彼に食って掛かられる
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「名無しさん。」
「はいはい、“午後も引き続き仕事頑張ってください”って言うんでしょどうせ。」
「いえ。全然頑張れてないのでそろそろ本気出してくださいね。」
「遥かに下だった…」
ちょいちょい、と宗次郎に手招きされて渡されたのは。
「げ。書類の手伝いかぁ…」
「つべこべ言わず始めてください。」
少し離れた位置の文机に向かって座る宗次郎を見て、名無しはあれ、と声を漏らす。
「宗次郎は今日は一日、室内で仕事なの?」
「そうですけど。」
「なんか珍しいね?いつも縮地飛ばしてあちこちに出掛けてるイメージ。」
書類の仕分けに取り掛かり始めていた宗次郎はふと手を止める。
「…知ってるんですか?普段の僕の様子や任務のこと。」
「うん。あ、でも一緒に外には行かないかな。だって宗次郎みたく走れないし。そもそも戦えないですからね、私!」
「…ふーん、本当に弱いんですね。」
「私の任務の半分は、志々雄さんを癒すことですから!そこはちゃんと仕事してるから少しは誉めてほしいなぁー!」
「え?癒すってなんですか?ストレス与えるの間違いでしょう?」
「志々雄さんを笑顔にしてます!!」
自信満々に告げると若干戸惑ったような表情をされた。
「…え?名無しさん、もしかして志々雄さんの…好い人なんですか?…その」
「今、そのナリでって言おうとしたよね?」
「いや違いますから。その…意外だなって。」
「…はっ!!いや、いや違いますよ!?違いますからね?そもそも志々雄さんには由美さんなんて素敵な方がいるじゃない!いーなー!私も宗次郎と……ハッ。」
宗次郎と……何を口走ろうとしてるんだ、私。
「僕と?」
「そ、宗次郎とタイマン張れるようになりたいなって!」
「名無しさん、お喋りはそろそろやめて手を動かしましょうね?ちなみにいつでも受けて立ちますからね(にこにこ)」
(ひー危なかった……今の宗次郎はさ、それまで私と接したことがないと認識してるわけだからさ。ましてや私をそういう風に思ってないわけだからさ、その…)
「……名無しさん。」
「?」
「…そういえばなんですけど、名無しさんはどういう経緯があってここに?」
名無しは思わず瞬きを繰り返しながら宗次郎を見つめる。
こちらに向けられた宗次郎の眼差しは純粋そのもので。つい、気になって聞いてみたという顔をしていて。そう聞かれてみると無下にすることはできない。
「…宗次郎いいんですかい?無駄口叩いても。」
「まあ、話したくないのならいいですよ。」
「えっとねー。」
「話すんですね。」
相槌を打ちながら、宗次郎はひっそりと心の中で一人呟いていた。
(別に、関心という程ではないです。けど――)
「私、志々雄さんのこと大好きなんだけど…“志々雄さんに恩があるから”だったかなぁそもそもは。それで気が付いたら居座っていたっていうね。」
「ふうん。」
「まあ、今は…宗次郎がいるから、というのが大きいけど。」
「?僕がいるから?」
「…あ!その…何て言うか、今の役目、もう半分は宗次郎の身の回りの手伝いだから、ね!そういうこと!」
「…ふうん。」
「あれ?面白くない?」
「別に?」
“志々雄さんのこと大好きなんだけど”
──その彼女の台詞がどうしたのだというのだろう。
けれど宗次郎は内心、その言葉を反芻していた。
「そうだね、今では──志々雄さんもだけど、由美さんや鎌足さん、方治さんや張さん達にも会えて。」
笑みを見せる名無し。
「そして宗次郎にも会えてよかったなぁって思ってる。」
「……」
「本当、皆いい人で。私の居場所、ここでよかったって思う。」
「…そうですか。」
「宗次郎もなんだかんだ優しいし…あ、やば。デレちゃった。」
たはは、と恥ずかしそうに笑う彼女をしげしげと眺めたけど、次第にはっとする。
そして何かを取り繕うように彼女に背を向けて黙々と仕事に取り掛かり出した。
──別に、関心という程ではないです。けど。
あまりにも型が……名無しさんの、自由気ままに振る舞うという型がこの人の中でも、皆さんの中でも出来上がってるから。
力はまるでないから、わざわざ接する理由はないと思うし無駄だとは思うんですけど…あまりにもここに溶け込んでしまっているし、僕の配下だと言うので気になってしまう。
──何より、ここまで僕に食って掛かる人もいなかったから、物珍しくて。
一瞬の揺らめき
(なぜかあなたの笑顔を見ていたいと思った。)