夏の小さな恋物語
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「由美さん、名無しさん知りませんか?」
「あら…そういえば見ないわねぇ。」
残暑も過ぎて少し涼しくなった夏の午後。
名無しさん、さっきまで退屈そうにしてたから、絵本でも読んであげようかなと思って持ってきたんですけど。
「外に遊びに行ったのかな。」
「少し前に志々雄様といたの見たけど…ひょっとしたら一緒に出かけたのかしらね?」
「あ、そうなんですか…」
それならいいか、志々雄さんがついてるなら、と絵本を片付けに行く。
読み聞かせはまたの機会にしようかとそんなことを考えていると、途中にある部屋の襖が少し開いているのに気付いた。
閉めておこうと襖に近付き、ふと中の様子に目を向けると──
「…あ、いた。」
思わず呟き、しばらく放心するように眺めていたが、あんまりにも安らかだったので笑みを漏らしてしまう。
そっと、襖を少し開けて中へ足を進める。
ちりん、ちりん、とどこからかささやかに聞こえる風鈴の音を背に。ゆっくりと辿り着いた。
畳敷きの上で仰向けになり、すやすやと眠る名無しさん。
──と、その傍らで身体を横にして眠っている志々雄さん。
「…ふふ。」
思わず面白いなぁと思ってしまう。
「あーあ…寝かしつけてて一緒に寝ちゃったのかな…」
よっぽど名無しさんが可愛いんだろうなぁ…
肘を突き頭の片側を支える体勢で寝てしまってる志々雄さんをまじまじと見つめる。
すごく珍しい。こんなに無防備にしているなんて。
そして…志々雄さんに見守られるように眠る名無しさんを優しく見下ろす。
寝返りを打ったのか、少し乱れた前髪から覗く小さなおでこ。起こさないようにそうっと指先を辿らせて前髪に触れ、梳いて整えていく。
指先に伝わる柔らかい肌触りについ夢中になってしまう。
「ん…う。」
下がってた眉が少し寄せられるのを見て、指を止める。
しばらくそのままで様子を見ていると、再び下がり力の抜けた眉元。可愛らしくて、くすっと笑みを漏らした。
「…かわいい。」
「んふっ、そうじろ…」
「!」
「だいすき…あんみつ、たべにいこ…」
「…本当に、懐いてくれてるんだなぁ。僕なんかに…」
──自然と細めてしまう瞳に優しい芳香を乗せながら。
そうっと彼女の頭を撫で下ろした。
「あ…夏風邪ひくといけないかな。」
思い立ち、体にかけるものを探して手にする。
そのまま、寝息を立てる小さな体にかけようとしたのだが。
「……」
知らず知らずと頭をもたげてくる悪い企み。
…いや、わざとそう考えるわけではないのだが、自分の中にじわじわと降り立ってくる悪い考えに少しの戸惑いを覚えながらも。
「…すみません、志々雄さんっ。」
えいっ、と思い切るように志々雄の体を押しのけるようにして名無しから遠ざけ、
「…これでよし、と。」
名無しの体に布をかけて。
そのすぐ隣に体を横たえ、彼女の無邪気な寝顔を見下ろしながら満足げな笑みを浮かべたのだった。そして、そのまま。
(僕もなんだか眠くなっちゃったなぁ…)
うつらうつらとする意識。
やがて名無しと共に夢の世界に溶け込むのであった。
(なあ、由美。あいつ斬っていいか?)
(やめといてあげましょうよ、あんなに仲良く寝てるんだから…)