彼に食って掛かられる
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その後なんやかんやで判明したことだけど、宗次郎は頭を打った影響による一時的なショックのようなもので、一部の記憶を失っているそうだった。
主に、私に関する記憶が抜け落ちてしまっているみたい。なにそれ?そんなに忌まわしい存在なのか、私。
ちぇっ、私も宗次郎のことだけ忘れて仕返し………それはちょっと困るかなぁ。
…あ。昨日、宗次郎の分の茶菓子も食べちゃったから仕返しされてる?
…それにしても、倍返しにも程があるでしょ。
「宗次郎のばーかばーか。」
「名無しさん…でしたっけ。」
「うわ!いたの!?」
後ろから当の本人に話し掛けられて思わず縮み上がる。
「あー、これは『いちゃ悪いんですか。無礼なこと考えてたんでしょ』と食って掛かられるパターン…」
あまりにも繰り返され過ぎて構築された危機管理システムというべきか。瞬時に予想を立てて振り返ったのだけど──
にこにこと爽やかな笑顔を向けられる。あまりにも毒気がなくて、正直拍子抜けしてしまった。
穏やかな笑顔がこちらを見下ろす。
「志々雄さんからお話は聞きました。名無しさんのこと。」
「…そっかー。あ、なんか日常生活には困らないレベルみたいでよかったね。」
「…名無しさんのことだけ忘れてしまったみたいです。すみません。」
頭を下げる宗次郎。
そっかぁ。本当に忘れちゃったんだ。
そう感じた私は思わず…
「仕方ないよ…それはそうと、宗次郎。」
「はい?」
「こんな時に言うのも何なんだけど……」
「実は私、こないだ宗次郎に二千円ほど貸したんだよね。今ちょっとお金に困ってて…そろそろ返し、あだだだだっ!?」
思い切り耳を引っ張られ、あまりの痛みに目を白黒させながら喚いていた。
「いったあい!!」
「聞きましたよ?志々雄さんから。卑劣で姑息なところがあるって。」
「志々雄さん!あンのミイラやろー!!」
「僕の弱味に付け込もうだなんて、そう簡単にはいきませんからね。」
「違う違う、ほんと軽い冗談だから!」
ばしばしばし、とどこそこ構わず叩くとやっと解放された。
──ちぇ、宗次郎はやっぱり宗次郎かぁ。
悔しがってると、何やら視線を感じた。
視線を向けてくるその主は、何か腑に落ちないといったように少しだけ表情を強張らせていたが、ふっと笑みを戻した。
「…不思議ですね、どうしてあなたみたいな人が志々雄さんに気に入られたのか。」
「えっ?」
「よくわからないなぁ。」
「え?宗次郎どうしたの、頭の中迷子になってるの?」
「あまり、気安く呼ばないでもらえます?」
「は?」
「見るからに…あなたって、場違いですよね。戦力にはならなさそうですし、かといって何の使い道もなさそうですし。」
「え?本当に記憶喪失?鋭すぎん?」
「頭も悪そうですし。」
「待って、今って私のことほぼ知らないんだよね?もう馬鹿って知ってるの?え、この短時間で見抜いたの?何その不毛な才能。」
「黙ってもらえます?」
…なんかこの感じ既視感。
「僕はあなたのことなんてどうだっていいんです。単純に言って、馴れ合いたくなんかありませんから。」
白けた瞳で宗次郎はそう言った。
「はいはい、わかりましたよー。今は大人しくするけど、面倒だなぁ宗次郎は。」
「でも、」
──あれ。
目線を合わせるように顔を覗き込まれる。
こちらの様子を窺い見、そして、どこかしら何か企みがあるように薄らと笑みを浮かべて呟かれた。
「志々雄さんが使ってやれと言うので。徹底的に使わせていただきます。」
「…は。」
宗次郎の目元はその前髪のせいで所々影が被さっていたけれど。
「僕は──容赦しませんからね、名無しさん。」
にこ、と微笑まれたはずなのに。
鋭いような眼光が印象的だった。
(め、めんどくさっ…!)
悪魔の微笑み
(原点回帰という名の。)