明日何して生きていく
半纏をまとってまん丸に着膨れしたイツァムナーが、炬燵にあたっている。部屋には暖房が効いていて、窓を開けなければ極楽そのものといったところだった。
窓の外ではサモナーとショロトルが遊んでいる。
雪。
一面の銀世界。
その中で無邪気に雪だるまなどを作るサモナーたちを、イツァムナーは「ようやるの」と眺めていた。
「イツァムナー先生の雪像作った!」
「あひゃひい! に、似てますぅ!」
誇らしげに見せるサモナーと、見せられて驚きの声を上げるショロトル。二人はキャッキャとはしゃぎ倒しながら、次はテスカトリポカの雪像でも作るか、などと会話している。
その、テスカトリポカはというと。
炬燵にあたりながら、ホットコーヒーをすすっていた。
雪合戦に移行して、雪玉を顔面にぶつけられているショロトルを見たり、いたずら成功と言わんばかりに笑っているサモナーを見たりしながら、ややぬるめに入れたコーヒーを少しずつ飲む。
時々、キャタキャタと笑い合う二人を見ては、「よくやるなあ」とイツァムナーと同じことを口にしていた。
「外に行かんのかね、テスカトリポカは」
笑みを浮かべながら、イツァムナーが問う。
「寒い」
それに対し、テスカトリポカは簡潔に返した。
サモナーが誘えばテスカトリポカとて外に出るだろうし勝負もするだろうが、いつものテンションを発揮できないくらい、寒かったし面倒だった。
はっはっは! とイツァムナーの笑い声が部屋に満ちた。
「犬は喜び庭駆け回り、猫はこたつで丸くなる、とは、このことか!」
「丸くなっているのは君なのだよ、きょうだい」
厚着のしすぎでまん丸に着膨れしているイツァムナーに、テスカトリポカが即座に返した。イツァムナーは愉快そうに笑うばかりだった。
サモナーの鼻の頭が赤い。耳も赤い。素手で雪玉を作っているから、指先も赤かった。
それでも動き回っているせいで、体温は高いらしい。サモナーは笑っていた。ショロトルに雪玉をぶつけて、ショロトルからも雪玉をぶつけられて、ケラケラと笑っていた。
テスカトリポカの雪像は、ぬいぐるみバージョンで作られていた。身長五〇センチメートルという基準をしっかり守った力作だ。
「いくよ、ショロトル!」
「わわっ! わじゃひぃ! 雪玉を連発するのはやめてくださいぃッ!」
おりゃおりゃおりゃ、と声を上げて遊び倒すサモナーと、うわうわうわ、と逃げ回るショロトルは、どちらも汗ばんでいて。
どちらも子供のように笑っていた。
ただいま、と玄関から二人が家に戻ってきたのは、しばらく経ってから。
服についた雪をパンパンと叩いて落としながら、くしゃみをしたり、家の暖房をありがたがったり、思い思いのリアクションを取っている。
「テスカ!」
サモナーが玄関から、リビングに向かって大声を出した。
「今日、お鍋食べたくない?」
元気いっぱい響く声に、リビングで暖を取っていた大人二人は思案する。鍋ねえ……。
冷蔵庫を見てみる。野菜が不足している。買いに出るしかなさそうだ。
「財布を預けるから君たちで買ってきたまえよ! 材料を!」
リビングから玄関に向かって、今度はテスカトリポカが声を張って返した。
動け。
横着していないで移動すればいいものを、サモナーもテスカトリポカも、どちらも自分自身の快適さを死守しているので動かない。
そんなところで鏡合わせにならなくていいのに。
「豆乳鍋が食べたぁい!」
「買ってきたまえったら!」
「二人も買いに行こうよ!」
「ワシもかね」
「らしいよ」
横着した大声合戦に巻き込まれたイツァムナーが、目を丸くして、それから吹き出した。サモナーは玄関で「はぁやぁくぅ!」と声を上げている。
ショロトルは「ボクたちだけで行きましょうよ、二人にまで寒い思いをさせたら気の毒ですから」と優しいことを言ってくれている。だがサモナーが断固拒否して、四人で買い物に行くのだと言い張るものだから、困り果てているようだった。
「イツァムナー、カイロを服に仕込んでおきたまえよ」
「うむ。そうだな。やれやれ、サモナーの強引さはケツァルコアトルを思い出させるよ」
