明日を駆ける我が孫へ

 世界代行者なんていうのは、世界のしわ寄せを最も食らう存在だ。少なくとも俺はそう思う。
 この世のどこに自分の孫と殺し合いたい祖父がいやがるっていうんだ。正気の沙汰じゃねえ。
 あのバカ猫野郎にそそのかされたように、俺は、孫と殺し合う以外の選択肢を、一度でいいから持ちたかったのかもしれねえ。

 初対面の孫は眩しかった。眼帯をしていない方の目が焼けるかと思うほど、孫は光の中にいた。
 追放者としての輝きじゃあない。
 孫の……サモナーの、等身大の子供らしさが、俺にとって眩しかったのだ。高校生だとかいう、道半ばの若さが輝いて見えた。そういう事だ。
 ……この子が、余を倒すのか、と。
 ふと、運命の残酷さをも感じた、
 実際、手にかけてしまった事がある。呆気なく事切れた孫を両手で包んで、俺はみっともなく叫んだ。時の|大逆流《さかしま》が何だ。
 己の罪深さに震えて、監獄でもある学園に引きこもるようになったほどだ。

 サモナーは、争わなくて良いなら争わぬ、平凡な感性の持ち主だった。
 ただ、俺のそばに居るならば、嫌でも争いに巻き込まれる事になる。戦いのセンスはあるクソ孫だった。いつかその剣の切っ先を余に向けて、余の後ろに広がる無限の未来に突き進んでくれるならば、それが本望だと思ってしまった。
 孫は俺をじいじと呼ぶ。戦いを終えると決まってそばに来やがる。おやつだ小遣いだとねだりに来るのだ。それが堪らなく可愛かった。
 雑談をねだられて、この老いぼれの何が知りてえんだと笑ったことがあったが、孫は、どうしても、と引き下がらなかった。
 大好きなじいじと話したい、だとよ。
 可愛い面があるだろう。
 それはそれは可愛くて、目に入れても痛くないとはこの事かと、つい甘ったるい笑みを浮かべてしまったくらいだ。魔性の孫だな、あれは。

 よく喧嘩もした。下らねえ事で揉めた。
 ファミレスでどっちが支払うかなんていう、なら割り勘にすりゃいいじゃねえかと、今になって思う諍いもした。孫はムキになって食らいついて来やがったし、俺も引き下がらず意地を張った。
 そうしたら孫が言いやがる。
 テスカトリポカを呼んで奢ってもらおう、と。
 あまりに馬鹿馬鹿しい名案に笑いを堪えたが、孫が電話した相手……テスカトリポカが、「嫌だよ!」と即答して切りやがったんで、俺は盛大に笑っちまった。
 結局、どっちが払ったんだったかな。
 じゃんけんで孫が勝ったんだったか。
 どうでもいい勝負では、孫にも勝ち目があるってことだ。俺は奢られたんだったな。

 敵対したり、仲良く振る舞ったり、まあ忙しいループの数々だったと、我ながら思う。
 孫を閉じこめて永遠に共にあろうとした事もあった。クソジジィと呼ばれたが。
 裸の王の余と、その王を打ち倒さんとする、囚われの剣士である孫。孫の意思で俺と対峙したあの瞬間を、俺は忘れないだろう。
 忘れてなるものかよ。

 孫よ。この、ティルナノグの世界代行者、巨人の王、バロールの孫よ。東京で初めて出会った、愛しい孫よ。
 できる事なら、ティルナノグに戻ってくるな。
 二度と戻ってくるな。
 貴様がティルナノグから居なくなったと知った時、余は……いや、俺は、ため息をついたものだ。
 孫を故郷の機構の一部にしなくて済むことに、大きなため息をついたのだ。

 なあ、サモナーよ。
 貴様が前に進むその時が来たら、その時は。
 このジジイ、いくらでも力を貸してやるからな。
 生きろ。生きろよ、可愛いクソ孫よ。

 俺なりの守り方で、貴様に未来をくれてやる。
1/1ページ
    拍手