者達に、来なくていいよ、と眉間にシワを寄せるテスカトリポカである。
「ダイコクに言って警備を厚くせねばならんかね」
「あのオークショニアに連絡しやがる気か貴様」
「あれでいて優秀かつ有能なのだよ? 我が同盟者?」
残った大人達が何やら会話をしているのを聞き流しながら、オニワカはサモナーを抱き上げる。
小さな背中をポンポンと叩いてあやしていれば、お菓子を食べたあとの幼子は、抵抗することなくお昼寝タイムと相成った。
幼いサモナーが、はふ、と小さくあくびをする。
終
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