「ケツァルはもっと力尽くだったと思うがね」
「はっはっは! 楽しそうにぬしを引きずり回しておったのを思い出したよ!」
談笑する大人二人が、コートを着込んでいく。炬燵のスイッチは切って、暖房は弱めたものの付けっ放しにして、玄関へと向かった。
「何も全員でぞろぞろと行くこともあるまいよ、きょうだい」
「全員でぞろぞろ行くから面白いんじゃん。豆乳ベースで味噌入れよう! で、各自好きなものをぶちこめー!」
「や、闇鍋は勘弁ですよ、サモナー様ぁ!」
「台所に餅があったが、入れるかの」
「いいね、入れよう!」
玄関の扉を開け放つ。
冷たい風が吹き込んできて、テスカトリポカとイツァムナーは若干嫌そうな顔をした。
サモナーは上機嫌だった。
「明日の食材も買っておきたいですね……何を食べます?」
道中、ショロトルが三人に尋ねた。どうせ鍋は四人で食らい尽くす。明日の分など残らないと分かっていた。
「明日も鍋にしよう! しゃぶしゃぶ食べたい」
サモナーが肉肉! と主張する。
「カレーでいいと思うのだよ私は」
寒さに首をすぼめつつ、テスカトリポカが簡潔に言う。
「ワシはおでんがいいかのう」
がんもどきが食べたい、とイツァムナーが返す。
まとまりのない回答に、ショロトルが八の字眉で「困りますよぉ」と苦言を呈する。
じゃんけんで決めよう、ということになったが、その前に店についた。
張り切ってかごを抱えるサモナーを追いかけるように、かごを持ったショロトルが続く。
「明日は何して遊ぼうか」
サモナーが問うのに、ショロトルが苦笑した。
「明日は学校からの課題をやりましょうよ」
「いいよな、テスカとイツァムナー先生は。課題を出す側であって、やる側じゃないんだから」
「私だってやらねばならん仕事はあるが?」
「ワシもだよ、サモナー」
四人がぞろぞろと、仕方のない会話をしながら買い物をするのを、近所の皆様が微笑ましそうに見ていた。
明日は何をして遊ぼうか。
明日は何をして生きようか。
四きょうだいは笑い合う。
きっと明日も賑やかだ。
窓の外ではサモナーとショロトルが遊んでいる。
雪。
一面の銀世界。
その中で無邪気に雪だるまなどを作るサモナーたちを、イツァムナーは「ようやるの」と眺めていた。
「イツァムナー先生の雪像作った!」
「あひゃひい! に、似てますぅ!」
誇らしげに見せるサモナーと、見せられて驚きの声を上げるショロトル。二人はキャッキャとはしゃぎ倒しながら、次はテスカトリポカの雪像でも作るか、などと会話している。
その、テスカトリポカはというと。
炬燵にあたりながら、ホットコーヒーをすすっていた。
雪合戦に移行して、雪玉を顔面にぶつけられているショロトルを見たり、いたずら成功と言わんばかりに笑っているサモナーを見たりしながら、ややぬるめに入れたコーヒーを少しずつ飲む。
時々、キャタキャタと笑い合う二人を見ては、「よくやるなあ」とイツァムナーと同じことを口にしていた。
「外に行かんのかね、テスカトリポカは」
笑みを浮かべながら、イツァムナーが問う。
「寒い」
それに対し、テスカトリポカは簡潔に返した。
サモナーが誘えばテスカトリポカとて外に出るだろうし勝負もするだろうが、いつものテンションを発揮できないくらい、寒かったし面倒だった。
はっはっは! とイツァムナーの笑い声が部屋に満ちた。
「犬は喜び庭駆け回り、猫はこたつで丸くなる、とは、このことか!」
「丸くなっているのは君なのだよ、きょうだい」
厚着のしすぎでまん丸に着膨れしているイツァムナーに、テスカトリポカが即座に返した。イツァムナーは愉快そうに笑うばかりだった。
サモナーの鼻の頭が赤い。耳も赤い。素手で雪玉を作っているから、指先も赤かった。
それでも動き回っているせいで、体温は高いらしい。サモナーは笑っていた。ショロトルに雪玉をぶつけて、ショロトルからも雪玉をぶつけられて、ケラケラと笑っていた。
テスカトリポカの雪像は、ぬいぐるみバージョンで作られていた。身長五〇センチメートルという基準をしっかり守った力作だ。
