彼に食って掛かられる
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「四十秒で支度する!待ってな!」
「四十秒は遅くないですか?」
「うるさい。」
まったく、宗次郎も何かと世話が焼けるなぁ。え?私は?……放っといてください。
適当な着物を見繕って抱えて、宗次郎のところへ──そのまま私は足を滑らせた。
「うわっ、とぉ!!?」
「──わあ、さすが僕の運動神経。よく倒れずに持ちこたえましたね。」
「私のことは褒めないの?」
「むしろ逆です。僕の声で変な声出さないでください。」
「はいはい、そうですか-。……あ、目隠しないや。取ってくるね。」
目隠しの布を取りに箪笥を物色し、手にして再び宗次郎の元へ──そのまま私はまた足を滑らせた。
「きゃあーーっ!!?」
「ああもう、何やってるんですか…」
先ほどと同じく片足を出して踏ん張ろうとしたものの…奇跡はおいそれとは起きないようで。今度はその足もまた、ずるっと滑った…
「「あ。」」
最後に見たのは、こちらに駆け出す私…ううん、宗次郎の姿で。
抱き止められたと思ったところで、強い衝撃が頭に走った──
──名無しさん。
(宗次郎…?)
「名無しさん。」
「……あ、宗次郎。」
ぼんやりと視界の中心にいたのは、宗次郎だった。ゆっくりと瞳を開いていくと、それははっきりと宗次郎の輪郭を映し出した。
「よかったあ、気付いて。大丈夫ですか?」
「うーん…うわ、たんこぶ出来てる!」
「あー…痛そうですね。僕もこの辺りに…」
「あっ、痛そう…」
互いにおでこを見合わせていて、宗次郎ははっとした表情をした。ほぼ同時に、同じくして私もはっとした。
「…戻ってる…?」
「戻ってますね…?」
揃ってぱちぱちと瞬きを繰り返す二人。
「やった……っ、くしゅん!」
「あ。」
「寒い…あ、そっか、私がびしょびしょなのか。」
忘れてた。
「何かすみません…名無しさんが風邪気味みたいになっちゃって…」
「ううん…そういえば宗次郎こそ逆上せたのは大丈夫なの…?」
「ちょっとだけ頭がくらくらしますけど……心配ないと思います。」
「そっか…それならよかった。」
にこ、と思わず笑った。
「……あ、えっと。名無しさん着替えますよね?」
「え?あ…」
「外に出てますから…」
「……」
「あ…急かさないんでゆっくりしてくださいね。」
「…宗次郎、行かなくていいよ。一緒にいて?」
「……え?」
「寂しいじゃん…すぐにいなくなっちゃうなんて。」
縋るような瞳は酷く扇情的で。思わず言葉を詰まらせる。
「…ちょっとだけ後ろ向いてて?すぐ終わるから…」
「…わかりました。」
「うん…」
「……あ。やっぱり僕、名無しさんが着替えてる間に…何か身体を暖める飲み物持ってきますんで。」
立ち上がった彼を見上げると、いつもの笑顔を向けられた。それ以上引き止める術はなかった。
「うん。…ありがとう。」
──心なしか慌ただしく出て行った宗次郎を見て。
なんだか悲しいような、よくわからない気持ちがこみ上げてきた。先ほど繋いでいた手のぬくもりは……あれだけ嬉しくて離すまい、と思っていたのに、ほんの少ししか感じ取れなかった。
「私おかしいのかな……うん、さっき逆上せたし、色々あったから…だよね。」
独り言、世迷い言。そう言い聞かせた。
夢なら醒めないで