宵火ともる下、めぐり逢い
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「宗次郎。」
畔に佇む彼女──さやかは静かに微笑みを浮かべた。
「…私はこの先、どうしようかな。」
「…さやか。」
「せっかく助けてくれたのに、ごめんね…」
僕は何も言えず、また…彼女の涙を流すところを見たくなくて、水面を見つめていることしか出来なかった。
日差しが水面を輝かせ白く反射する。
ゆらゆらと揺れ生気を放つ眩しい光の中。
──死なせてあげた方がよかったんだろうか。
僕達の思考は止まっていた。
宵火ともる下、めぐり逢い
──ずっとお慕いしていた。
* * * * *
「さやか。」
白を基調とした淡い色の着物を彼女は好んでいた。さらさらとした黒髪のかかる背中に向かい、僕は声を掛けた。
振り向く彼女。僕の姿をその目に認めて丸くさせた。
「あ、宗次郎。」
「今日も早いですね。精が出ますか。」
「…ええ。」
さやかは淡い微笑みを浮かべた。
「…宗次郎はこれから任務に?」
「ええ、行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
鈴の音を振るような繊細な声で、美しく彼女は囁いた。その仕草に内心、高揚する。
…僕は彼女に惹かれていた。前より、それは自覚していた。
──でも。表沙汰にすることはなかった。なぜなら。
「──さやか。今晩は嵐のようだから、侵入者の心配はないだろうから広間においで。」
アジト内の番をする役目の彼女にそう伝えに行く。特別、さやかは顔色の変えることはなかったが、
「…志々雄さんが呼んでる。」
「!…志々雄様が?」
瞳が輝いていく瞬間をしかと見てしまう。僕は黙ってそれをかわした。
そう、彼女は。
連れ立って大広間に入ると、
「宗次郎、ご苦労。」
「はい。」
──志々雄さんが待っていた。
「さやか、内情に変わりはないか。」
「はい。」
「今日もご苦労だったな。いつもよく働いてくれてる。」
「はい…」
ほのかに頰を染めて俯いていた。
さやかは…志々雄さんに叶わない想いを寄せていた。
きっと、気付いたのは僕だけだろう。
彼女はそんな胸中を語ったことはない。いつだって自分の胸にしまっていた。
でも…
僕がふと、さやかの姿を目で追えば………彼女の目にはいつもあの人が映っていた。
仕方のないことだった。
僕にはどうしようもないことだった。
彼女の中心は志々雄さんで。
僕の中でも、志々雄さんは絶対の人だったから。
でも。
「志々雄様、先に閨で待ってますわね。」
夜着に身を包み、綺麗に微笑みかけた由美さん。
志々雄さんが一瞥すると、颯爽と由美さんは去っていく。
当たり前すぎて……何者の介在も出来ない世界。
そんな時、さやかはその光景を瞳に映しながらも、寂しげな顔をしているから。
(さやか…)
そんなことをしたって、彼女の心が晴れるわけではないけど。
「さやか、少し付き合ってくれません?」
「…あ、はい。」
耐えきれずに彼女の腕を引きその場を離れた。
──彼女は黙ったまま、導かれるがままに後ろを着いてくる。
一瞬…温かい水のようなものが繋いだ手に当たった気がしたけど、僕は振り返らなかった。
僕はずっと彼女の傍にいながらも、彼女の心は遠く離れていることを感じていた。
それでも、構わなかった。
to be continued……
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