彼に食って掛かられる
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「名無しさんの情報網なんてどうせ宛てにならないと思ってましたけど。最高ですね。褒めてあげます。」
「ありがとー!上から目線が少々気になるけれども!」
「ここのお餅おいしいですね。」
皮肉を交えながらも、天真爛漫な笑顔で宗次郎は呟いた。
「おいしいでしょ!?あとこれ見て、お品書き!桜餅もあるんだよ!あとほら、ここに書いてある通り今川焼きもあってさ!すっごくおいしかったし、おはぎもめっちゃめちゃおいしいんだよー!」
「うるさくてお品書きが見えません。」
「はいはい強者からの因縁ー!」
他愛のない会話をしながら。二人して次々とお菓子を食べていたけれど。
無邪気に笑ったり憎まれ口を叩いたりしている名無しの様子を時折、何か思うように宗次郎は見つめていた。
「あーおいしい…あーしあわせ…」
「ねえ、名無しさん。」
「ん?」
名無しは何の気なしに宗次郎の方へと振り向く。
宗次郎はいつも見せる爽やかな笑顔を浮かべていた。
「名無しさんは。」
「?」
「──、───…」
一点の曇りもない眼。
名無しをまっすぐ見つめる眼。
「え?」
「……」
そのまま宗次郎は名無しを見据えるけれども。
「宗次郎ごめん、聞こえなかった…!今なんて?」
「今度名無しさんで試し斬りの練習してもいいですよねって聞きました。」
「ごめんごめん、ごめんてば!あ、ほらおかわりどう!?店員さーん柏餅2個追加お願いします!」
「ねぇ宗次郎なんて言ったの~?ごめんってば。」
「…人が真剣な話してたのになぁ。もう知りませんよ。」
「あい!柏餅2個ともどぞっ!」
もくもく、と頬張る宗次郎。
その表情が少し緩んだ頃、名無しは再び尋ねる。
「……ごめん。もう1回聞かせて?」
「名無しさんは僕といて…いいんですか?」
思いも寄らない質問に名無しは幾度か目を瞬かせる。
「…へ?」
要領を得ない様子になってしまう。
「えーと…?」
「……別にあなたのことはどうだっていいんですけど、」
「いいんかい。」
「…よく言われました。」
「えっ?いいんかいって?委員会から?」
「これから言います。すみません。」
「いやこれ、すみませんって露ほども思ってないでしょ、いてててッ。」
手の甲をぎゅーっと抓られた。
名無しはそこを擦りながら宗次郎の様子を見るけれど。
いつもと同じ笑顔のはずなのに、それはどこか悲しみを表しているように見えた。
「……宗次郎。」
「はい?」
「お茶も…おかわりいる…?」
「…大丈夫ですよ。お構いなく。」
宗次郎は笑いかけて、お皿の柏餅をひとつ取って渡した。
優しいけれど、不安を内包しているかのような、そんな笑顔。
名無しはそっと受け取りながら尋ねた。
「…何を言われたの?」
「よく呆れられました。可笑しくもないのに笑っていること。」
「……?」
──いつ、どこで、誰に。
思い出したくもないけれど。
「でもそうしていれば、やり過ごすことができるから、僕はそれでよかったんです。」
自分でも触れたくないはずの話。
「…強さを身に着ければ、誰にも何も言われなくなりました。生きやすくなりました。」
「……」
──僕を傷付けるもの、脅かすものもいない。
殺してしまったし、自然と遠のいていった。
「僕を利用しようと近付くものなんていない。ましてや僕と関わりを持とうとする人なんて…それこそ限られた人しかいません。
名無しさんは…僕から逃げないんですか?だって僕は強いから、いつ殺されるかわかったものじゃないですよ。」
宗次郎は名無しをまっすぐ見つめた。
「志々雄さんへの恩を感じているとはこの間言ってましたよね。でも、僕のもとにいて名無しさんが何か得するのかなぁって。」
「……私が宗次郎に関わっていたいだけだから。だからこれからもずっといるし、普通に絡みに行くよ?」
「……」
「これからも下克上狙うし、これからも隙あらば負かしてやろうとするし。」
「…」
「これからも宗次郎のおやつ見つけ次第こっそり食べちゃおうと思うし。」
「それは遠慮してくれませんか。」
「得すること…特に考えたことなかった気がするけど、たまに棚ぼたでおやつもらったりはまあ、得かな!」
「…おやつ。(そういえば前に、後で食べようと思ってしまっておいた最中がなくなってたなぁ…)」
「私弱いし雑魚だよね。弱いくせに食って掛かってばかりだって……宗次郎にも、志々雄さんにも皆にも──前にも、あなたに幾度となく言われた。
いつまで経っても言われてて、今も言われてるから、その通りだと思うよ。」
名無しは楽しそうに告げる。
「でも、宗次郎といるの楽しいんだもん。たしかに殺されたくはないけど、でもそれよりも、一緒にいると楽しいから。」
「…楽しい、ですか?」
「うん!」
満面の笑みで頷く。
呆然としている宗次郎。でもその瞳は何かを見出したかのように純粋さで澄み切っていた。
「…まあ?私、志々雄さんにも由美さんにも皆にも気に入られてるし?宗次郎が殺したくなっても殺せないかもー!」
「……本当に変な人ですね。」
どこか安心したかのように宗次郎は微笑む。
「ありがとう!でもお気遣いなく!縮地で来いやぁ!」
「じゃあ縮地で行きますね。」
「縮地は嘘ですやめてもらえますか。」
偽らざる本心
(あるがまま。)
「あ!!!」
「なんですか大声出して。」
「ごめん、あった、得って思ったこと。」
「…」
「“美形を毎日タダで拝める”って初日に思った、すぐ思い直したけど。悪魔だったから。」
「毒にも薬にもならないどうでもよすぎる情報ですね。」