ノーコメント
「「おはよう」ございますぅッ」
挨拶のタイミングがかぶった朝。サモナーとショロトルは、パチクリと瞬きをして、それからペコリと同時に頭を下げた。
「「あ、あの、どうもどうも」」
あ、あの、までハモった。
そこで二人、顔を見合わせて、同時に吹き出して、笑った。今日はとことん息がピッタリな日らしい。どういう理屈だかは知らないが。
サモナーがトイレに立とうとすると、ショロトルも同じようにトイレに行こうとしていた。
どちらが切羽詰まっているかで優先順位をつけよう、と馬鹿なことをサモナーが言えば、それケツァルコアトルも言ってたことがあるんですよ、とショロトルが呆れたように返す。
結局ショロトルが順番を譲ってくれたので、サモナーは快適に過ごすことができた。兄(?)思いの弟を持てて幸せである。
ショロトルが新聞を読もうと手を伸ばしたら、同じく新聞を読もうと手を伸ばしていたサモナーと手を握り合うことになった。
あっ……とハモったが、それでロマンスが始まるわけではない。このときはジャンケンで優先順位を決めた。ショロトルが勝った。
「なんか、今日はやけに言動がかぶるね」
本を読みながら口を開くサモナーに
「そうですよねぇ? サモナー様の中に、双子のお兄ちゃんがいるからですかね?」
詩集を読みながらショロトルが返した。
お互いが不思議そうにしていて、首を傾げる方向まで同じだった。
「ケツァルコアトルとショロトルって、そんなにそっくりハモってたの?」
「いいえ! そんなこと! ケツァルコアトルとボクは性格が反対で、言動がかぶることなんて滅多に……あ」
「あ?」
「でも……不意に同じことを言っちゃったりしてたかもしれないですねぇ……」
たった一言、「なんで?」だの「それはない」だの、しょうもないハモり方をしていたことが、あるとかないとか。ショロトルは昔を懐かしみながら言葉を続ける。
ケツァルはテスカトリポカと肩を並べることが多く、ショロトルは眺めるだけだった。ショロトルが彼らと共にじゃれあった記憶はあまりない。
だがケツァルとショロトルは双子で、共に冒険だってしたし、もちろん喧嘩もしたし、笑い合うこともあった。それも間違いはない。
「二人でイツァムナーに怒られることもあったんですよ。ボクは泣いちゃってましたけど」
「ケツァルってやんちゃなの?」
「それはもう! 世界を生み出した片割れですから、やることなすことスケールが大きくて……あ、ケツァルはテスカトリポカと一緒に怒られてたこともあったんですけど」
怒られすぎではないのか、ケツァルコアトル。
ボクは振り回されてばっかりで、と語るショロトルは、それでも決して、ケツァルコアトルを嫌いなどではない。楽しかったですよ、と優しく言う通り、兄のことを慕っていたのだろう。
サモナーもつられて笑みを浮かべた。
「一卵性だか二卵性だかは分からないけど、仲は良かったんだね、二人って」
サモナーが本から目を離し、ショロトルをまっすぐ見て言う。ショロトルは照れたように頷いて、泣かされたことも多々ありましたけど、と返した。
なら双子らしく今日は共にいようか、とサモナーが言った。双子らしくも何も、サモナーには双子だったときの記憶はないし、ショロトルもサモナーとケツァルコアトルは別人であると区別しているらしいので、双子「ごっこ」に近いが。
サモナーが興味を示した場所へショロトルを引っ張って行く。あれは何だ、これはどうだとサモナーが尋ねるのに、ショロトルが答える。
穏やかな時間が過ぎていった。
サモナーはケツァルほど苛烈ではないからか。
二人で他愛のない会話をした。昼食のサンドイッチの野菜が少なかったとか、テスカトリポカと闘争する日々が続いて若干筋肉痛だとか、そんなことを話すサモナーに、ショロトルは笑って耳を傾ける。
「ケツァルコアトルはサンドイッチにお肉が少なかったときに愚痴るんですよ」
「ははは、さっきの自分と反対だ」
「そうですそうです、似てないところもあるんですよね、サモナー様とケツァルコアトルって」
「それを認識してくれただけでもありがとう」
本当はダブって見えているだろうに。
本当は重なる部分も見つけただろうに。
そこには言及せずにいてくれるショロトルの存在を、どうにもありがたく感じるサモナーだ。
弟の気遣いで平和だったのかもしれない。
「……ぬぅ」
肩を並べて談笑しるサモナーとショロトルを見て、やや不機嫌そうな世界代行者が一人。
もちろんエルドラドの代行者である。
テスカトリポカは面白くなさそうな表情でサモナーに声をかける。
「今日はやけにベッタリじゃないかね、君たち」
いつもは自分と闘争に明け暮れているのに、と言いたげなテスカトリポカに、サモナーは苦笑した。今日くらいショロトルに譲ってやってもいいだろうと思うのだが、テスカトリポカはあまり納得がいっていないようだった。
「なんだってそう、ひっついているのだね」
たしかにケツァルコアトルとショロトルは双子だったが、サモナーと双子なわけではあるまい。
サモナーを独り占めするのは面白くないなあ、ああ、面白くないとも。
そんな思考が透けて……いや、隠されもしていないテスカトリポカに、どう説明しても不機嫌の火に油を注ぐ羽目になるだろうな、と判断したサモナーが、小さく息を吐いて口を開く。
「「ノーコメント」」
驚いてショロトルのほうを見ると、ショロトルも驚いてサモナーを見ていた。
そんなところまでハモるのか。
テスカトリポカが随分と面白くなさそうにに二人を見るので、二人は逆に笑いをこらえきれなかった。
今日という日はそんな日だ。
