〈第一章〉出逢い編
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
──所詮、この世は弱肉強食だ。
戦火が引き、煤と血と数々の死体に埋め尽くされた地。
刀を持つ蛍の背後には、若い剣客の姿があった。
蛍の正面では、たった今、太刀を浴びた敵が肉塊となり、果てた。
「…使えるな。」
「え?」
背後からの彼の一言に、まだあどけなかった蛍は戸惑いの色をその表情に浮かべた。
「女だてらに、ましてやガキが人斬りを名乗る、普通に考えればろくなもんじゃねえ。」
「…」
「だが違う。お前はそれ相応の覚悟をしている。」
この時代を終わらせるために自らの剣を振るってきた。
志を抱き、蛍は幕末を生き抜いてきた。その信念の前にはどんな理念も通用しなかった。
そして、いつしか笑うことや怒ることはおろか、世を楽しむこともなくなっていた。
「…生半可になんて生きれないの…生きると決めたから。」
「…」
「私は生きるためには刀を抜いて人を殺さなければならなかった…」
どんな理由をつけても、剣とは最終的には人を傷付け殺める凶器の他ならない。
即ち、剣は人を殺めるためにある。
その覚悟がなければ剣を持ってはならない。
黙って蛍を見ていた男は一言、こう言った。
「…お前の腕を買いたいんだが。」
──蛍は目を開けた。
陽の光を頬に感じる。
窓硝子から差す陽が蛍の横顔を照らし出していた。
とある省の施設内の書斎だった。
小休憩を取っているつもりが、腰掛けに座ったところ、うたた寝をしてしまっていたようだった。
「……」
握り締め、爪痕が刻まれた手のひらを見つめる。
一見綺麗な白い手。
でも、この手でどれだけの命を殺めてきたのだろう。
幾多の人間を殺してきた。その度にその肉塊を目に映し、血を浴びて…
「…昔のことを夢に見るだなんて。甘いわね。」
蛍は苦笑していた。
窓から一望出来る東京の景色。
今では随分と清廉された街。
望みをかけたこともあった。
だが結局は、幕末からの混沌を清算も払拭も出来てはいない、形だけの時代だった。
脳裏に男の姿が現れる。
『強ければ生き、弱ければ死ぬ。』
彼──志々雄真実の声がこだました。
「…結局は約束をしてよかったということね…」
蛍は瞳を閉じた。