アットホーム、アットホーム
「やっと一緒になれたね」
リョウタが輝く笑顔で言うものだから、サモナーも照れたように頷いた。本当に、本当にやっとサモナーズが全員揃ったのだ。
補習授業でスケジュールが埋まっていた者。
アルバイトをぎっしり入れていた者。
課題をこなすのに忙しかった者。
小規模だが剣道の大会があり休めなかった者。
みんなと休みが合わなかった日をボランティア活動にあてて、友達の助けになろうとした者。
久しぶりにギルドメンバーの休みが重なり、丸一日自由となった。これを喜ばずにいられようか。リョウタは早速、セーフハウスで遊べるようにと、ボードゲームの数々を買い込んでいた。
「サモナー、ゴリラ人狼って知ってる?」
「ゴリラ人狼? ごめん知らない、ふふふ」
インパクト大なタイトルを口にするリョウタに、思わずウケてしまったサモナーが返す。
するとリョウタは、大まかに説明をし始めた。
「あのね、みんなゴリラなんだ」
「ふふふ……それは、大変なの?」
「大変だよ! 全員ウホッしか喋れないんだから! それに、首を横に振る、首を縦に振る、他の人を指差す、あとドラミングしかできないよ」
「ドラミング! ははは! ちょっと面白そう」
ルールを教えるから、今度サモナーズでやってみようよ、とリョウタが言うのに、サモナーは手を叩いて笑っていた。無理からぬ話だ。
ゴリラだもの。
両手いっぱいにボードゲームを抱えたリョウタ。
荷物持ちを提案したサモナーが片方を持つ。
みんなが待つセーフハウスまで、あと少しだ。
「お帰り、リョウタ、サモナー。ケンゴがドーナツを買ってきてくれたから、紅茶を淹れたところだったんだ。食べるだろう?」
シロウが柔らかな笑みで迎える、セーフハウス。アギョウも手伝いとしてテキパキ行動していて、とても微笑ましい。ツァトグァはテレビに向かい、眷属たちの世話を受けながら、ノーセーブでドラクエをどこまで進められるかを試している。
トウジもいる。モリタカもきちんといる。タダトモもいるし、ハヌマンもいる。全員集合だ。
ドーナツを頬張りながら紅茶に口をつけたリョウタが、濃いめの香りに甘い味わいのブレンドに舌鼓を打つ。サモナーもケンゴに渡されたドーナツを口にした。
「あ、おいしい。この金色のドーナツ食べたことないや。ケンゴ、センスあるね」
「だろ、相棒! 俺のおすすめだぜ、なんたって俺はこれのクレーマーだからな」
「クレーマー?」
「……あれ、違ったっけか。何つうんだ? 何度も買ってる客のこと」
「リピーター」
「それだぁー!」
それだぁー! ではない。
ふごっ、と音を立ててドーナツでむせたサモナーが、軽く地獄を見たおやつ時である。
シロウが言う。
「お前がバカなせいでサモナーが苦しんでるじゃないか!」
ケンゴが返す。
「バカは時に人を傷つけちまうものなのか……畜生!」
サモナーがフフヘハハハハと気が抜ける笑い声を上げていたのは、仕方ないことだ。
ショートコントをやめろ。
人生ゲームやらない? というリョウタの一言に、断る者などいなかった。
誰でも楽しめる定番のボードゲームだ。
モリタカでも、アギョウでも問題なく扱える。
テレビゲームと違って、プレイ人数が増えてもデメリットがないところも良い。
ツァトグァも混じって、みんなで始めることになった。親はシロウである。こういう役割はしっかり者に任せるほうがいいというものだ。
一番手はケンゴで、職業決めのためにルーレットを回すこととなった。止まったマスに書いてある職業になるので、気合いの入れどころだろう。
「いくぜぇ!」
ブンッ! と大きく回ったルーレットが
吹っ飛んで
テーブルから消えた。
「……」
「……」
「……俺は……こんな結末を望んだわけじゃ、ねえんだ」
「ぶっ! はははははは!」
