夏の小さな恋物語
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「宗次郎、付き合ってくれない?」
「はい。なんですか?」
くいっ、と着物の裾を引っ張るので、名無しさんと同じ目線になるようにしゃがみ込んだ。
「えっとね……あさがお。」
「???」
「描くの手伝ってほしいの。」
日常であまり関わらないものだから、一瞬何を言われたのか意味がわからなかった。
「あ…朝顔?」
「うん。お花が咲いたらね、絵日記に書きなさいって。」
「へえ~、そんな仕事があるんですね。」
「しごと?」
「あれ?違う?ま、いっか。」
「名無しね、ちゃんと書くもの持ってきたんだよ。ほら!絵日記帳と、色えんぴつと。」
「そうなんですか。名無しさん偉いですねぇ♪」
表紙に自分で書いたのか平仮名で名前を書いたノートをにこにこと渡される。
あまりに可愛らしく差し出すものだから、丁寧に受け取ってそっとページをめくってみる。
幼稚園でこんなことがあったとか、お友達のあやめちゃんと遊んだとか、すずめちゃんのお誕生日会に行ったとか、色々と書いてあったけど、あるページで指が止まった。
『きょうからなつやすみ!
だいすきなそうじろうにあいにいきました。
わたしはしょうらい、そうじろうのおよめさんになります♪
はやくおとなになりたい!』
(…可愛らしいなぁ…♪)
「宗次郎♪」
「はい?」
「大好きなの!付き合って?」
「あ、はいはい、そうでしたね。描きに行きましょうか♪」
「…はぁい。」
あれ?なんか名無しさん、声小さくなった?
「急にどうしたんです?名無しさんらしくない。」
「べつにー…」
「名無しさんは笑顔が一番かわいいのになぁ。」
「…かわいい?そんなに?」
「ええ♪」
「本当?わーい!」
「でも、朝顔ってここ咲いてるのかなぁ。見たことないや。」
「こっちこっち。」
名無しさんに手を引かれて部屋の中を進んでいく。
部屋の中だけどいいのかな。
「ほら!咲いてるよ♪」
「あ、ほんとですね。」
縁側から庭が見渡せるのだけど。
少し離れた、日当たりのよいところに植木鉢が置かれていて朝顔が咲いていた。紫色の花がとても鮮やかで。
「綺麗に咲いてますね♪」
「そうだねぇ。」
「…でも。」
綺麗に咲くことはありえるけれど。気になるのは、きちんと支柱まで立ててあるところ。
「自然に咲いたわけじゃなさそうですね…。名無しさんが植えたわけじゃないですよね…?」
「えっとね、前に志々雄さんにお願いしてた。」
「なるほど。」
「ずっと前から夏休みの宿題にしますって言われたんだけど、夏休みはここに来たいし、でもしなきゃいけないし。」
(志々雄さん、いきなり行方がわからなくなることがあったけど、育てに抜け出してたんだ…)
「どしたの?宗次郎?」
「いえいえ、なにも…」
じゃあ、もし将来結婚したら、僕もこき使われるのかなぁ。
「……」
こちらを見上げる視線に気付く。
目が合うと、少し照れたように朗らかにはにかむ名無しさん。
愛らしくて、思わず僕も優しく微笑みかけた。
「…なんです。僕の顔、おかしいです?」
「ううん!さ、お花描くの手伝って♪」
「由美。名無しが俺の朝顔見てすごく喜んでるな…。」
「え、ええ…(なんでかしら。ものすごく不憫な志々雄様…)」