彼に食って掛かられる
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「名無しさん起きてください、朝ですよ。」
「あー……うー……」
「名無しさん。」
…どうすればいいものやら、と宗次郎は名無しを見下ろして思わず腕組みした。
名無しは一向に身を起こす気配はなく、布団を目元辺りまで引き上げていつまでも寝そべっている。
最初は部屋の外から呼んで、次第に部屋の戸を開けて声を掛けても、その時の名無しは反応すら示さなかった。
段々呼びかけが至近距離へと縮んでいった結果、今のこの状況に至る。
「起きれないにも程があります。」
「ちょっと待って…あと……」
「延々ずっと五分、五分と言ってますよね?」
「あと三時間くらい……」
「何なんですか、こう人を苛立たせる生き物。」
思わず呟くと、僅かに覘いてる名無しの目元がにやりと笑った時のように細くなるのが見えた。
体を覆う布団に拳を突き入れる。
「うえっ!」
「なに笑ってるんですか。」
「…あ、ばれた?」
「隠す気あったんですか?」
「宗次郎怒ってるや~って思って、フフフ…」
「他人の鬱憤を浴びてくる仕事向いてると思いますよ。今度試しに出向させましょうか。」
「むりむりむり…それ絶対生きて帰れないやつでしょ…!」
おどけながら、まだ笑みを浮かべている名無し。
「…宗次郎ももう少し寝てればいいじゃん、そうしようよ。」
「………」
「まだ早い時間じゃん、大丈夫だって。一緒に寝よ…?」
……この状況をわかっているのか、彼女は。
寝ぼけ眼を浮かべて片袖を掴んでくる様は可愛くないとはとても言えないけれど。
(…まるで起きる気はおよそ、緊張感もなければ…警戒心も全く…いえ、いいんですけどね。いいんですけど…)
…うっかり過ちを犯すなんてことはないけれども。
咳払いをして、いつもの笑顔を保ちながら諭すように言葉をかけた。
「…あなたが寝ぼけてることくらい重々承知してますけど、そういう冗談は程々に…」
「宗次郎…おやすみのチューして?」
* * *
「いったぁい!!何するの!」
「当然です。からかうのも程々にしましょうね?」
「ほんの出来心じゃん…」
涙目で名無しは訴えるけれども。
頭のてっぺんを抑えながら布団に顔を埋め、そして。
「………」
「あ、さてはまだ寝ようとしてますね?」
「…おや…すみ…」
あまりもの寝起きの悪さに呆れかえりながら、こちらもやや意地になり名無しの体を揺さ振る。
「名無しさんっ。」
「Z~」
「名無しさんってば。もう、普段ろくに仕事しないんだからそんなに起きれないわけないでしょう?」
「ううう、うるさいな…」
耳を塞ごうとより深く布団に潜り込むものだから。
躍起になって、思わず彼女の上に馬乗りになってしまった。
「…へ?」
「名無しさんっ、」
重みが気になったのか、ちらりと布団を捲った名無し。
再び布団の中には逃がさないように、反射的に捲り上げて。現れたその細い腕を掴み上げて押さえ込んだのだけれど。
「あ…」
「あっ…」
はた、と目を丸くさせた名無しさんと目が合った。
……ようやく自分の今の状況を客観的に理解した。言わずもがな、まるで名無しさんに上から覆い被さろうとしているようで。
また間の悪いことに、現れた寝間着姿の名無しさんも着物の前がやや乱れていたりするものだから。
思わずぱっと手を離したものの。あらゆる意味で内心かなり動揺していた。
「…すみません、これは…」
「お、お、お、起きます…!」
そそくさ、と慌てながら少し頬を染めてぎくしゃくと身を起こした名無しさん。
こちらも自ずと、ぎくしゃくしながら彼女の上から身を退けた。
「…違いますからね?事故ですからね?起きない名無しさんが悪いんですよ?」
「わ、私が悪うござんした…お代官様…」
「違うって言ってますよね?」
「え、えっと…お手を患わせたことはこの通り謝りますし…その、黙ってますので…」
「聞いてます?怒りますよ?」
「あ、なんならおはようのチューするんで機嫌をお治めくだせえ…」
「馬鹿言ってないで早く身支度してください。」
「は、はい~…!」
それから名無しさんは少しだけ寝起きが良くなった。
朝のひと仕事
(おはようの…。いやいや、何を考えてるんだ僕は…!)