残念ながら
「お待たせ、サモナー」
冷えた風が吹く街中 。学校指定のコートと、そのコートに合わせて選んだのだろうマフラーを着用して、学級委員長がやって来るのが見えた。
今度の学力テストのために参考書を買いたい、というサモナーのリクエストに応えようと、有力候補を調べ上げてメモしたものを手に、やや緊張の面持ちだ。
「シロウ、手袋は?」
ニット帽を被り、手袋をつけているサモナーが問いかける。
本居シロウはそこで緊張を解いた。やや苦笑して返す。
「マフラーを巻いて安心してしまった。手袋もしてくればよかったな」
「じゃあ、自分の手袋を半分あげるよ」
右手の手袋を外し、シロウの右手にはめる。シロウの左手とサモナーの右手が肌寒く晒されることになったが、サモナーは構わない様子だった。
学級委員長として何か言おうと、本居シロウが口を開きかけた、その時。
ふと、学級委員長の左手が、温もりに包まれた。
「……寒いほうの手は、こうして繋いで、温めあおう……だめ?」
照れたのか、寒いのか。耳まで赤くしながら、サモナーが笑う。
シロウと目が合うと、気恥ずかしそうに微笑んで、少し、手を握る力を強めた。
なんだか、鼓動がうるさい。本居シロウは、そう感じた。
体の内側から、熱がせり上がってくるような。
勿論いいよ、という一言が、サモナーの体温をさらに上げたような気がした。
繋いだ手が熱くなり、溶けてゆく錯覚に陥った。
「テスカ、こっち。早く来て。はーやーく」
別の日、別の場所。
サモナーは別の相手と待ち合わせをしていた。
相手はウォーモンガーズの最前線指揮官である。全体的にダークカラーで揃えたコーディネートは大人っぽかったし、学級委員長と比べると洗練されていた。
だが、それを見たサモナーの反応は、はっきり言って塩だった。
「急がずとも大学ノートは売り切れんよ、きょうだい」
「いーや、売り切れる。テスカがゆっくり歩くせいで売り切れる。絶対」
「なんだね、その理屈は?」
参考書を入手したはいいが、使っているノートが終わりかけていた。
何度もシロウに付き合ってもらうのは気が引ける。
そんな理由で呼び出されたのが世界代行者だ。どういう神経してるんだ。
テスカトリポカがどういった神なのかなど微塵も気にしていないサモナーは、ジャガー獣人の手をしっかりと握って早足で歩いていた。
「勉強道具一式買ったあと、ス○バでデートしようよ、テスカ」
「君ね、本気でフラペチーノを制覇する気かね?」
「本気だよ。新作出ちゃったから急いで飲まないと」
デートなんて言っておきながら真顔のサモナーに、テスカトリポカはやや苦い表情を作った。フラペチーノをおごる羽目になったことも含めて、複雑な思いだ。
あからさまに不機嫌そうな最前線指揮官に、サモナーが眉をひそめた。
「何?」
「なぜ君のところの参謀と手を繋ぐときは乙女のように恥じ入るのに、私とはそう、何でもないような顔をするのだね」
パチクリと瞬きを繰り返すサモナーは、一拍置いてから口を開いた。
「何でもないもん」
「それが! 気に食わないと! 言っているのだが!?」
「知らないよ、落ち着けきょうだい」
「身内扱いしてくれるのは、ありがとう! しかしね、君ィ。もう少し照れたっていいだろう? 私は、美と誘惑の化身なのだよ?」
「美?」
「そこに! 引っかかるのは! やめ給えよ!」
街中で大声がよく響く。
まるで漫才のようなきょうだい喧嘩に、周囲の通行人が声を潜めて笑う。
「私だって! 君が照れるに相応しい男だと思うがね?」
「無茶振りするなよ」
「無茶振り!? はあ!? どこがだね! どこがだね、きょうだい!」
ああ、はいはい、うるさい! とサモナーの声も響く。
その声に、ピタリと足を止める人物がいた。
本居シロウだった。
「……いいなあ」
シロウは呟く。
しっかりと手を繋いで、遠慮なくものを言い合うサモナーとテスカトリポカを見送りながら、まるで、欲しい物を手に入れられなかった子供のように。
「俺にも遠慮なく接してくれていいのにな……」
「私にも照れてくれたっていいのだよ!?」
一人の呟きと、一人の叫びが、街に吹く風にさらわれた。
