我々のだぞと神は言い
ゴングの音が鳴り響く。
オンブレティグレが勝利する。
華麗なアクロバットで悪役を翻弄し、見事な技を決めてリングに沈めたのである。
観客は沸いた。
ヒーローの勝利に酔いしれた。
オンブレティグレ! オンブレティグレ!!と彼の名を呼ぶ声があちらこちらから響く。
オンブレティグレはそれに片腕を挙げた。
観客からの応援に、応えて見せた。
わっ! と観客が再び沸いた。
客の歓声を背に、オンブレティグレは控室に戻っていく。ゆっくりと、堂々とした姿で、勝利の余韻を感じさせる見事な退場だった。
控室に居たのはサモナーだ。
サモナーは、オンブレティグレの活躍を、ずっと備え付けのモニターで見ていた。
「戻ったぜ、アミーゴ!」
そう言って、オンブレティグレが快活に笑う。 笑う。
そんな彼の手首を、サモナーが遠慮なく掴んだ。控室を出るサモナーに引っ張られるようにして、オンプレティグレもまた廊下に出て行った。
「アミーゴ? どうしたんだい?」
「左足首」
不思議そうに訊ねるオンブレティグレに、サモナーはそれだけ返す。オンブレティグレの目がやや見開かれ、サモナーを見つめた。
サモナーは彼の手を引きながら歩く。振り返らずに言う。
「さっき、無茶な着地して捻ったでしょ」
その指摘に、オンブレティグレは苦笑した。
よくみてらっしゃる、と。
連れてこられたのは、やっぱりというか、医務室で、シンノウが座って待っていた。
「あの着地は、流石にどうかと思うね」
オンブレティグレの姿を確認した途端、シンノウは開口一番そう告げる。
「体が資本のルチャドールだってのに、その体を壊す奴がどこに居やがるんだっての」
「すまない、ドクターシンノウ。盛り上がっちまってさ、観客も、オレも」
応急手当てのテーピングを施すシンノウに、いたずらっぽく笑うルチャドールのヒーローが居た。
そんな無茶を笑って許せるドクターではない。 処置を終えた足首をスパン!! と叩き、痛がる彼を見て「そら見ろ、無理は禁物だ」と返した。
「そら見ろって……ドクターシンノウが叩かなければ痛くなかったさ!」
「叩かれるような事すんなって言ってんだ!」
軽い説教が飛んだ。
医務室から出たオンブレティグレを待っていたのは、オンブレティグレにとってのヒーローだった。漆黒の翼で彼を包み、負傷していることを周囲に悟らせまいと気を回す、エルドラドのスペルエストレージャである。
テスカトリポカはオンブレティグレの柔らかくボリュームのある髪を、クシャリと撫で回す。
そうして、彼の耳元で問いかけた。
「あの苦戦は、フリではなかったように思うがね……やはり、きょうだいの見た通り、無理な着地が祟ったかね?」
「絶対そうだよ」
サモナーの声がテスカトリポカの考察を肯定する。オンブレティグレは、苦笑いをこぼした。
「すまない、スペルエストレージャ」
二人とも、彼の事をよく見ている。
試合会場を後にするため出入り口から出ようとすれば、待っているのはマスコミだ。
オンブレティグレまたも勝利! とでも、記事を書きたいのだろう。彼らはわっと群がるようにオンブレティグレを取り囲……
めなかった。
「はいはい、距離の離断」
「ナイスだよ、きょうだい」
オンブレティグレとテスカトリポカの手を引きながら、サモナーが数ある離断のうち、距離を選択したのだ。取材陣を置いてけぼりにして、彼らは用意された車へと乗り込んでいった。
運転手付きの車の中、座り心地の良い座席に腰掛けて、備え付けのテーブルに広げられるのは教科書とノート、そして数枚のプリント。
「移動時間で少しでも課題を片付けておきたまえよ。お前は忙しいのだから、時間の有効活用をしなければなるまいよ」
そんなことを言いつつ、オンブレティグレが課題で詰まっていたらアドバイスを送り、この公式はお前が欠席している間に出たから馴染みがないだろうね、などと、苦戦する理由に共感を示すテスカトリポカだ。
サモナーは彼らが課題を片付けている間に、オンブレティグレの次の仕事を確認していた。
次はたしか、ルチャのポスター撮影のためにスタジオへ向かう予定である。
「撮影の時間っていつだっけ? 二時間くらい後だよね?」
「え? ああ、そうだな、アミーゴ。少し余裕があるぜ。その間に課題を終わらせなくっちゃな!」
「じゃあ、それ終わったらハンバーガー買ってきてあげようか。ちょっとゆっくりしようよ」
スタジオに入るのは撮影の二十分ほど前で良いだろうと検討をつけ、サモナーが提案する。
いいね、と言ったのは、テスカトリポカの方だった。疲れているだろうルチャのヒーローのためか、ポテトはLサイズを頼むよ、などと言う。
「……なんか、やけに世話焼かれてるな、オレ」
照れたように笑うオンブレティグレに
「不満かね?」
「文句ある?」
サモナーとテスカトリポカが、悪い笑みを浮かべて問いかけた。
「ナワルをそばに置いて何が悪いと言うのだね」
「友を甘やかして何が悪いんだ」
口々にオンブレティグレを構う理由を述べた二人は、ジャガーの学生を見て、そうだろう? と同意を求めてくる始末だ。
そんな、独占欲のようなものに。
くすぐったくなった彼が、声を上げて笑った。
