〈第一章〉出逢い編
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「…興味本位?」
「はい。」
「全く…!聞いて呆れるわね。」
蛍は頭を抱えた。
場所を少し変え、庭園の陰、死角となる場所に連れて来られたが、当の本人──宗次郎はにこにこと微笑んでいる。
士官の姿をしてはいたが、どうやら管轄外の地に足を踏み入れてしまっていたらしい。時を同じくして下見に訪れていた蛍は、その光景を見て侵入者と判断したのであった。
「…いいこと?やたらむやみに動かないで。そもそも偵察なら私を通せば安全に案内出来るのに。」
「まあまあ。蛍さんが保護してくれたんだからよかったじゃないですか♪」
「……話がまるで通じないわね。」
蛍は帽子を被り直す。長い黒髪は目立たないように結い上げられている。
加えて、宗次郎と同じく黒羅紗に包まれていた為、彼は敵と見紛ってしまったのであった。
宗次郎は彼女の横顔を見つめていた。
背後の薄赤い椿の蕾が風に揺れる。
彼女の整った顔立ちは彩りの少ない冬景色にはよく映えた。
「でも、びっくりしましたね。」
「こちらがびっくりよ…!」
「蛍さんがまさかオカマだったなん「違うから」…いたたた。」
殴られた弾みで宗次郎の帽子が落ちる。
「なんなの?オカマに対して何か固定観念でも持ってるわけ?」
「あー…そうだなぁ。まあ…持たざるを得ないですね。」
「?」
脳裏にはつい先日、襟元に天剣の文字を施した大鎌の彼の姿が浮かんでいた。
ぶつぶつと呟く彼を蛍は怪訝そうに窺う。
「…この恰好は警備に扮する為よ。あと、この場所は特別だから…」
「特別?」
「男性も女性も皆洋装が正装になりつつあるわ、特に明後日のような場では和装は咎められるわね。」
「それなら蛍さん♪」
唐突にぱん、と掌を合わせ、無邪気に微笑みかける。
「ドレス着ましょうよ、せっかく綺麗なんですから♪」
「冗談じゃないわ、あんなの着て警備なんて出来る訳ないでしょ。」
「でも、見たいなぁ。」
「面白がってるわよね?」
蛍は露骨に顔を顰めた。
残念だなと呟いた宗次郎は頬杖をついた。
「……それで、何か手筈は考え付いたんですか?」
「何かの切っ掛けで、標的の懐に入るしかないわね…」
標的に志々雄の情報を提供する体を装い、近付く。これが一番容易い。
ただ、自身が志々雄側の間者でないという証明が出来ない為、警戒される可能性は否めない。
蛍はそう告げた。
「…蛍さんってこんな性格でしたっけ。大胆だなぁ。」
「出たとこ勝負ね。」
「あ、じゃあこういうのはどうです?」
「?」
宗次郎は笑顔で語り掛けた。
蛍に向かって手招きをすると、その耳元に顔を近付けて囁いた。
「……あなたこそ大胆不敵ね…」
「ふふ♪」
そうですか?とあっけらかんと答える彼の様に、蛍は不安要素が拭えないという風に述べた。
「…一歩間違えればその場で死ぬわよ?」
「大丈夫です。と言うのも、蛍さん次第ですから。」
にっこりと宗次郎は微笑みを浮かべた。
(あ、それはそうと蛍さん。)
(ん?)
(あけましておめでとうございます♪)
(…どういう挨拶の仕方よ。)