挨拶のタイミングがかぶった朝。サモナーとショロトルは、パチクリと瞬きをして、それからペコリと同時に頭を下げた。
「「あ、あの、どうもどうも」」
あ、あの、までハモった。
そこで二人、顔を見合わせて、同時に吹き出して、笑った。今日はとことん息がピッタリな日らしい。どういう理屈だかは知らないが。
サモナーがトイレに立とうとすると、ショロトルも同じようにトイレに行こうとしていた。
どちらが切羽詰まっているかで優先順位をつけよう、と馬鹿なことをサモナーが言えば、それケツァルコアトルも言ってたことがあるんですよ、とショロトルが呆れたように返す。
結局ショロトルが順番を譲ってくれたので、サモナーは快適に過ごすことができた。兄(?)思いの弟を持てて幸せである。
ショロトルが新聞を読もうと手を伸ばしたら、同じく新聞を読もうと手を伸ばしていたサモナーと手を握り合うことになった。
あっ……とハモったが、それでロマンスが始まるわけではない。このときはジャンケンで優先順位を決めた。ショロトルが勝った。
「なんか、今日はやけに言動がかぶるね」
本を読みながら口を開くサモナーに
「そうですよねぇ? サモナー様の中に、双子のお兄ちゃんがいるからですかね?」
詩集を読みながらショロトルが返した。
お互いが不思議そうにしていて、首を傾げる方向まで同じだった。
「ケツァルコアトルとショロトルって、そんなにそっくりハモってたの?」
「いいえ! そんなこと! ケツァルコアトルとボクは性格が反対で、言動がかぶることなんて滅多に……あ」
「あ?」
「でも……不意に同じことを言っちゃったりしてたかもしれないですねぇ……」
たった一言、「なんで?」だの「それはない」だの、しょうもないハモり方をしていたことが、あるとかないとか。ショロトルは昔を懐かしみながら言葉を続ける。
ケツァルはテスカトリポカと肩を並べることが多く、ショロトルは眺めるだけだった。ショロトルが彼らと共にじゃれあった記憶はあまりない。
だがケツァルとショロトルは双子で、共に冒険だってしたし、もちろん喧嘩もしたし、笑い合うこともあった。それも間違いはない。
「二人でイツァムナーに怒られることもあったんですよ。ボクは泣いちゃってましたけど」
「ケツァルってやんちゃなの?」
「それはもう! 世界を生み出した片割れですから、やることなすことスケールが大きくて……あ、ケツァルはテスカトリポカと一緒に怒られてたこともあったんですけど」
怒られすぎではないのか、ケツァルコアトル。
ボクは振り回されてばっかりで、と語るショロトルは、それでも決して、ケツァルコアトルを嫌いなどではない。楽しかったですよ、と優しく言う通り、兄のことを慕っていたのだろう。
サモナーもつられて笑みを浮かべた。
「一卵性だか二卵性だかは分からないけど、仲は良かったんだね、二人って」
サモナーが本から目を離し、ショロトルをまっすぐ見て言う。ショロトルは照れたように頷いて、泣かされたことも多々ありましたけど、と返した。
なら双子らしく今日は共にいようか、とサモナーが言った。双子らしくも何も、サモナーには双子だったときの記憶はないし、ショロトルもサモナーとケツァルコアトルは別人であると区別しているらしいので、双子「ごっこ」に近いが。
サモナーが興味を示した場所へショロトルを引っ張って行く。あれは何だ、これはどうだとサモナーが尋ねるのに、ショロトルが答える。
穏やかな時間が過ぎていった。
サモナーはケツァルほど苛烈ではないからか。
二人で他愛のない会話をした。昼食のサンドイッチの野菜が少なかったとか、テスカトリポカと闘争する日々が続いて若干筋肉痛だとか、そんなことを話すサモナーに、ショロトルは笑って耳を傾ける。
「ケツァルコアトルはサンドイッチにお肉が少なかったときに愚痴るんですよ」
「ははは、さっきの自分と反対だ」
「そうですそうです、似てないところもあるんですよね、サモナー様とケツァルコアトルって」
「それを認識してくれただけでもありがとう」
本当はダブって見えているだろうに。
本当は重なる部分も見つけただろうに。
そこには言及せずにいてくれるショロトルの存在を、どうにもありがたく感じるサモナーだ。
弟の気遣いで平和だったのかもしれない。
「……ぬぅ」
肩を並べて談笑しるサモナーとショロトルを見て、やや不機嫌そうな世界代行者が一人。
もちろんエルドラドの代行者である。
テスカトリポカは面白くなさそうな表情でサモナーに声をかける。
「今日はやけにベッタリじゃないかね、君たち」
いつもは自分と闘争に明け暮れているのに、と言いたげなテスカトリポカに、サモナーは苦笑した。今日くらいショロトルに譲ってやってもいいだろうと思うのだが、テスカトリポカはあまり納得がいっていないようだった。
「なんだってそう、ひっついているのだね」
たしかにケツァルコアトルとショロトルは双子だったが、サモナーと双子なわけではあるまい。
サモナーを独り占めするのは面白くないなあ、ああ、面白くないとも。
そんな思考が透けて……いや、隠されもしていないテスカトリポカに、どう説明しても不機嫌の火に油を注ぐ羽目になるだろうな、と判断したサモナーが、小さく息を吐いて口を開く。
「「ノーコメント」」
驚いてショロトルのほうを見ると、ショロトルも驚いてサモナーを見ていた。
そんなところまでハモるのか。
テスカトリポカが随分と面白くなさそうにに二人を見るので、二人は逆に笑いをこらえきれなかった。
今日という日はそんな日だ。
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