ケンゴの一言に、ドーナツでむせて苦しんだ過去(数分前)を持つサモナーが、思いきり笑って呼吸困難に陥った。ケンゴはルーレットを吹っ飛ばした責任をとり、自らフリーターとなり、それがさらに周囲の笑いを誘った。
アギョウがカジノで大もうけしたり、タダトモの家が火事になったり、リョウタがいち早く結婚して周囲からご祝儀をたんまり頂いたり、運によって進行するゲームはツァトグァですら予想がしがたく、笑い声の絶えない光景となった。
「待ってリョウタ子供何人いるのそれ」
「五人!」
「リョウイチ、リョウジ、リョウゾウ、リョウシ、リョウゴだな」
「ケンゴのネーミングセンスがとどまるところを知らない」
ここまで遊んでも、まだ午後一時だ。
まだまだ遊び足りない、という顔をするリョウタが、次のボードゲームを出そうと買い物袋の中をガサガサと漁っていた。
ポロリと落ちたカードゲームのようなそれを、サモナーが拾い上げる。
「何これ?」
「ああ、それ? スーパーテスカトリポカとかいうやつ! 楽しそうじゃない?」
「やめよう」
「やめよう」
「うむ、やめよう」
サモナー、シロウ、トウジが真顔でやめよう、と繰り返すものだから、テスカトリポカご本人を知っている者たちは静かに俯き笑いを堪えたし、ご本人のせいで風評被害を受けたカードゲームはしまわれた。
前年だが妥当。
リョウタが、えー、面白そうなのに。と残念がっていたのだが、世界代行者の名前と似たゲームをよく買ってこられたな、といったところだ。
続きまして、ツイスター。
これはし烈を極めた。なぜならば、みんな揃いも揃って体格がいいからである。
「ケンゴどいて! 右手が赤に届かない!」
「待て待て待て俺がどいたらリョウタが倒れんだよ! なんでお前アクロバティックなポーズとってんだ、大丈夫かそれ!」
「無理ぃ! 無理だよもう! リョウタの大冒険これにて終了! 閉店ガラガラ」
「ふっへへははは……」
「サモナーが倒れたー! あああ待て俺も倒れる! 避けろ! ていうかリョウタ転がんな! リョウタぁー!」
てんやわんやだ。
サモナー、ケンゴ、リョウタのグループは勝ち抜いた者がおらず、総倒れとなって終わった。
シロウ、トウジ、タダトモのグループは最初にシロウが倒れ、トウジとタダトモの接戦となり、タダトモが制した。
ツァトグァははちみつパンケーキを頬張りながら、高みの見物である。本当に高みの見物である。だってツァトグァは参戦していないのだから。
VIP席で下々の者たちが戦っているのを見物しているのだ。その隣にはアギョウが座っていて、笑いながら転がるサモナーズたちを見て、同じように笑っていた。
ハヌマン対タダトモ。
運動神経が良さそうな者同士での対決だ。
勝者はハヌマンだった。
尻尾で黄色にタッチできるという離れ業を披露したハヌマンは、忍術でござる! 忍術! とめちゃくちゃ言い張り、勝利を掴み取ったのだ。
グダグダである。
だが、みんな笑っていた。
誰も文句を言わなかったし、誰も暗い顔をしていなかったし、それに……みんな等しく筋肉痛に襲われることは確定していたので、喧嘩をするだけ無駄だった。
夕方になった。
早めの夕食を、みんなで食べることにした。
「我が注文した、特性ピザをむさぼるがいいであーる……あ、はちみつピザは我のものであるから、取っちゃ嫌であーる」
デリバリーサービスで届いた数枚のピザ。チーズが伸びる、熱々のそれを夢中で頬張り、サモナーズの面々は、次に休みが重なるのはいつだ、などと会話をする。
「あ、今度の連休、みんな休み? もしそうなら、お泊まり会しようよ!」
リョウタの提案に、みんな頷いた。
その連休だけはなんとしてでも死守しようと、予定を確認し始める者も少なくなく、サモナーはギルドの団結力を目の当たりにして笑った。
笑顔の絶えない、アットホームなギルドである。
