夏の小さな恋物語
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うだるような暑さの続く午後。
けれど志々雄さんのお屋敷のとある空間はとても涼しくて、気持ちのよい風さえ感じられるようだった。
「はい、名無しさん。」
「わあい♪ありがとう~!」
きらきらと目を輝かせる名無しさん。
差し出した器を両手で持つ姿はとても嬉しそうで。
しばらく僕も眺めていたんだけど、ただただ楽しそうに目を輝かせて静止する名無しさんを見ててふと思い立った。
「かき氷なんですけど、食べたことはあります?」
「ううん、初めて…!」
「そうなんですかぁ。とっても美味しいですよ。」
そっかぁ、食べたことなかったんだ。
「ええっと、こんなのかけると美味しいんですよ。」
「えっと…黄色のがいい!」
「はーい。」
名無しさんが選んだのは檸檬味のシロップ。
適量をかけてあげると、待ち切れなさそうにそわそわしているのが可愛らしかった。
「わあ、ありがとう~。」
「はい、どうぞ。冷たいのでゆっくり食べてくださいね。」
「はーい!いただきまぁす。」
僕は…甘いのが食べたいかな。苺にしようっと。
濃い赤色のシロップを片手にすると。名無しさんはばしばしと机を叩いて、
「宗次郎っ…これ、おいしい!!」
高い声を上げ、そして、幼いながらにも感動を噛み締めているのだろう、ぎゅうっと目を瞑った。
「よかったあ。お口に合ったみたいで。」
「ひんやりするね!」
「そうでしょう?」
微笑みかけるとこくこく、と首を縦に振った。
「…あ。そうだ。僕のも食べてみます?こっちのは苺味です。」
「え!いいの?」
ひと掬い、そっと掬い上げるとこぼれ落ちそうになる氷の粒に気を付けながら。
そっと掬った氷を名無しさんの口元へ向けた。
「はい、あーんして?」
きらきらとした笑顔をしていた名無しさんだったが、少しだけ、恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「あ…もしかして名無しさんって、もうそんな年齢じゃないのかな。すみません、つい。」
「ち、違うの!その…」
「はい?」
「宗次郎だから…嬉しかったの…!」
「…そっかあ。嫌とかじゃないんですね。よかった。」
「…宗次郎は、嬉しい?」
「ええ、嬉しいですよ。名無しさんとこうしていられて。」
「じゃあ…」
「はいはい。あーん…」
「あー……」
小さな口にゆっくりと差し入れると、そっと口を閉じて味わう。
みるみる顔を綻ばせていく名無しさん。
「んうう、おいしいっ!」
「ね?こっちも美味しいでしょう?」
「うん!甘い苺の味…!」
宝物を見つけたように瞳をぱちぱちとさせるものだから。なんだか和やかな気持ちになって、僕は微笑んだ。
「…今度、甘味処にでも行きません?」
「かんみ、どころ?」
「かき氷とか、お団子とか、甘くて美味しいものがなんでもあるんです。」
「へえ~!行こう行こう!」
「あ、志々雄さんには内緒ですよ?やきもち妬いちゃうので…」
「焼き餅?…あ、はい。宗次郎っ。」
「はい?」
何かに気付いたようにする名無しさん。そしてたどたどしく、ゆっくりと自分の氷を掬い上げると、こちらへと差し出した。
「私のもどうぞ♪あーん。」
「いいんですか?」
「うんっ。」
「じゃあ、お言葉に甘えて。」
そっと、ひとかけらの氷を口に含む。みるみるうちに広がる甘酸っぱい蜜の味。
おずおずとこちらを見つめる名無しさん。
「どう…?」
「美味しいです♪ありがとうございます。」
「えへへ、よかったあ。」
そう言って、はにかむ笑顔がとても眩しくて。
そんな名無しさんがただただ愛らしくて、優しく頭を撫でた。