オンブレティグレが勝利する。
華麗なアクロバットで悪役を翻弄し、見事な技を決めてリングに沈めたのである。
観客は沸いた。
ヒーローの勝利に酔いしれた。
オンブレティグレ! オンブレティグレ!!と彼の名を呼ぶ声があちらこちらから響く。
オンブレティグレはそれに片腕を挙げた。
観客からの応援に、応えて見せた。
わっ! と観客が再び沸いた。
客の歓声を背に、オンブレティグレは控室に戻っていく。ゆっくりと、堂々とした姿で、勝利の余韻を感じさせる見事な退場だった。
控室に居たのはサモナーだ。
サモナーは、オンブレティグレの活躍を、ずっと備え付けのモニターで見ていた。
「戻ったぜ、アミーゴ!」
そう言って、オンブレティグレが快活に笑う。 笑う。
そんな彼の手首を、サモナーが遠慮なく掴んだ。控室を出るサモナーに引っ張られるようにして、オンプレティグレもまた廊下に出て行った。
「アミーゴ? どうしたんだい?」
「左足首」
不思議そうに訊ねるオンブレティグレに、サモナーはそれだけ返す。オンブレティグレの目がやや見開かれ、サモナーを見つめた。
サモナーは彼の手を引きながら歩く。振り返らずに言う。
「さっき、無茶な着地して捻ったでしょ」
その指摘に、オンブレティグレは苦笑した。
よくみてらっしゃる、と。
連れてこられたのは、やっぱりというか、医務室で、シンノウが座って待っていた。
「あの着地は、流石にどうかと思うね」
オンブレティグレの姿を確認した途端、シンノウは開口一番そう告げる。
「体が資本のルチャドールだってのに、その体を壊す奴がどこに居やがるんだっての」
「すまない、ドクターシンノウ。盛り上がっちまってさ、観客も、オレも」
応急手当てのテーピングを施すシンノウに、いたずらっぽく笑うルチャドールのヒーローが居た。
そんな無茶を笑って許せるドクターではない。 処置を終えた足首をスパン!! と叩き、痛がる彼を見て「そら見ろ、無理は禁物だ」と返した。
「そら見ろって……ドクターシンノウが叩かなければ痛くなかったさ!」
「叩かれるような事すんなって言ってんだ!」
軽い説教が飛んだ。
医務室から出たオンブレティグレを待っていたのは、オンブレティグレにとってのヒーローだった。漆黒の翼で彼を包み、負傷していることを周囲に悟らせまいと気を回す、エルドラドのスペルエストレージャである。
テスカトリポカはオンブレティグレの柔らかくボリュームのある髪を、クシャリと撫で回す。
そうして、彼の耳元で問いかけた。
「あの苦戦は、フリではなかったように思うがね……やはり、きょうだいの見た通り、無理な着地が祟ったかね?」
「絶対そうだよ」
サモナーの声がテスカトリポカの考察を肯定する。オンブレティグレは、苦笑いをこぼした。
「すまない、スペルエストレージャ」
二人とも、彼の事をよく見ている。
試合会場を後にするため出入り口から出ようとすれば、待っているのはマスコミだ。
オンブレティグレまたも勝利! とでも、記事を書きたいのだろう。彼らはわっと群がるようにオンブレティグレを取り囲……
めなかった。
「はいはい、距離の離断」
「ナイスだよ、きょうだい」
オンブレティグレとテスカトリポカの手を引きながら、サモナーが数ある離断のうち、距離を選択したのだ。取材陣を置いてけぼりにして、彼らは用意された車へと乗り込んでいった。
運転手付きの車の中、座り心地の良い座席に腰掛けて、備え付けのテーブルに広げられるのは教科書とノート、そして数枚のプリント。
「移動時間で少しでも課題を片付けておきたまえよ。お前は忙しいのだから、時間の有効活用をしなければなるまいよ」
そんなことを言いつつ、オンブレティグレが課題で詰まっていたらアドバイスを送り、この公式はお前が欠席している間に出たから馴染みがないだろうね、などと、苦戦する理由に共感を示すテスカトリポカだ。
サモナーは彼らが課題を片付けている間に、オンブレティグレの次の仕事を確認していた。
次はたしか、ルチャのポスター撮影のためにスタジオへ向かう予定である。
「撮影の時間っていつだっけ? 二時間くらい後だよね?」
「え? ああ、そうだな、アミーゴ。少し余裕があるぜ。その間に課題を終わらせなくっちゃな!」
「じゃあ、それ終わったらハンバーガー買ってきてあげようか。ちょっとゆっくりしようよ」
スタジオに入るのは撮影の二十分ほど前で良いだろうと検討をつけ、サモナーが提案する。
いいね、と言ったのは、テスカトリポカの方だった。疲れているだろうルチャのヒーローのためか、ポテトはLサイズを頼むよ、などと言う。
「……なんか、やけに世話焼かれてるな、オレ」
照れたように笑うオンブレティグレに
「不満かね?」
「文句ある?」
サモナーとテスカトリポカが、悪い笑みを浮かべて問いかけた。
「ナワルをそばに置いて何が悪いと言うのだね」
「友を甘やかして何が悪いんだ」
口々にオンブレティグレを構う理由を述べた二人は、ジャガーの学生を見て、そうだろう? と同意を求めてくる始末だ。
そんな、独占欲のようなものに。
くすぐったくなった彼が、声を上げて笑った。
1/1ページ