リョウタが輝く笑顔で言うものだから、サモナーも照れたように頷いた。本当に、本当にやっとサモナーズが全員揃ったのだ。
補習授業でスケジュールが埋まっていた者。
アルバイトをぎっしり入れていた者。
課題をこなすのに忙しかった者。
小規模だが剣道の大会があり休めなかった者。
みんなと休みが合わなかった日をボランティア活動にあてて、友達の助けになろうとした者。
久しぶりにギルドメンバーの休みが重なり、丸一日自由となった。これを喜ばずにいられようか。リョウタは早速、セーフハウスで遊べるようにと、ボードゲームの数々を買い込んでいた。
「サモナー、ゴリラ人狼って知ってる?」
「ゴリラ人狼? ごめん知らない、ふふふ」
インパクト大なタイトルを口にするリョウタに、思わずウケてしまったサモナーが返す。
するとリョウタは、大まかに説明をし始めた。
「あのね、みんなゴリラなんだ」
「ふふふ……それは、大変なの?」
「大変だよ! 全員ウホッしか喋れないんだから! それに、首を横に振る、首を縦に振る、他の人を指差す、あとドラミングしかできないよ」
「ドラミング! ははは! ちょっと面白そう」
ルールを教えるから、今度サモナーズでやってみようよ、とリョウタが言うのに、サモナーは手を叩いて笑っていた。無理からぬ話だ。
ゴリラだもの。
両手いっぱいにボードゲームを抱えたリョウタ。
荷物持ちを提案したサモナーが片方を持つ。
みんなが待つセーフハウスまで、あと少しだ。
「お帰り、リョウタ、サモナー。ケンゴがドーナツを買ってきてくれたから、紅茶を淹れたところだったんだ。食べるだろう?」
シロウが柔らかな笑みで迎える、セーフハウス。アギョウも手伝いとしてテキパキ行動していて、とても微笑ましい。ツァトグァはテレビに向かい、眷属たちの世話を受けながら、ノーセーブでドラクエをどこまで進められるかを試している。
トウジもいる。モリタカもきちんといる。タダトモもいるし、ハヌマンもいる。全員集合だ。
ドーナツを頬張りながら紅茶に口をつけたリョウタが、濃いめの香りに甘い味わいのブレンドに舌鼓を打つ。サモナーもケンゴに渡されたドーナツを口にした。
「あ、おいしい。この金色のドーナツ食べたことないや。ケンゴ、センスあるね」
「だろ、相棒! 俺のおすすめだぜ、なんたって俺はこれのクレーマーだからな」
「クレーマー?」
「……あれ、違ったっけか。何つうんだ? 何度も買ってる客のこと」
「リピーター」
「それだぁー!」
それだぁー! ではない。
ふごっ、と音を立ててドーナツでむせたサモナーが、軽く地獄を見たおやつ時である。
シロウが言う。
「お前がバカなせいでサモナーが苦しんでるじゃないか!」
ケンゴが返す。
「バカは時に人を傷つけちまうものなのか……畜生!」
サモナーがフフヘハハハハと気が抜ける笑い声を上げていたのは、仕方ないことだ。
ショートコントをやめろ。
人生ゲームやらない? というリョウタの一言に、断る者などいなかった。
誰でも楽しめる定番のボードゲームだ。
モリタカでも、アギョウでも問題なく扱える。
テレビゲームと違って、プレイ人数が増えてもデメリットがないところも良い。
ツァトグァも混じって、みんなで始めることになった。親はシロウである。こういう役割はしっかり者に任せるほうがいいというものだ。
一番手はケンゴで、職業決めのためにルーレットを回すこととなった。止まったマスに書いてある職業になるので、気合いの入れどころだろう。
「いくぜぇ!」
ブンッ! と大きく回ったルーレットが
吹っ飛んで
テーブルから消えた。
「……」
「……」
「……俺は……こんな結末を望んだわけじゃ、ねえんだ」
「ぶっ! はははははは!」
ケンゴの一言に、ドーナツでむせて苦しんだ過去(数分前)を持つサモナーが、思いきり笑って呼吸困難に陥った。ケンゴはルーレットを吹っ飛ばした責任をとり、自らフリーターとなり、それがさらに周囲の笑いを誘った。
