彼に食って掛かられる
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「──遅くなっちゃったな。」
用事を終えて帰路につき始めたのだが、懐中時計にて時刻を確認すると思いのほか予定時刻を過ぎてしまっていた。
その上夜もとうに更けてしまっているため、帰路への道は星明かりに頼ることになるのだが少し距離があり過ぎる──だけど。
「…せっかく名無しさんが誘ってくれたんだから。間に合わないわけにはいきませんよ。」
急ぎ気味に走り出す。
駆けながら頭の中にずっと浮かんでいるのは名無しのことだった。
任務を負えて思考を占めるものが他になくなったためか、それとも他にも理由があるのか。意識したところで振り払うことなど到底できなくて、宗次郎は自嘲的な笑みを浮かべていた。
(僕、本当に名無しさんのこと……
大切にしてあげないとな。でも思えばあまり恋人らしいこと、してあげられてないなぁ…
恋人らしいこと…名無しさんが喜んでくれること…)
迷いながらも急ぎ足を進める宗次郎だったが、その表情は次第に固い決心を誓っているように真剣なものに変わっていく。
けれど集中している宗次郎自身はそんなことには意識を向けることもなく、一歩一歩と斬りつけるように歩を刻み出していくのだった。
雲に隠れていた月が次第に姿を現していく。月明かりにより微かに明るくなった辺りを視界に入れながら、宗次郎の脚は速さを募らせていく。
──もう少し、いや、もっと急がないと。
愛しい想いをただただ胸に秘めながら。移り変わり行く景色を眺めて心の中で呟いた。
(僕がこんな風になれるなんてなぁ…
ありがとう、名無しさん…)
「ただいま…」
誰も彼もが寝静まっていてしまっていることは承知の上だが、訪れた安堵感と共に思わず呟いてしまう。
アジトの入口を潜りながら、もう一度空を見上げる。まだ高い位置に昇っている月が見えていたが、雲の陰に隠れようとしていた。
(よかった…夜が明けない内に帰ることができて。)
──数刻ほど眠れば大丈夫。これで名無しさんとの約束は果たすことができる。
そして、知らず知らず笑みを漏らしていたことに気付いた。
(名無しさん…明日のこと心配してるかな…)
長い回廊を抜けていき、自ずと訪れたのは名無しさんの部屋。扉を前にするとほんの少し緊張を感じてしまう。
(こんな遅い時間に名無しさんの部屋を訪ねてもいいのかな…寝てしまっていたら悪いし、それに…)
殆ど消灯されて夜の闇に落ち込んだ景色。
──こんな時間に恋人を訪ねていくなんて…時刻が時刻だけに、なんだかいらぬ意識を持ってしまう。名無しさんにも必要以上の警戒心や緊張感を持たせてしまいそう。
だけれど。
(ちゃんと眠ってたらいいんですけど…
でも、名無しさんのことだから…もしかしたら待っててくれてる気もするんですよね。そうなると様子を見ないわけにはいかない。)
意を決して前を向いた。そして。
──少し控え気味に扉を叩いてみたが、返事はない。
「名無しさん寝ちゃったかな…?ちょっと失礼しますね…」
最低限の音だけ立てながら、そっと扉を開けてみたのだが。
「…あれ、名無しさん…いない…?」
見渡す限り、其処はもぬけの殻で。
──どこに行ったのだろう。
暫く静止して考えていたのだけど、あっ、と声を上げて宗次郎は其処を後にした。
「きっと、名無しさん…」
向かう場所は…