マブダチ

 紙袋を提げたサモナーが、次の店を探している時のこと。二人分の影がサモナーに近づいた。
 二人の影はサモナーの背後から忍び寄る。
 そうして、声をかけたのだ。

「そこのかわええご主人はん」
「ぶへへ、荷物持ちはいらねえか?」

 驚いて振り向いたサモナーが、二人の姿を確認して破顔する。テュポーンとゴウリョウが、ニッカリと笑ってこちらを見ていた。
「二人も買い物に来たの?」
 そう訊ねるサモナーに
「いや、ナンパだ、いつも通りな」
 肩をすくめてゴウリョウが答えた。
 今日も上手くいかなかったらしい。
「自分はスポーツウェアを買いに来たんだ。体力つけようと思ってさ」
 サモナーが持ち上げる紙袋には、スポーツ専門店のロゴが入っている。
 嫌やわぁ、ご主人はん、もっと体力つけてまうん? とテュポーンが漏らした感想に、サモナーは笑って力こぶを作る真似をした。
 あとはランニングシューズを買うだけだ。
「靴はたしか、こっちの店。行こう」
 サモナーが二人を誘い、二人は当然のようについて行く。本当に荷物を持ってくれるテュポーンと、安いだけで選ぶなよ、とアドバイスしてくれるゴウリョウが、頼もしかった。

 ランニングシューズはあっさりと購入できた。
 ゴウリョウが見立てて良い物を買えたのだ。
「ありがとう、ゴウリョウ」
 サモナーに礼を言われるが、ゴウリョウは複雑そうな表情を浮かべるだけだ。
「これで金も出してやれたら格好良かったんだがなあ……ナンパ連敗で、こいつとヤケ食いしちまった後でよ……」
 こいつ。
 つまり、テュポーン。
 お高めのファストフード店で腹いっぱい食べたのだという二人は、ナンパが成功していればこんなことには、などと言い出した。
 それに笑うサモナーである。

 笑顔のサモナーが、休憩先を探している時のこと。二人分の影がサモナーに近づいた。
 二人の影はサモナーの背後から忍び寄る。
 そうして、声をかけたのだ。

「もしかして、休憩したいの? なら、いい場所知ってるよ、俺達」
「今から三人で行かない? ご飯奢るからさ」

 本物のナンパだ。
 きょとんとしたサモナーが、ナンパしてきた二人組を見る。二人組はサモナーの肩に腕を回し、逃がすまいとしていた。
 力を込めて引っ張られる。
 サモナーの体が傾いた、その時だった。
「待ちぃや、どこ連れてく気ぃやねん」
「おう、兄ちゃん達、そりゃちょいとばかし反則じゃねえか? 俺らのダチに何か用かよ?」
 サモナーが、引き剥がされた。
 テュポーンとゴウリョウが、自分たちの背に隠すように、サモナーの前に出る。
 大柄な転光生たちに見据えられたナンパ二人組は、その威圧感に戸惑っていた。
 サモナーが、ようやく笑った。
 そして、ナンパをしてきた二人組に向かって、ごめんね、と謝罪すると、テュポーンとゴウリョウの間に体を滑り込ませ、彼らと腕を組んだ。

「これからマブダチと遊びに行くから!」

 目を丸くしたのはナンパ二人組だけではない。テュポーンも、ゴウリョウも、サモナーの屈託のない笑顔に驚いていた。
 退散したナンパたちを見送る。
 それから、ゴウリョウが口を開く。
「マブダチなんてセリフ、どこで覚えてきたんだよ? 高校生らしいといやあ、らしいがよ」
「嫌や照れるわぁ……ご主人はんと仲良しやん」
 テュポーンも気恥ずかしそうに続いた。
 サモナーは得意げである。
 そして得意げなまま、二人に言うのだ。
「遊びに行こうよ! 買い物に付き合ってくれたお礼に、マブダチの行きたいところに付き合うからさ! どこに行く?」
 ゴウリョウも、テュポーンも、お互いに顔を見合わせた。そうして、照れたように笑い合い、サモナーに向き直った。

「門限までには帰してやるよ、ぶへへ!」
「せやでぇ、ご主人はん! なんせ、マブダチやさかいな!」
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