アギョウがカジノで大もうけしたり、タダトモの家が火事になったり、リョウタがいち早く結婚して周囲からご祝儀をたんまり頂いたり、運によって進行するゲームはツァトグァですら予想がしがたく、笑い声の絶えない光景となった。
「待ってリョウタ子供何人いるのそれ」
「五人!」
「リョウイチ、リョウジ、リョウゾウ、リョウシ、リョウゴだな」
「ケンゴのネーミングセンスがとどまるところを知らない」
ここまで遊んでも、まだ午後一時だ。
まだまだ遊び足りない、という顔をするリョウタが、次のボードゲームを出そうと買い物袋の中をガサガサと漁っていた。
ポロリと落ちたカードゲームのようなそれを、サモナーが拾い上げる。
「何これ?」
「ああ、それ? スーパーテスカトリポカとかいうやつ! 楽しそうじゃない?」
「やめよう」
「やめよう」
「うむ、やめよう」
サモナー、シロウ、トウジが真顔でやめよう、と繰り返すものだから、テスカトリポカご本人を知っている者たちは静かに俯き笑いを堪えたし、ご本人のせいで風評被害を受けたカードゲームはしまわれた。
前年だが妥当。
リョウタが、えー、面白そうなのに。と残念がっていたのだが、世界代行者の名前と似たゲームをよく買ってこられたな、といったところだ。
続きまして、ツイスター。
これはし烈を極めた。なぜならば、みんな揃いも揃って体格がいいからである。
「ケンゴどいて! 右手が赤に届かない!」
「待て待て待て俺がどいたらリョウタが倒れんだよ! なんでお前アクロバティックなポーズとってんだ、大丈夫かそれ!」
「無理ぃ! 無理だよもう! リョウタの大冒険これにて終了! 閉店ガラガラ」
「ふっへへははは……」
「サモナーが倒れたー! あああ待て俺も倒れる! 避けろ! ていうかリョウタ転がんな! リョウタぁー!」
てんやわんやだ。
サモナー、ケンゴ、リョウタのグループは勝ち抜いた者がおらず、総倒れとなって終わった。
シロウ、トウジ、タダトモのグループは最初にシロウが倒れ、トウジとタダトモの接戦となり、タダトモが制した。
ツァトグァははちみつパンケーキを頬張りながら、高みの見物である。本当に高みの見物である。だってツァトグァは参戦していないのだから。
VIP席で下々の者たちが戦っているのを見物しているのだ。その隣にはアギョウが座っていて、笑いながら転がるサモナーズたちを見て、同じように笑っていた。
ハヌマン対タダトモ。
運動神経が良さそうな者同士での対決だ。
勝者はハヌマンだった。
尻尾で黄色にタッチできるという離れ業を披露したハヌマンは、忍術でござる! 忍術! とめちゃくちゃ言い張り、勝利を掴み取ったのだ。
グダグダである。
だが、みんな笑っていた。
誰も文句を言わなかったし、誰も暗い顔をしていなかったし、それに……みんな等しく筋肉痛に襲われることは確定していたので、喧嘩をするだけ無駄だった。
夕方になった。
早めの夕食を、みんなで食べることにした。
「我が注文した、特性ピザをむさぼるがいいであーる……あ、はちみつピザは我のものであるから、取っちゃ嫌であーる」
デリバリーサービスで届いた数枚のピザ。チーズが伸びる、熱々のそれを夢中で頬張り、サモナーズの面々は、次に休みが重なるのはいつだ、などと会話をする。
「あ、今度の連休、みんな休み? もしそうなら、お泊まり会しようよ!」
リョウタの提案に、みんな頷いた。
その連休だけはなんとしてでも死守しようと、予定を確認し始める者も少なくなく、サモナーはギルドの団結力を目の当たりにして笑った。
笑顔の絶えない、アットホームなギルドである。
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