これで何度目のステップだろう。
　何も知らない君の手を取り右往左往。
　終わりが見えないダンスだ。
　いつも同じ位置から始まるそれは、いつだって君の命と引き換えに。

「これ、何回目？」
　粉々に割れて砕けてひしゃげた学生寮の窓を見ながら、腕組みをして仁王立ちする君は言う。
「このループでは初めてだとも、きょうだい」
　そう答える私に、首を横に振る君がため息をつく。どうでもいいことだが、私が正座をすると君と無理なく視線が合って、なかなか愉快なのだ。
「ほかのループ含めて数えると」
「ほかのループのことなど覚えていない癖に何を言うのだね」
　君は笑った。ニヤリと口角を上げた。悪い笑みだ。私もするが。
「テスカトリポカとのこと、だいたい思い出したんだ」
「ほう？」
「ジェイコフさんの光のおかげでね」
　ああ、あの盲目の。しかし、はて。彼の神器による光の柱は、そんな仕方のないことを思い出させるものだろうか。
「何回も蹴り割ってくれてさぁ、本当に勘弁してよ」
　ステップ、ステップ、ステップ。
　私と君が歩んできたこれまでを、君はつらつらと語って聞かせる。いや、これはお説教なのだから、私は殊勝にしていないといけないのだが。
　なんだろうね。
　君との辿々しい足跡を、君の口から聞くのは……存外気恥ずかしいものだ。
「……聞いてる？」
「……聞いているとも」
「なんで繰り返すの？」
「なんでとは？」
「なんで、前のループでガッツリ怒られたことを、今回もやるの？」
　そんなの。
　君が覚えていないからに、決まって……。
　……ああ、最低限の機能しかない[[rb:義体 > からだ]]で良かった。
　柄にもなく感情が高ぶるところだった。これは情けないな。私としたことが。
「すまないね。義体が出来るたびに嬉しくなってしまうのだよ」
　嘘ではないことを言う。ああ、嘘ではない。嘘ではないとも。君の手を取りぎこちなく踊るのが好きだった。とても楽しかったのだ。
　ステップ、ステップ、ステップ。
　不器用に、不用心に、不気味なダンスを、皆々で。

「できることなら、二度と蹴破らないで」

　そんなことを君は言う。
　大丈夫。もう蹴破れないとも。だって私はあの戦いで満足した身だ。次のループではどこにも居まい。君の部屋の窓は、もう二度と破れは──。
「次のループなんて来ないからね。二回も三回も窓を割られたら困るし」
「……ループが、来ない？　きょうだい、このゲームの仕組みを理解していないとは驚いたよ？」

　何も知らない君の手を取り右往左往。
　終わりが見えないダンスだ。
　いつも同じ位置から始まるそれは、いつだって君の命と引き換えに。
　これで何度目のステップだろう。
　ああ、本当に。

「終わらせる」
「終わらせる？」
「ループを終わらせる。これが最後だ。だからテスカを召喚したんだ。手伝ってよ、誰が勝つか負けるかわからなくなったこの戦争を」
　きょうだい、君、今かなり悪い顔で笑っているよ。

「私の手のひらの上で踊る覚悟はあるかい、テスカトリポカ？」

　なんてことを言うのだね、君は。
　いつも同じ位置から始まる滑稽なダンスは、いつだって君の命と引き換えに。
　それが。
　踊る場所がガラリと変わるなんて。
　馬鹿馬鹿しい。
　即興のダンスはいつだって失笑と隣合わせなのに。
　君はそれを笑うのだ。

「テスカトリポカ、めっちゃ悪い顔で笑うじゃん……」
「フハハ！　私は君と鏡合わせなのだからね！　君が洒落にならない悪戯をしようと言うなら、私もともに、その児戯にふけろうというものさ！」
「あっ！　立ち上がるな！　まだ説教終わってないんだから！　正座！」
「楽しいなあ！　きょうだい！」
「反省してないな、こいつ！」

　これが最後のステップなのだろう。
　何かを知っている君の手を取り右往左往。
　無理にでも終わりに近づくダンスだ。
　いつもと違う位置から始まるそれは、今や私と君、二人の玩具（おもちゃ）だ。
　さぞ不気味な踊りに見えるだろうね。
　誰もが目にしたことのない、滑稽で苛烈なステップだとも。

　抱きしめて、柄にもなくはしゃいで笑えば、腕の中の君もついに破顔した。