彼に食って掛かられる
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「だから、人違いですってば…!」
「往生際の悪い娘だな。」
どうしよう…なんとか隙を見て逃げたいんだけど。がちがちにくっつかれてて隙がないし、どれだけ下手に出てみても、にっちもさっちも上手くいかない。
…悲しいかな、自分自身を貶める作戦に出ることにした。ばかやろう…いや背に腹はかえられない。
「…そもそも、私みたいな女の子が何か出来るように見えます?武器も持ってないし、腕もほら!全然筋肉ないし?か弱い乙女そのものじゃないですか…?」
「まあたしかに戦闘は無理そうだな。」
「それみろ!!」
「あぁ?」
「すいませんでした!」
しかし、奴等は私への監視を緩めることはなかった。
連れ出されて、路地に止めた馬車に向かわされ。そのまま乗るように促される。
「ど、どこに行くんですか?解放してくれないんですか?」
「残念だがな。」
「えっ、なんで?まだ私がその志々雄…とやらに関わりがあるとお思いで?」
「お嬢ちゃんが奴の戦力だとは最初から考えていない。」
「え。」
「戦力以外にも色々と用途はあるだろう、雑用やら諜報やら伝言役やら。あとは…」
「…あとは?」
「「「……」」」
「おいコラ、何揃いも揃って押し黙るんですか。」
「戦力と色事はお嬢ちゃんには関係ない話だろう。」
──私ここを逃れたら、毎日腹筋してくびれを作って、腕立て伏せも毎日して巨乳になるんだ…。
そして“夜伽”の名無し、と呼ばせてやる。夜伽の卵舐めんな。
ところで“夜伽”ってどういう意味なんだろ?帰ったら宗次郎にでも聞こう。
「──まあそういうことだ、お嬢ちゃんには捕虜としての役割を担ってもらおう。」
「捕虜…?」
「知ってることは洗いざらい話してもらう。可哀想だが覚悟しておけ。」
「ま…待ってよ!」
それって、ひょっとして拷問とか受けるってこと…!?
「わ、私を人質として見返りに何か要求するとかじゃないんですか…?いや勿論、志々雄とやらも、その側近とやらも知らないし関係ないんですが!?」
「あの一味が要求に応じるとは限らんからな、たかだかか弱い小娘一匹に。それよりも、お嬢ちゃん自身から知ってること吐かせた方が確実に情報が手に入りそうだ。」
素知らぬ顔で男は告げた。
(……やばいやつじゃないですか。)
背中を冷たい汗が伝い落ちていく。
思わず二、三歩と後ずさるけれど。
「もう遅い。諦めるんだな。」
「あっ!!」
身体を強く押されて馬車の中へ押し込められた。
「俺達は小娘を連れて行く。貴様達は志々雄方の動向を探れ。」
「…!」
自分と一緒に馬車に乗り込んだ男が何やら指示をしているのが、その人数の多さに名無しは目を見張った。
(志々雄さん達は強いからどうってことないのかもしれないけど…でも…!)
もしや、とは思っていたけど思いのほか大それた事態になったことに、ぐるぐると考えを巡らせる。
(──大事な志々雄さんに何かあっては…。
多分、私が一番為すべきことは何も喋らないこと。
私は志々雄さんの詳しいことはほぼ何も知らないだろうし、奴等にとっての有意義な情報なんか何も持っていないだろうけど、志々雄さんについて…宗次郎についても十本刀の皆についても、何も話さない。
ものすごく、ものすごく恐いけれど。せめてそれは成し遂げないと…!
でも拷問って何されるのかな…耐えれるのかな…)
走り出した馬車の中、両脇を奴等に挟まれながらそわそわとしていた。
「…後は手筈通りだ、首尾を怠るな。」
その場に残された一派が散り散りになろうとした時だった。
「“志々雄方の動向を探る”?その戦力でか。ワイらも舐められたもんやな。」
「事は上手く進んでると思ってるみたいだけど。ここからは果たして予定通りに出来るかしらね?」
「なんだ貴様ら!」
「志々雄様の配下のモンや。あんたら、ようやってくれたな。ホンマ。」
張は片目を瞑り、敵を見据えながら背中の刀に手をかける。
「ほんとにねぇ。どうやら前々からあの子に目を付けてたようだけど、こちらの情報網を甘く見ないでほしいわね。」
鎌足は不敵な笑みを浮かべて鎖鎌を構えた。
「ほな、ここから一丁行くで!」
「言われなくとも!」
二人は次々と敵を斬り伏せていく。
鎌足が先に立ち幾許か斬り込んでいったところで、張は一人の男の胸倉を掴んで話しかける。
「…死にとうなかったら、あんたらの拠点の場所教えてもらおうか。…ホンマやったら時間かけて吐かせたるところやけど、名無しの身がかかってるやさかい。どや、悪い条件やないやろ?」
「…!」
やがて自供した男を張が解放すると同時に、様子を見ながら鎌足は語り掛けた。
「…宗ちゃん、聞こえたわよね?」
「はい。」
「後は任せたわよ。」
「ええ、分かってますよ。ここは任せますね。」
鎌足と張の背後で待機していた宗次郎は笑みを浮かべて颯爽と姿を消した。
それを見届けて張は再び刀を構え、鎌足は大鎖鎌を一回しする。
「全く、か弱い名無しに目を付けるなんて。男だったら正々堂々ぶつかってきなさいよね!」
「おお、手厳しいなぁ!」
「当然。行くわよ!」
──二人は敵陣に再び駆け出していった。