「いくよ、ショロトル!」
「わわっ! わじゃひぃ! 雪玉を連発するのはやめてくださいぃッ!」
おりゃおりゃおりゃ、と声を上げて遊び倒すサモナーと、うわうわうわ、と逃げ回るショロトルは、どちらも汗ばんでいて。
どちらも子供のように笑っていた。
ただいま、と玄関から二人が家に戻ってきたのは、しばらく経ってから。
服についた雪をパンパンと叩いて落としながら、くしゃみをしたり、家の暖房をありがたがったり、思い思いのリアクションを取っている。
「テスカ!」
サモナーが玄関から、リビングに向かって大声を出した。
「今日、お鍋食べたくない?」
元気いっぱい響く声に、リビングで暖を取っていた大人二人は思案する。鍋ねえ……。
冷蔵庫を見てみる。野菜が不足している。買いに出るしかなさそうだ。
「財布を預けるから君たちで買ってきたまえよ! 材料を!」
リビングから玄関に向かって、今度はテスカトリポカが声を張って返した。
動け。
横着していないで移動すればいいものを、サモナーもテスカトリポカも、どちらも自分自身の快適さを死守しているので動かない。
そんなところで鏡合わせにならなくていいのに。
「豆乳鍋が食べたぁい!」
「買ってきたまえったら!」
「二人も買いに行こうよ!」
「ワシもかね」
「らしいよ」
横着した大声合戦に巻き込まれたイツァムナーが、目を丸くして、それから吹き出した。サモナーは玄関で「はぁやぁくぅ!」と声を上げている。
ショロトルは「ボクたちだけで行きましょうよ、二人にまで寒い思いをさせたら気の毒ですから」と優しいことを言ってくれている。だがサモナーが断固拒否して、四人で買い物に行くのだと言い張るものだから、困り果てているようだった。
「イツァムナー、カイロを服に仕込んでおきたまえよ」
「うむ。そうだな。やれやれ、サモナーの強引さはケツァルコアトルを思い出させるよ」
「ケツァルはもっと力尽くだったと思うがね」
「はっはっは! 楽しそうにぬしを引きずり回しておったのを思い出したよ!」
談笑する大人二人が、コートを着込んでいく。炬燵のスイッチは切って、暖房は弱めたものの付けっ放しにして、玄関へと向かった。
「何も全員でぞろぞろと行くこともあるまいよ、きょうだい」
「全員でぞろぞろ行くから面白いんじゃん。豆乳ベースで味噌入れよう! で、各自好きなものをぶちこめー!」
「や、闇鍋は勘弁ですよ、サモナー様ぁ!」
「台所に餅があったが、入れるかの」
「いいね、入れよう!」
玄関の扉を開け放つ。
冷たい風が吹き込んできて、テスカトリポカとイツァムナーは若干嫌そうな顔をした。
サモナーは上機嫌だった。
「明日の食材も買っておきたいですね……何を食べます?」
道中、ショロトルが三人に尋ねた。どうせ鍋は四人で食らい尽くす。明日の分など残らないと分かっていた。
「明日も鍋にしよう! しゃぶしゃぶ食べたい」
サモナーが肉肉! と主張する。
「カレーでいいと思うのだよ私は」
寒さに首をすぼめつつ、テスカトリポカが簡潔に言う。
「ワシはおでんがいいかのう」
がんもどきが食べたい、とイツァムナーが返す。
まとまりのない回答に、ショロトルが八の字眉で「困りますよぉ」と苦言を呈する。
じゃんけんで決めよう、ということになったが、その前に店についた。
張り切ってかごを抱えるサモナーを追いかけるように、かごを持ったショロトルが続く。
「明日は何して遊ぼうか」
サモナーが問うのに、ショロトルが苦笑した。
「明日は学校からの課題をやりましょうよ」
「いいよな、テスカとイツァムナー先生は。課題を出す側であって、やる側じゃないんだから」
「私だってやらねばならん仕事はあるが?」
「ワシもだよ、サモナー」
四人がぞろぞろと、仕方のない会話をしながら買い物をするのを、近所の皆様が微笑ましそうに見ていた。
明日は何をして遊ぼうか。
明日は何をして生きようか。
四きょうだいは笑い合う。
きっと明日も賑やかだ。
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