四季彩り折々
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※二人が付き合う前のお話です。
「花より団子って言われそうだね、私たち。」
また新しい串に手を伸ばしながら名無しは呟いた。
満開の桜の木々が幾分も咲き誇る光景を目の当たりにしながら、長閑に過ごす日。
二人で偶然見つけた地も此処の茶屋も、知る人ぞ知る秘境といったところなのか。宗次郎と名無し以外の客は見当たらず、二人はのんびりと寛いでいた。
「まあ、そうかもしれませんね。」
「桜は綺麗で最高だよ。それを楽しみながらこうして美味しいお団子を食べるのが乙なんだよね!」
「そうですよね。じゃ、いただきます。」
「…あーっ!最後の一個、宗次郎がとったぁ…!」
「残念。早い者勝ちですよ。」
爽やかな笑顔で告げられた。
「…ね!もう三個くらい追加で注文しようよ!」
「え~、これで何回目です?」
舞い散る桜の花びらをつい目で追いながら宗次郎は呟く。
けれども、名無しは食い下がるように。
「ねえ、ねえ!宗次郎!」
「んー…」
「どうか今日だけは、この可愛い部下の為に!」
そう言って、ぱんっと両の手のひらを合わせて、縋るように見つめてくる名無し。
宗次郎の視線は自然と名無しの方へと流れていく。
「ね?」
「……」
傍らから差すまっすぐな眼差し。
──宗次郎はそっと空いた手を名無しの顔に近付ける。
「…?」
「……」
一瞬ぴくり、と身動いだ名無しだったけれど、そのままじっと宗次郎の顔を見つめて“なんだろう?”と言いたげな表情を浮かべる。
いつしか笑顔も忘れて、宗次郎は名無しを見つめていたけれど、ようやくふっと笑みをこぼして。
「花びらくっついてますよ。」
「…えっ、どこ?」
「ほら、ここですよ。」
名無しの耳辺りへとゆっくりと指先を伸ばしたが、やがてぴたりと動きを止めた宗次郎。
「え、わかんない。取って取って!」
「…触れますね。」
優しく触れる指先。視界には映らないだろうに、指先を目で追うようにして終始を見守る名無し。
彼女の髪を引っ張らないように、そうっと花弁をつまんだ。
「……取れた?」
「ええ…」
「ありがとう。」
にこ、と笑いかけた名無し。
まじまじとその笑顔を眺めている宗次郎も笑顔を浮かべてはいたが、その目が何処か、想いを馳せているかのように優しげで切なげな香りを含んでいたこと、それは名無しも宗次郎自身も気付く由もなかった。
「…あ。宗次郎。」
「はい?」
「今、宗次郎の頭…てっぺんに花びら付いた。」
目を丸くさせて宗次郎の頭の方に視線を辿らせる。
「え?」
「あ、大丈夫大丈夫!取ってあげるからじっとしてて。」
「すみません。」
よいしょ、と腕を伸ばして。
名無しの春色の袖が重力に従って肘の辺りにゆっくりと落ちる。伸ばされた白い腕が宗次郎の頭の上に翳されていく。
ふんわりと、優しくつむじに触れる気配。
どうしてだか、無性に…暖かさに、名無しに包まれたかのような感覚に陥った。
「はい!これでよし。」
明るい声がこだます。天真爛漫な笑みを浮かべた名無し。
「…ありがとうございます。」
「ふふ、なんかとても仲良しみたいだね、お揃いで。」
とても楽しくて我慢できない、というように朗らかに綻びこぼれる彼女の声。
その無邪気な様に釣られたのか、おのずと宗次郎の表情には和やかな笑顔が宿っていた。
──その移り変わりの一連が終わった頃、名無しはまた縋るように宗次郎に告げる。
「…ね!お団子もう少し頼もう?」
「……仕方ないですね、名無しさんのお小遣い前借りって、後で志々雄さんに伝えときますね。」
「えぇ……」
「その前に頼んだお団子達は誰が出したんだったかなぁ。」
──わざと意地悪に告げると、慌てふためき出す彼女。
つい、何故かそう言ってしまう。
(可愛い部下…か。つい可愛いと思ったなんて、そんなこと。)
自ら感じたことを反芻しながら、けれど宗次郎はその想いを心の深く深くにしまう心積もりをしていた。
(…触れたいと思ったなんて。)
名無しに気付かれぬように淡い笑みを浮かべる。
無邪気に笑っている名無しに相反して、その眼差しは少し悲しげに揺れていた。
