夢見が悪く
この光景は、何度も見た。ああ、夢だ。
同じ夢を、また見たのだ。
自らを焼き払うケツァルコアトルが、挑発的な視線をこちらへ向けて、消え去っていく。
ケツァルコアトル、と名を呼んだはずの声は出ず、ただ置いていかれて終わり。
そんな、何度も見た夢だった。
まるで考え事をやめて目を開けたかのように、静かにテスカトリポカは意識を覚醒させる。
夢を見るなど久しぶりで、相変わらずワンパターンな夢である事にため息が出た。
そして、もう一度ため息をつく。
ケツァルコアトル。
君はもう、本当にいないのだから。
ああ、嫌な日だ。
テスカトリポカは独りごちる。
この夢を見る日は決まって、空回りするから。
「どうした?」
不可解そうに訊ねてくるのは、神宿学園の高校生。テスカトリポカの顔を覗き込み、不思議そうに首を傾げている。
「惨敗じゃないか、今日のテスカ」
いつも通り、サモナーとアプリバトルをした。……した、はず、だった。
結果は一勝三敗で、サモナーの勝ち越し。それでも一勝はしているのが、テスカトリポカのすごいところではあった。
心ここにあらず。
そんなテスカトリポカに、サモナーが言う。
「めちゃくちゃ気が散っている、ように見えるけど……何かあったの?」
それに、太陽神は苦笑いをこぼした。
サモナーは、こういうところが鋭いのだ。
「君が……いや、ケツァルコアトルが、燃えて、居なくなる夢を……久方ぶりに見たのだよ」
どれだけ走っても追いつかない。声を荒らげても届かない。ただケツァルコアトルが挑発的な笑みを浮かべて、消えていく夢。
嫌だ、行かないでくれ、と、夢の中で何度駄々をこねたことだろう。そんな自分を滑稽だとも思ったし、目を覚ましてケツァルコアトルの不在を確かめるたびに、心細くなる。
あと何回この夢を見ればいい。
あと何回この世界を繰り返せばいい。
さようならくらい言ってから消えてほしかった。じゃあな、でも、馬鹿、でも、何でも構わないから、何かを残してほしかった。
残ったのは、
呆然としている、自分だけ。
「というような夢でね。情けないことに、けっこう参っているのだよ、きょうだい」
仕方のないことだね、と笑うテスカトリポカ。
彼の手首を、ぐっ、と握ったのは、高校生。
「……蒲田に行くぞ」
サモナーは、笑いもせずにそう言った。
瞬きを数回、それから首を傾げるテスカトリポカに、サモナーは続けて言う。
「涙腺をつけてもらいに行くんだ。テスカ……お前は、泣いていい」
……。
…………。
間が……空いた。
テスカトリポカは、目を丸くして言葉を失っていた。サモナーの真剣な表情に、気圧されているようにも見えた。
それを
それを、君が言うのかね。
出て行った側が……言うのかね。
世界代行者の頭の中で、言葉がぐるぐると渦巻いて、外に出ることなくモヤになり、胸を苦しくさせる。今はもうない心臓が、押し潰されるかのような感覚だった。
分かっている。
サモナーは、ケツァルコアトルそのものではないと。、
そう見えて仕方ないけれど、サモナーはサモナーという一個人であるのだと、分かっている。
テスカトリポカは、文句を言いそうになる口をぐっと引き結ぶと、首を小さく横に振った。
「いいや……いいや、サモナー……涙腺はいらぬ……いらぬのだよ……私には」
絞り出した声が、サモナーの耳に届いた。
心配そうにこちらを見てくるサモナーに、苦笑いを浮かべたテスカトリポカが返す。
「涙を流すのは、最後の時でいい」
……嘘つき、と、サモナーが、小さく返した。
同じ夢を、また見たのだ。
自らを焼き払うケツァルコアトルが、挑発的な視線をこちらへ向けて、消え去っていく。
ケツァルコアトル、と名を呼んだはずの声は出ず、ただ置いていかれて終わり。
そんな、何度も見た夢だった。
まるで考え事をやめて目を開けたかのように、静かにテスカトリポカは意識を覚醒させる。
夢を見るなど久しぶりで、相変わらずワンパターンな夢である事にため息が出た。
そして、もう一度ため息をつく。
ケツァルコアトル。
君はもう、本当にいないのだから。
ああ、嫌な日だ。
テスカトリポカは独りごちる。
この夢を見る日は決まって、空回りするから。
「どうした?」
不可解そうに訊ねてくるのは、神宿学園の高校生。テスカトリポカの顔を覗き込み、不思議そうに首を傾げている。
「惨敗じゃないか、今日のテスカ」
いつも通り、サモナーとアプリバトルをした。……した、はず、だった。
結果は一勝三敗で、サモナーの勝ち越し。それでも一勝はしているのが、テスカトリポカのすごいところではあった。
心ここにあらず。
そんなテスカトリポカに、サモナーが言う。
「めちゃくちゃ気が散っている、ように見えるけど……何かあったの?」
それに、太陽神は苦笑いをこぼした。
サモナーは、こういうところが鋭いのだ。
「君が……いや、ケツァルコアトルが、燃えて、居なくなる夢を……久方ぶりに見たのだよ」
どれだけ走っても追いつかない。声を荒らげても届かない。ただケツァルコアトルが挑発的な笑みを浮かべて、消えていく夢。
嫌だ、行かないでくれ、と、夢の中で何度駄々をこねたことだろう。そんな自分を滑稽だとも思ったし、目を覚ましてケツァルコアトルの不在を確かめるたびに、心細くなる。
あと何回この夢を見ればいい。
あと何回この世界を繰り返せばいい。
さようならくらい言ってから消えてほしかった。じゃあな、でも、馬鹿、でも、何でも構わないから、何かを残してほしかった。
残ったのは、
呆然としている、自分だけ。
「というような夢でね。情けないことに、けっこう参っているのだよ、きょうだい」
仕方のないことだね、と笑うテスカトリポカ。
彼の手首を、ぐっ、と握ったのは、高校生。
「……蒲田に行くぞ」
サモナーは、笑いもせずにそう言った。
瞬きを数回、それから首を傾げるテスカトリポカに、サモナーは続けて言う。
「涙腺をつけてもらいに行くんだ。テスカ……お前は、泣いていい」
……。
…………。
間が……空いた。
テスカトリポカは、目を丸くして言葉を失っていた。サモナーの真剣な表情に、気圧されているようにも見えた。
それを
それを、君が言うのかね。
出て行った側が……言うのかね。
世界代行者の頭の中で、言葉がぐるぐると渦巻いて、外に出ることなくモヤになり、胸を苦しくさせる。今はもうない心臓が、押し潰されるかのような感覚だった。
分かっている。
サモナーは、ケツァルコアトルそのものではないと。、
そう見えて仕方ないけれど、サモナーはサモナーという一個人であるのだと、分かっている。
テスカトリポカは、文句を言いそうになる口をぐっと引き結ぶと、首を小さく横に振った。
「いいや……いいや、サモナー……涙腺はいらぬ……いらぬのだよ……私には」
絞り出した声が、サモナーの耳に届いた。
心配そうにこちらを見てくるサモナーに、苦笑いを浮かべたテスカトリポカが返す。
「涙を流すのは、最後の時でいい」
……嘘つき、と、サモナーが、小さく返した。
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