どちらも叶いそうにない。
冷えた風が吹く
今度の学力テストのために参考書を買いたい、というサモナーのリクエストに応えようと、有力候補を調べ上げてメモしたものを手に、やや緊張の面持ちだ。
「シロウ、手袋は?」
ニット帽を被り、手袋をつけているサモナーが問いかける。
本居シロウはそこで緊張を解いた。やや苦笑して返す。
「マフラーを巻いて安心してしまった。手袋もしてくればよかったな」
「じゃあ、自分の手袋を半分あげるよ」
右手の手袋を外し、シロウの右手にはめる。シロウの左手とサモナーの右手が肌寒く晒されることになったが、サモナーは構わない様子だった。
学級委員長として何か言おうと、本居シロウが口を開きかけた、その時。
ふと、学級委員長の左手が、温もりに包まれた。
「……寒いほうの手は、こうして繋いで、温めあおう……だめ?」
照れたのか、寒いのか。耳まで赤くしながら、サモナーが笑う。
シロウと目が合うと、気恥ずかしそうに微笑んで、少し、手を握る力を強めた。
なんだか、鼓動がうるさい。本居シロウは、そう感じた。
体の内側から、熱がせり上がってくるような。
勿論いいよ、という一言が、サモナーの体温をさらに上げたような気がした。
繋いだ手が熱くなり、溶けてゆく錯覚に陥った。
「テスカ、こっち。早く来て。はーやーく」
別の日、別の場所。
サモナーは別の相手と待ち合わせをしていた。
相手はウォーモンガーズの最前線指揮官である。全体的にダークカラーで揃えたコーディネートは大人っぽかったし、学級委員長と比べると洗練されていた。
だが、それを見たサモナーの反応は、はっきり言って塩だった。
「急がずとも大学ノートは売り切れんよ、きょうだい」
「いーや、売り切れる。テスカがゆっくり歩くせいで売り切れる。絶対」
「なんだね、その理屈は?」
参考書を入手したはいいが、使っているノートが終わりかけていた。
何度もシロウに付き合ってもらうのは気が引ける。
そんな理由で呼び出されたのが世界代行者だ。どういう神経してるんだ。
テスカトリポカがどういった神なのかなど微塵も気にしていないサモナーは、ジャガー獣人の手をしっかりと握って早足で歩いていた。
「勉強道具一式買ったあと、ス○バでデートしようよ、テスカ」
「君ね、本気でフラペチーノを制覇する気かね?」
「本気だよ。新作出ちゃったから急いで飲まないと」
デートなんて言っておきながら真顔のサモナーに、テスカトリポカはやや苦い表情を作った。フラペチーノをおごる羽目になったことも含めて、複雑な思いだ。
あからさまに不機嫌そうな最前線指揮官に、サモナーが眉をひそめた。
「何?」
「なぜ君のところの参謀と手を繋ぐときは乙女のように恥じ入るのに、私とはそう、何でもないような顔をするのだね」
パチクリと瞬きを繰り返すサモナーは、一拍置いてから口を開いた。
「何でもないもん」
「それが! 気に食わないと! 言っているのだが!?」
「知らないよ、落ち着けきょうだい」
「身内扱いしてくれるのは、ありがとう! しかしね、君ィ。もう少し照れたっていいだろう? 私は、美と誘惑の化身なのだよ?」
「美?」
「そこに! 引っかかるのは! やめ給えよ!」
街中で大声がよく響く。
まるで漫才のようなきょうだい喧嘩に、周囲の通行人が声を潜めて笑う。
「私だって! 君が照れるに相応しい男だと思うがね?」
「無茶振りするなよ」
「無茶振り!? はあ!? どこがだね! どこがだね、きょうだい!」
ああ、はいはい、うるさい! とサモナーの声も響く。
その声に、ピタリと足を止める人物がいた。
本居シロウだった。
「……いいなあ」
シロウは呟く。
しっかりと手を繋いで、遠慮なくものを言い合うサモナーとテスカトリポカを見送りながら、まるで、欲しい物を手に入れられなかった子供のように。
「俺にも遠慮なく接してくれていいのにな……」
「私にも照れてくれたっていいのだよ!?」
一人の呟きと、一人の叫びが、街に吹く風にさらわれた。
どちらも叶いそうにない。
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