白々

「サモナーがたまに一緒にいる美形の獣人って誰?」

 唐突に尋ねられ、サモナーは沈黙した。
 美形の獣人とはいったい誰なのか、まったく分からなかったからだ。
 タダトモか? モリタカか? いや、彼らはどちらかというと親しみやすい造形をしているし、タダトモは格好いいし、モリタカは愛嬌がある。違うのだろう。
 では、シノか? 彼はコワモテなタイプではあるが、中身は忠義の塊だ。サモナー相手の時に限るが。……しかし、美形というカテゴリに入るかは、分からない。

「あー……ヒントちょうだい」

 困ったようにサモナーが告げれば、クラスメートは「分からないの? あの人だよ」とさらに訳の分からないことを言う。
「翼が生えてて」
 翼……サンダーバードか? たしかに彼は美形と呼ぶに足る。おまけに格好いいし、何より頼りになる。……だが、たまに一緒にいる、と言われるほど、高い頻度で会ってはいない。
「ネコ科で」
 ここでもう一つヒントが出た。ネコ科で羽が生えているとなったらシトリーだろうか? しかし美形か? 彼は硬派にこだわっている中学生……かわいい、格好いい、やや隙が多い……そんな印象である。
「真っ黒でさ」
 真っ黒。そこでようやく、クラスメートが誰のことを言っているのか分かってきた。ぼんやりと浮かぶのはテスカトリポカだ。
 ああ、はいはい、あいつね。と頷きかけて、そこでサモナーは声を出していた。
「えー……?」
「えーって何だよ、格好いいじゃん、あの人」
「そうそう、きれいな男の人だよね」
 緑髪のフェンサーが、サモナーの「えー」に反論すると、金髪のメイジが同調してくる。もっと、えー……? になるサモナーである。

「いや、あいつ声でかいじゃん」

 常に全力で叫んでいるのかと思うほどの声量。しかし本人は、「少し腹に力は入っているが、別段叫んでいるわけではないよ、きょうだい!!」となかなかの音量で返すのみ。
 至近距離であの大音声を聞いたら耳がバカになる。
 緑髪のフェンサーはさらっと返した。
「俺が話しかけたときは普通だったけど」
 普通にできるんかい。
 だったらサモナーの前でも声を抑えるなりしてくれよ。
 ずっこけそうになるサモナーは、それをこらえて次の一手を繰り出す。

「あと、あいつ闘争大好きだし」

「え? でも私が手合わせお願いしますって言ったら、あの人に断られたけど。すっごくやんわり」
 金髪のメイジの返答に、今度こそずっこけた。
 椅子から落ちたサモナーに、何だ何だとクラスメートたちが寄ってくる。サモナーは混乱していた。今話している「あの人」とは、テスカトリポカのことではないんじゃないかと。
 あまりにも普段の様子と違う。誰だそいつは。
「どう断られたの?」
「えっと、私の力は我がきょうだいとの闘争に向けられるべきであって、君を傷つけるためのものではないのだよ、すまんね……だったかな」
「カッケーじゃん!」
 その場が沸いた。
 待て待て待て。その男はヤンチャがすぎる窓割り職人だぞ。めちゃくちゃ高いテンションで深夜に窓を割って学生寮に飛び込んでくる暴走お祭り男だぞ。
 などと説明するわけにもいくまい。
 テスカトリポカとサモナーの複雑な関係性を知られたら、サモナーまで周りにちょっと引かれる可能性がある。

「めちゃくちゃ顔がいいよな」
 赤いウルフが言った。
 まあ分かる。彼は顔がいい。自称「美と誘惑の化身」というだけあって、顔はすこぶるいい。声のでかさを除けば見ていて飽きない。

「大人な雰囲気だよね」
 青いメイジが言った。
 うん。まあ。大人な雰囲気というか、大人なわけだけど……。だが、大人っぽい風格のわりに言動が大はしゃぎしている高校生のそれなのだ。高校生っぽさを鏡写しにせんでよろしい。

「きれいな人って感じ」
 赤いマーメイドが話に加わってくる。
 まあまあまあ、それはそう。だって自称「美と誘惑の化身」だから。顔がいいのもそうだし、髪がサラサラしているのもそうだし。ただ、笑顔が若干獰猛ではあるのだが。

「背筋も美しいよな」
 紫のウルフがそんなことを言った。
 ネコ科のわりに猫背なところをあまり見たことがない、といえばそうである。スラッとした立ち姿。ガタイがいい体で胸を張って立つものだから威圧感がすごい。

 クラスメートたちのテスカトリポカ評を聞きながら、サモナーはあー……だの、うーん……だのと声を上げていた。
 ツッコミどころを挙げればキリがないが、ツッコめばツッコむほど「なんでそんな細かいところまで知ってるんだ」「どういう関係なんだ」と詮索されるだろうことは請け合い。
 黙っているほかない。
「あの美形のお兄さんとどこで知り合ったんだよ、サモナー」
 お兄さん……いや、おじさんじゃなくてか?
 それも答えるわけにはいかなくて、サモナーは白々しい笑みを浮かべてスルーすることしかできなかった。

 身内から見たテスカトリポカは、そんなに美しいものではないらしい。
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