四季彩り折々
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「あかりをつけましょぼんぼりにー。」
「名無しさん、なんですか?これは。」
「雛祭り!」
「へえ。」
無邪気に笑う名無し。
宗次郎はにこにこと微笑みを向け、眼前の高いそれを見上げた。
「これは雛壇なんですか?」
「うん!」
「ふうん。ということは、ここにお人形を飾るんですよね?」
「そうそう♪」
「楽しそうですね。」
「うん!宗次郎も手空いてたら…あああああ!?」
何を血迷ったのか、抜刀されその刀を振りかざされ──反射的に雪洞を掴んで盾にすると、当たる直前でぴたりと寸止めされた。
「な、なななな、なに!?」
震えながら後ずさるも、眉一つ動かさない笑みがこちらを追い詰め続ける。
「名無しさん、それ邪魔です。僕だって無駄にものを壊したくないんですよ。」
「いやいや!私も斬っちゃダメなものだから!」
「いえ、名無しさんも血祭りに上げて一緒に飾ってあげようかと。」
「怖っ!」
縮み上がる名無しをよそに、五段の雛壇に掛けられた赤い毛氈をぴらっと捲り上げる。
「やっぱり。」
「…あ、ばれた?」
「これ、僕の部屋の箪笥でしょ?勝手な使い方しないでください。」
「だってー。雛壇ないんだもん。」
「志々雄さんに頼んでみればいいじゃないですか。」
「知ってるでしょ!?こないだバカ高い花瓶割っちゃったから、当面お小遣いも欲しいものももらえないって!」
「それは名無しさんの自業自得でしょ。」
「ね!一生のお願い!今日だけ箪笥貸して?」
だめ?と上目遣いをする名無し。その仕草に一瞬、宗次郎は怯む。そのことには気付かない名無しではあるが必死に手を合わせる。
「ね!お願いします!」
「変なお願い事もあるものなんだなぁ…」
「あ、そうだ!これとかこれとか、これとか!みーんなあげちゃう!!」
辺りに置いてた雛あられやら菱餅やら白酒やらを貢ぐように抱えて差し出され…
「ね!ね!?お願いします!」
「わかりましたよ、そこまで言うのなら…」
宗次郎は大人しく受け入れたのだった。
* * * * *
「………」
「名無しさん♪なんだか楽しいですね♪」
「そ、そうかい…?」
「あはは、名無しさんてばぎこちない♪」
…なんか。なんか。
宗次郎の様子がおかしい。いつもと違くない?
あれ?こんなキャラだっけ?
私と話す時、いまだかつて音符マーク出たことないよね?
「あれ?名無しさん??」
「わっ!」
急に顔を覗き込まれる。
「ち、近いよ…!//」
「名無しさんってやっぱり…」
じーっとこちらを見つめられる。
「かわいい♪」
「!!?//も、もう!何言ってんの…!//」
「本当のことです♪」
「あっ、もうっ//」
…べたべたべたと頬を触られ…
「あれ?名無しさん。白酒なくなっちゃいましたよ?」
「え!?もう飲んじゃったの?」
「残念だなぁ…あ、名無しさんこれどうぞ♪」
「!///」
満面の笑み。どことなく緩んで幼げなその笑顔になぜかものすごくきゅんとする。
でも…
「え、えと、これ桃の花だけど……?//」
「ふふ♪」
「あ、宗次郎なんかふらふらしてないっ?」
「そんなことないですよ♪」
これさ…ひょっとしてさ…白酒がいかんかった…?もしかしなくても……酔ってる……??
「宗次郎ってお酒弱かったんだ…」
「え??やめてくださいよ、だって名無しさんの方が僕より弱いんだから♪」
そこは理性働くんだ…
「名無しさんは弱くて、それで…かわいいですからね♪僕が守ってあげないと。」
「急な地雷やめてっ//」
弱いとかわいいの繋がりが全くわかんないけど…!
「もうちょっと色気が欲しいなあとは思いますけど♪」
「そっちの地雷もやめてくんない?」
──ああ、教訓。
宗次郎にお酒は飲ませちゃだめだ。
だって…かわいすぎるっ!///
屈託のない笑顔で、それで…頰がちょっと紅くなってたりして、それで微妙に舌っ足らずな時もあって…
あ、でも、少し幼くなったみたい//これならいつもの意地悪や怖い目になんて…
「名無しさん、名無しさん♪」
「はい?」
「見てください♪瞬天さ…」
「ぎゃああああ!!」
「冗談ですよ♪面白いなあ♪」
…前言撤回!質が悪すぎる…!
「宗次郎…他でお酒飲んじゃだめだよ?」
「え?どうしてですか??」
ずいっ、と身を乗り出してくる。ゆっくりと距離を詰めるように、私の方へ這う。
真ん丸な瞳がじっとこちらを見つめる。…正直、とってもとっても、どうしたらいいかわからない!
「…いや、こんな姿見られちゃうとね?だって宗次郎も面子とかあるじゃない…」
「……!僕のこの姿……名無しさんは嫌いなんですか……?」
「え!?そうじゃなくて…」
「嫌いですか…?」
……なんでなんで!?なんで宗次郎、ちょっと泣きそうなの!?
そんな綺麗な顔立ちでその表情は……居たたまれなくなるじゃない!
「僕のこと…嫌ですか?」
「ち、違うよ!……す、好き、だよ!」
「ああ、よかった♪」
朗らかな声が上がった。にこにこ、と無邪気に微笑まれる。
…なんじゃこら!か、かわいすぎでしょ…!!//
そう思っていると、
「僕はね、名無しさんのことが大好きなんです♪」
気付けば至近距離に来ていた宗次郎。目と鼻の先。ふふふ、とはにかむように照れるように微笑まれた。
「……!!///」
「…ね、名無しさん♪…ぎゅーってして?」
「…え、ええっ?//」
「ぎゅーってして?」
「えぇぇ…//」
「……名無しさんから来ないなら。」
「きゃっ//」
「無理やりしちゃいますから。」
飛びつくように抱きしめられた。勢いで床に二人して転がって……
「つかまえた♪」
(うわあああ///)
……私も、もうこうなったら。
少し躊躇いながらえいっ、と抱きついた。
抱きついた……
あれ?何の反応もなし?宗次郎さん?
──身体を少し捻って、少し上の方にある彼の顔を見ると。
「……あれ?寝ちゃったの?」
長い睫毛が閉じた瞼の上にさらさらと覆い被さっていて。安らかな寝息を立てていた。
「ああ、寝ちゃってる……」
「名無しさん…」
「!」
「……幸せです。」
へにゃ、と力なく微笑んだ宗次郎の顔。…しばらくは忘れられそうにない。
優しく彼の頰に手を滑らせ…いつまでも見つめていた。
──桃の花の香りに埋もれた白昼夢。
花酔い日和
(ねえ名無しさん……僕、何かおかしなこと言ってませんでした…?)
(おかしなことって?)
(……)
夢かなぁ…
名無しさんに向かって、大好きって言った覚えがあるんですけど…どうしようかなぁ…///