彼に食って掛かられる
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「名無しさん?」
辿り着いたのは僕の部屋。
焦燥感からか鼓動の音がやけに早い。
扉を開けると、
「うっ!?」
「…いた。」
──明かりを点ける。すぐそこには、慌てふためき出す名無しさんがいた。
少し入ったところの床に座り込んでいたんだけど、余程びっくりしたのか、目を白黒させてこちらを見上げる。
──ずっと起きて待っててくれたのかな…
そう思うと、何から労いの言葉をかければいいのかわからないけど、とりあえず。
「……名無しさん、遅くなって、」
「!えほんっ、おほんっ、っ、ぐっ…!」
「え?は?何ですか?」
「ちょ、ちょ、んぐぅ、待って…」
我慢が出来なくなったのか、間抜け染みた声に混じって苦しそうな喘ぎ声を漏らし、胸の辺りを叩き出す。
弾かれたように、慌てて名無しさんの元にしゃがみこみ、丸まっている背中を擦る。
「名無しさんっ?」
「んっ…!」
「ちょっと…どうしたんですか?」
しばらくして、ぐっ、と喉が鳴ったかと思うと、名無しさんは涙目で荒い呼吸を何度も行い出した。
「はー…はー…!!」
「だ…大丈夫ですか…?」
こちらを見上げる瞳。
とりあえず治まったようで次第にほっとしていく。安心した僕は名無しさんを抱きしめていた。
「わっ…え、えっと…!」
「もう…驚かせないでください…」
「ご、ごめん…」
「待つことぐらい普通にできないんですか、あなたって人は…」
「う…ん…」
でも、責め立てたい気持ちや問い質したいなんて気持ちは毛頭もなく。
抱きしめながらその背中を優しく撫でていると、名無しさんもようやく落ち着いたのか僕の肩口にそっと寄せられるおでこ。
そして、おずおずと、控えめに僕の背中に回される腕。
「…落ち着きましたか…?」
「うん…」
「……帰りを待っててくれたんですか。」
「うん…待ち切れなくなって…」
「そうですか…」
「それで…退屈になっちゃって…ういろう食べてた…」
「……え。もしかして。」
「……」
「もしかしてさっき、ういろう喉に詰まらせてたんですか?」
「……」
罰が悪いのか、そのまま応答がない──肯定ということだろう。
…なるほど、確かに傍らにお皿が置いてある。
「…何が起きたのかと思いましたよ、もう…」
「いや…まさかあのタイミングで宗次郎が帰ってくるとは思わなかったから…」
「というか、こんな夜中にお菓子食べます?普通。」
「宗次郎は食べないわけ?それでも甘党?」
「食べますけど。」
「ほら、人のこと言えないじゃん…」
「…馬鹿。うるさいですよ、もう。」
名無しさんが待ってくれていた──そのことに体の中心が熱くなってくる。
そして、いつもの調子を取り戻した名無しさんに安心する気持ちでなんだか手一杯になってしまって、思わず名無しさんの体をぎゅうっと、強く抱きしめた。
「…そ、宗次郎…心臓ばくばくするんですけど…//」
ぽつん、と至近距離で囁かれた名無しさんの声。
「僕は落ち着いてますけど。」
「え、そう返すの…え、えっと…//」
「…手はそのまま、僕の背中に回して。」
「……うん。」
驚きで、一度離れてしまった名無しさんの腕が再び這わされる。大事なものに触れるように、そっと。
「…足りない。」
「えっ?」
「もっと、しっかりくっついてください。」
「え、えぇ…?//」
「つべこべ言わない…ほら。」
「は、はぁい…//」
衣擦れの音と共に背中を辿っていく手。やがてしがみつくように、背中から肩にかけて伸ばされていく。
「こう…?//」
「…はい、いいですよそれで。」
「……」
「なんで黙るんですか。」
「…今日は、恋人したい日なの…?」
「……なんですか、恋人したい日って。」
「なんとなく…命名した。」
「なんとなくですか。」
押し黙る名無しさん。その胸の鼓動が激しくなっているのを肌で感じ取ったので──少し力を緩めて彼女の後頭部に手を伸ばし、抱きしめながら優しく撫で下ろす。
「……僕はつい恥ずかしくなって、色々振る舞ってしまうんですけど。」
「子供か。」
「今この瞬間、いつでも名無しさんのこと好きなように粛清できるってこと、お忘れなく。」
「…あい。」
「……えっと、つい恥ずかしくなってしまうんですけど。」
「…うん。」
「でも、こういうこと…恋人らしいことも大切にしていかなきゃなぁって。」
「……//」
「ええっと、そうですね。僕はちゃんと名無しさんと恋人してたいって…いつだって思ってますから…今だけじゃなくて。」
何が言いたいんだろう。あやふやにしか言えなくて、もどかしい。ちゃんと名無しさんに気持ちを伝えたいのに。
思わずそのまま硬直してしまったのだが。
──背中に回された名無しさんの手が、ぎゅうっと一層強く僕の肩を掴んだ。
「…名無しさん…?」
「もう、本当…」
「え?」
「無理、死にそう…嬉しすぎて…//」
そう言ってこちらを見上げた名無しさんは熱に浮かされたような瞳をしていて。
「…っ…//」
「ほんと、もう…宗次郎ったら…気持ちの持ちようが…//」
蕾が綻んで開いていくようにみるみるうちに照れた笑顔を浮かべる様を見て、己を抑え切れるはずもなく。
「名無しさん…っ…」
「…あ…//」
「じゃあその気持ち、僕に預けてください…?」
そっと顎を上げさせ、見つめ合った互いの熱い眼差し。
潤んだ瞳がゆっくり閉じられていくのを見計らい、そして唇を重ね合わせた。
──しばらくして唇を離すと、溜め息と共にこぼれる悩ましげな声が微かに響く。
「は…ぁ…//」
「…ごちそうさま。」
「……いえ、こちらこそ。」
恥ずかしげに目を伏せた名無しさん。
その言葉に思わず笑いかけ、今度はちゅ、ちゅ、と小鳥の啄みのようなくちづけを落とした。
「ふ、ん…っ…」
「…普通はね、男だけが言う台詞ですよ。」
「だって、そう思ったから…」
「はいはい…」
もう一度、優しく抱きしめると、くぐもった声が聞こえた。
「……?」
「…おかえり。」
「……ただいま。」
笑顔を見せながら、また、くちづけを落とした。
恋人たちになりたくて
「ほら、宗次郎!これが名物の羊羹よ!」
「へぇ…これはこれは。本当に美味しいものですよ、これは。」
「えっへん♪」
「…あ、名無しさん。ちょっと…」
「ん?」
「顔のこの辺に何か…こちらに近付けてもらえます?」
「??」
無防備に近付いた名無し。
周りの視線がこちらを向いていないことをいいことに、宗次郎は。
「っ……!?///」
「あはは、隙ありですよ。」
「も、もうっ!ばか!//」
(なんだか歯止めが利かなく…?いえ、愛が止まらなくなってしまったようです。)