四季彩り折々
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とある茶屋にて名無しと対面していた操は素っ頓狂な声を上げた。
「え?名無しチョコレートあげないの!?」
「うーんと…そうなるかな…?」
「なんでそうなるのよォ!?」
机をバンバンと叩く操を前に名無しはしどろもどろと口を開く。
「…えーとまあ至極当然で…料理が下手くそだからです。」
「はあ!?」
「何度も言わせないで!私は料理が下手なの!」
「いや聞き取れなくての“はぁ?”じゃないから。」
「…だってね?操ちゃん聞いてくれる?去年あげたのよ。その時は友チョコっていうのかな、本命じゃなかったんだけど。」
「うん。」
「トリュフ作ったの。」
「うんうん。」
「……あげたチョコ見てなんて言ったと思う?」
『はい、宗次郎!バレンタインデー!』
『あ。ありがとうございます。』
『義理ですけど。』
『わかってますよ。本命だなんて言われたらどうすればいいんですか。僕の身にもなってくださいよ。』
『どういう意味?素直に“チョコレートだぁ嬉しいなぁ”とか言やいいのに。』
『気が利かなくてすみません。まさか名無しさんが人間の習わしを知ってるだなんて思いませんでしたから。』
『ちくしょう、あげなきゃよかった。』
「……名無し、本当に付き合ってるの?」
「い、今はちゃんと…!っ、こ、こいびとですっ。」
「よっぽどの意地悪なのか、それとも名無しがよっぽどの鈍感だったのか…。まー、今はもう恋人同士なんだから大丈夫だって♪」
「いや、今話したのは序の口。」
「え?」
『え?これなんですか?』
──箱を開けた宗次郎の言葉。
『チョコって言ったじゃない。バレンタインデーにチョコ以外に何があるっていうわけ?』
『……蓑虫入ってるんですけど。』
「……え、名無し。蓑虫プレゼントしたの?」
「なわけないじゃない!!トリュフ!トリュフだってば!」
「蓑虫に寄せたトリュフ…?」
「なんで蓑虫に寄せなきゃいけないのっ。そういう嫌がらせもありかもしれないけど、私は純粋な好意で渡したわけで!」
「嫌がらせって何!?かー…そうか、名無し料理オンチなのかぁ。」
「だから…あげないもん。どうせ美味しくもないし。」
由美さんや鎌足さんから貰うだろうし。それに、宗次郎甘いもの好きだから自分で買いそうだし。そんなに、いらないでしょ?
………。
(…本当はあげたいんだけどな。今年はちゃんとした“本命”チョコを…。でも如何せん、同じ轍を踏むに決まってるもん。)
「名無しさぁ、素直になりなよ。」
「……」
「そりゃあ去年は散々だったかもしれないけど…今は本命なんでしょ?」
「うーん…」
「私だったら迷わないけどな~。蒼紫様に食べてもらうんだぁ♪」
はたと名無しは静止する。目の前の彼女を窺うように視線を向ける。
「……あれ、操ちゃん。操ちゃんの好きな人……蒼紫様っていうの?」
「うん、そーだよ!蒼紫様すごくかっこいいんだよ!!今度名無しに会わせてあげるね!」
「あ、あはは…き、機会があればよろしくお願いします…」
* * * * *
「あれ?名無しさんいないなぁ…どこほっつき歩いてるんだろう。」
宗次郎は首を傾げたまま廊下を歩く。
──ふと気付く。少し開いている炊事場の扉に。そのまま何気なく覗いた宗次郎は思わず声を上げた。
「…あれ?名無しさん。こんなところにいた。」
「!う、わあああー!!」
わたわたと辺りを隠そうとする名無し。
「何してるんですか?エプロンなんかして。」
「こ、これはその…」
「?お料理ですか?」
「!」
「?違いました?」
「えっとまあ料理…のつもり!」
「つもりってなんです?おかしな人だなぁ。」
はにかんだような優しい笑顔を向けられて、思わず悶々とした想いが名無しの胸を渦巻く。
──チョコレートを、宗次郎に渡したいって思って。
「…あの、実を言うと。」
「はい?」
小首を少し傾ける宗次郎。
その瞳に見つめられると、恥ずかしさで出かかった言葉が燻ってしまう。
「…なんでもない!」
「…そうですか。」
「……」
──だめだめだめ、素直にならなきゃ。
名無しは思い直し、思い切って宗次郎に告げた。
「宗次郎に…贈ろうと思って…」
「…僕に?」
「……バレンタインデー。」
「…!そうですか。」
「あの…私ね、こういうの苦手だから練習して…ちゃんとしたもの作れたら渡そうって思ってて。でも無理だったら何か他のものにしようかなって。」
「……」
「…本当の本当はチョコレートを贈りたいけど、綺麗で美味しいのが嬉しいだろうし。
だからもし渡してがっかりさせたらダメだなぁって…」
目を丸くさせていた宗次郎は、穏やかに名無しに向き直った。
「…何か誤解してるようですけど。」
「え?」
「別に見映えは気にしない…なんて言ったら、どうせ嘘だと言うんでしょう?
でも僕は…嬉しいかなぁ、どんなのだって…。名無しさんから貰えるのなら。
何より一生懸命作ってくれようとしてるんでしょう?…去年のだって。」
「…べ、別にっ…私は…//」
「まあ、いいですけど…」
宗次郎は少し視線を泳がせた後、次第に口元を覆い隠す。そして…熱に浮かされるような表情を名無しに向けた。
「…名無しさん。」
「は、はい?」
「…なんでそんなに健気なんですか…//」
「はい??」
「ああもう、自覚ないでしょ…質が悪いなぁ。」
少し乱されたように言葉を放ち、名無しを見つめる。
「名無しさん…」
「うん。」
「今年は本命ですか?」
「!…さ、さあ?//」
「……ねえ、名無しさん。」
「なに…っ?」
言葉が出なくなる。歩み寄った宗次郎は距離を詰めて手を伸ばす。そのまま頰に触れる暖かい手のひら。
「そ、宗次郎…」
「なんです?」
「…あ、あの、私まだそういうのに耐性がっ…//」
「だーめ。目を逸らさないでください。」
ふふ、と微笑みを向けられる。
──天使かよ、と名無しは内心呟きながらも胸を高鳴らせてしまう。
「…かわいい。」
「!」
ぼぼぼ、と頬が一気に熱を帯びる。
「っ、…な、何言って…//」
「…早くください。本命を。」
ぎゅうっと、包まれる。
──暖かい彼の腕の中。
「ふ、えっ…」
「待ちきれないです…」
至近距離で見る宗次郎の頰は赤く染まっていて。そして耳元で囁かれた甘い声に名無しは素直に頷いた。
「…うん…わかった…//」
心地良くてもどかしい想いを胸に。
彼の身体を抱きしめ返した。
糖度は控えめ?
(いえ糖度は満点、甘さたっぷりです。)
『宗次郎、はい!ハッピーバレンタインデー!』
『ありがとうございます。』
ぱかっ。
『……』
『今年はね!ガトーショコラに挑戦してみました!』
『(……木炭かと思った……)』