指先に触れた花弁の感触、そして彼女の髪の感触が暫く忘れられなかった。
桜の木漏れ日に瞬いた
(眩かった。)
「花より団子って言われそうだね、私たち。」
また新しい串に手を伸ばしながら名無しは呟いた。
満開の桜の木々が幾分も咲き誇る光景を目の当たりにしながら、長閑に過ごす日。
二人で偶然見つけた地も此処の茶屋も、知る人ぞ知る秘境といったところなのか。宗次郎と名無し以外の客は見当たらず、二人はのんびりと寛いでいた。
「まあ、そうかもしれませんね。」
「桜は綺麗で最高だよ。それを楽しみながらこうして美味しいお団子を食べるのが乙なんだよね!」
「そうですよね。じゃ、いただきます。」
「…あーっ!最後の一個、宗次郎がとったぁ…!」
「残念。早い者勝ちですよ。」
爽やかな笑顔で告げられた。
「…ね!もう三個くらい追加で注文しようよ!」
「え~、これで何回目です?」
舞い散る桜の花びらをつい目で追いながら宗次郎は呟く。
けれども、名無しは食い下がるように。
「ねえ、ねえ!宗次郎!」
「んー…」
「どうか今日だけは、この可愛い部下の為に!」
そう言って、ぱんっと両の手のひらを合わせて、縋るように見つめてくる名無し。
宗次郎の視線は自然と名無しの方へと流れていく。
「ね?」
「……」
傍らから差すまっすぐな眼差し。
──宗次郎はそっと空いた手を名無しの顔に近付ける。
「…?」
「……」
一瞬ぴくり、と身動いだ名無しだったけれど、そのままじっと宗次郎の顔を見つめて“なんだろう?”と言いたげな表情を浮かべる。
いつしか笑顔も忘れて、宗次郎は名無しを見つめていたけれど、ようやくふっと笑みをこぼして。
「花びらくっついてますよ。」
「…えっ、どこ?」
「ほら、ここですよ。」
名無しの耳辺りへとゆっくりと指先を伸ばしたが、やがてぴたりと動きを止めた宗次郎。
「え、わかんない。取って取って!」
「…触れますね。」
優しく触れる指先。視界には映らないだろうに、指先を目で追うようにして終始を見守る名無し。
彼女の髪を引っ張らないように、そうっと花弁をつまんだ。
「……取れた?」
「ええ…」
「ありがとう。」
にこ、と笑いかけた名無し。
まじまじとその笑顔を眺めている宗次郎も笑顔を浮かべてはいたが、その目が何処か、想いを馳せているかのように優しげで切なげな香りを含んでいたこと、それは名無しも宗次郎自身も気付く由もなかった。
「…あ。宗次郎。」
「はい?」
「今、宗次郎の頭…てっぺんに花びら付いた。」
目を丸くさせて宗次郎の頭の方に視線を辿らせる。
「え?」
「あ、大丈夫大丈夫!取ってあげるからじっとしてて。」
「すみません。」
よいしょ、と腕を伸ばして。
名無しの春色の袖が重力に従って肘の辺りにゆっくりと落ちる。伸ばされた白い腕が宗次郎の頭の上に翳されていく。
ふんわりと、優しくつむじに触れる気配。
どうしてだか、無性に…暖かさに、名無しに包まれたかのような感覚に陥った。
「はい!これでよし。」
明るい声がこだます。天真爛漫な笑みを浮かべた名無し。
「…ありがとうございます。」
「ふふ、なんかとても仲良しみたいだね、お揃いで。」
とても楽しくて我慢できない、というように朗らかに綻びこぼれる彼女の声。
その無邪気な様に釣られたのか、おのずと宗次郎の表情には和やかな笑顔が宿っていた。
──その移り変わりの一連が終わった頃、名無しはまた縋るように宗次郎に告げる。
「…ね!お団子もう少し頼もう?」
「……仕方ないですね、名無しさんのお小遣い前借りって、後で志々雄さんに伝えときますね。」
「えぇ……」
「その前に頼んだお団子達は誰が出したんだったかなぁ。」
──わざと意地悪に告げると、慌てふためき出す彼女。
つい、何故かそう言ってしまう。
(可愛い部下…か。つい可愛いと思ったなんて、そんなこと。)
自ら感じたことを反芻しながら、けれど宗次郎はその想いを心の深く深くにしまう心積もりをしていた。
(…触れたいと思ったなんて。)
名無しに気付かれぬように淡い笑みを浮かべる。
無邪気に笑っている名無しに相反して、その眼差しは少し悲しげに揺れていた。
指先に触れた花弁の感触、そして彼女の髪の感触が暫く忘れられなかった。
桜の木漏れ日に瞬いた
(眩かった。)