彼に食って掛かられる
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朧気に覚えていたのは、こちらを見下ろす宗次郎の顔。それと、直後喉を通り過ぎていった冷たい水の感触──
「ん…」
うっすらと目を開ける。ぼんやりと靄が掛かったような思考とほんの少しだけ熱い身体の中心。
辺りを見渡そうと横たわったまま目線だけを巡らせると。
「!」
こちらを向いていた彼の顔。室内に据えられたソファに横たわった名無しの顔のすぐ脇にしゃがみ込んでいるのだけど、腕を枕のように組み顔を俯かせて居眠っていた。
「…すぅ…」
「…寝るんだ、この人も…じゃなくて。
綺麗な顔してるよね…じゃなくて。」
──思い起こされるのは恥ずかしい出来事の数々だった。一つ一つ思い返しながら名無しは顔を真っ赤にさせた。
(な、なんで私…//えっ、やばい、どうしよう。)
何故だかそういう行為が致したくなってしまい、自ら宗次郎に迫った…のだった。
(まっ、待って!!この人に私…したよ!?キス…しかも、何回も…。しかも、ふ、触れるだけじゃ、ないやつ…!///)
「…起きたんですね。」
「!!」
「お加減いかがです?」
「え、ええっと…」
ゆっくりと瞳を開いた宗次郎。自分の心内とは打って変わった様子の穏やかな目に見つめられれば、尚更気持ちが落ち着かない。
「…なんで押し退けようとするんですか。」
「わっ、」
思わず宗次郎の顔へ突っ張った腕は見事に避けられ、手首を掴まれた。
「いやごめん…正視できなくて…」
「…あんなことしといて?」
「ッ…!///」
「…すみません、今のは言い過ぎちゃいましたね…」
「いや…その…」
「ご自身でも思いがけず、ですよね。」
「……恥ずかしさに変わりはないんですがっ…//」
「実は…名無しさんのせいじゃなくて…」
「…というわけで、名無しさんが気に病む必要はどこにもないですから。
少し水を摂って時間が経てば効果は引くみたいですし、おそらくもう大丈夫ですよ。」
「……」
「…何か、気に障りました…?」
「…お水、飲ませてくれたの…?」
「あー…はい。」
「……」
「…なんで黙るんですか。」
「……なんでそっちこそ、歯切れ悪いの。」
「あ、さては起きてたんですね。助平。」
「……!!助平ってなに!ばかばかばか!宗次郎なんて嫌い!!」
やっぱり!やっぱり!!
朧気だけど、あれは……!!
眠りこけていたけど一時…宗次郎の顔が覆い被さってた気がして…
「面倒な人だなぁ…おあいこじゃないですか。」
「助平って言う方がもっと助平なんだ。宗次郎の助平。」
顔を赤くしながら、ぷい、と目線を外し、そうして口先を尖らせてぶつぶつと呟いた名無しを見やりながら。
宗次郎は未だ躊躇っていた自分自身を戒めるように顔をしかめ、そして途切れ途切れに自供するのであった。
「……名無しさんがあまりにも可愛かったし……名残惜しかったから、つい……口移し、しちゃいました。ごめんなさい。」
「……!!//」
「…我慢しなきゃと思ったんですけど…すみません。」
「…な、なんで謝るのよぅ……!?ばかぁ…!//」
「!?痛いです、名無しさん。」
「あ、あと…!」
名無しは少し躊躇いがちに尋ねた。
「?」
「宗次郎は迷惑じゃなかった…?そ、その、私が理性働いてなかったといえども……」
心配そうにそっとこちらを見上げてくる名無しに、宗次郎は静かに笑みを称えて囁いた。一つ一つ名無しに言い聞かせてやるように。
「…本当にあなたは馬鹿ですね。こちらの気持ちなんて全然わかってくれないんですから。」
「……」
「…本当にわからないですか?」
口を閉ざしたままの名無し。ふう、とため息を漏らして宗次郎は言葉を続けた。
「理性を欠いてたといっても…愛しい人にああいう風に求められて…一体どうしろっていうんですか。
……決して動揺なんてするはずなかったのに僕まで……」
「……っ///」
頬を染め立てて眉間に皺を寄せながら宗次郎は名無しに吐露した。その表情に切なげな瞳を浮かべた彼女の肩頬に手のひらを這わせて。よくよく知らしめるように。
「いい…迷惑でしたよ。馬鹿。」
「…馬鹿って言い過ぎ。そうだけど。」
恥ずかしそうにしながらも微笑んで返した名無しの口許をなぞっていく宗次郎の手。
ゆっくりと手を上下させていくにつれて愛おしげに宗次郎は目を細めた。
「責任取ってもらいますからね?」
「……わかって、る…っ…」
「…聞こえない。」
「い、いじわる…!わかったって言…、!」
少し開いた唇を指でやや乱雑にこじ開けて。
噛み付くような、くちづけ。
「っ……ッ、は……っ…//」
驚いたように瞬きを行う名無しに、してやったりと目線で微笑みかけてやる。
抵抗できないように空いてる手で頭を抱え込み、やや戸惑い気味であろう彼女の唇をもう一度奪った。
──ゆっくりと解放すると、短い呼吸を吐きながら少し瞳を潤ませている名無しの顔が現れる。宗次郎はにこりと笑みを浮かべた。
「…今度は、僕の勝ちですから。」
──そう言うと潤んだ目でやや睨み付けてくる名無しさん。…そんな顔でされても微笑んでしまうだけなんですけどね。
「…っ、悔しいなぁ…頭の片隅では下克上したってちょっと思ってたのに…」
「あれ?それは聞き捨てならないですね。」
「ひゃ……っ…!?」
名無しさんの手首を掴み取り。その身体を僕の身体で抑え込んでやる。
──たしかに冗談ですけど。…半分本気。
「しばらく名無しさんに自由はありませんからね。…もう少しこうさせてください。」
「…小動物いじめ反対です。」
「え?猛獣の間違いでしょ?僕しか飼い慣らせないですから。」
楽しげに笑いかけ、宗次郎は再び名無しの頬に手を伸ばした。
これだから
(あなたって人を放っておけない。)