彼に食って掛かられる
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「名無しさん、ただいまー。」
「あー、おかえりなさい。宗次郎。」
声が聞こえたので、よいこらしょ、と腰を上げて宗次郎を迎えに行く。
…遠方に出掛けてたはずだけど、全然疲れが見えない。
ニコニコといつもの笑顔を浮かべていて正直拍子抜けした。
「なんだ、全然元気じゃない。遅いから苦戦してるのかな~って思ってた。」
「まさか。あー、お腹すいたなぁ。」
「え?何か作れってフリなの?それは。」
「え?何も用意してないんですか?」
「だって今日帰ってくるとか聞いてないもん。用意できっこないよ。」
「ふーん…」
暫し考え込んでいた宗次郎は、やがて何かに思い当たったかのように、スタスタスタと向かい出すので名無しは少し焦る。
「えっ、な…何?」
「いえちょっと思い当たる節が。」
「…!あ、そっちの方危ないよ!こないだ床抜けた」
「嘘ですね。」
スタスタ、と宗次郎は歩みを止めない。名無しは更に慌てて宗次郎の着物に縋り付く。
「あー!ちょい待ちちょい待ち!!そっちは水浸しになってて…」
「嘘ですね。」
「あ、ち、違うの!砂糖撒き散らしちゃって、蟻が…!」
「嘘ですね。」
「…!今そこで皆だるまさんが転んだしてて、今動いてるとこ見られたら負けだか」
「嘘ですね。あまりにも嘘がお粗末すぎます。」
とある部屋の前で宗次郎はぴたりと止まった。
「……宗次郎さん宗次郎さん、お腰につけたきび団子…、ってちょっ!あ、ああああー!!!」
ぴしゃあっ、と襖を開けられる。
部屋…もとい名無しの部屋。部屋中に沢山の雑誌や漫画やお菓子が散在し、座布団や抱き枕や毛布の形跡がつい先程まで部屋の主がいたことを示している。
今まで悠々自適に過ごして仕事をサボっていたのは一目瞭然だった。
両手で顔を覆う名無しに宗次郎はにこやかに微笑みかける。
「…名無しさん、名無しさん。」
「え~っと、これはね…!?」
「肉団子にしてあげましょうか?」
「ぎゃああああ…!!」
「…ねえ由美サン。」
「…何かしら鎌足。」
白けた目で喧騒を眺める鎌足の問いかけに、由美も白けた目を逸らさずに言葉だけ返した。
「…あの子らさぁ、恋仲になったんじゃないの?」
「…そうらしいわね。」
「…あれはああ見えて新種のイチャイチャ状態なわけ?」
「…私も同じこと聞こうとしてた。」
「あ、鎌足さん。由美さんも。」
「…あら、宗ちゃんこちらに気付いたわね。」
「…名無し伸びてるわね…」
肉団子…ばたんきゅう状態の名無しをよそに宗次郎は爽やかに微笑む。
「これ、お二人にお土産です。ちょっと遠くに行ってたもので。」
鎌「あら、まあ!ありがと宗ちゃん!…じゃなくて。」
「?」
由「…ねぇ、ボウヤ?」
「?どうかしたんですか?お二人とも。」
鎌「ちょっと聴きたいことがあるのよ。」
微笑みを浮かべたまま尋ねる彼に二人は口火を切った。
由「あんた名無しのこと、好いてるわけ?惚れてるわけ?」
鎌「愛してるわけ!?」
由「もっと言うと、一人の異性として見てるわけ?」
鎌「名無しのことピーーー(放送禁止用語)ーーーしたいと思うわけ!!?」
由「ちょっと鎌足!!!!」
鎌足の叫びと由美の怒号を受けて、宗次郎は刹那、目をぱちぱちとさせるものの、
「やだなぁ、二人とも。」
「「!?」」
にこりと微笑んだ。くすくす、と囁くような笑い声が洩れる。
「僕が、名無しさんを好いてる?
名無しさんに惚れてる?
名無しさんを愛してる?」
「名無しさんを一人の女性として見てる?」
「僕が名無しさんをピーーー(放送禁止用語)ーーー 「ボウヤ!!!それ言っちゃダメ!!!」…したいと思ってる?」
「「………!?」」
暫しの沈黙の後で、宗次郎は真っ黒な笑顔で呟いた。
「…吐き気を催すような気持ち悪い言葉。やめてください。(にっこり)」
「「!?」」
凍り付く二人をよそに宗次郎はふふ、と目を細める。
「僕は名無しさんの飼い主で、名無しさんは僕の下僕ですから。」
「ちょっとーー!!宗次郎!!なんで私が宗次郎の下僕になってんの!?」
「あ、名無しさん。」
意識を取り戻した名無しはワナワナと震える。
そのまま勢いづいて宗次郎に殴りかかるも、横抱きにされてしまう。
「わあっ!?」
「やっと起きたんですね。早いとこ部屋片付けちゃってください。ちゃんと部屋の空気も換気するんですよ。」
「だーっ、こら!離して!」
「それから罰として報告書書くの手伝ってください。それといつもの倍の仕事を言いつけますから、それにもすぐ取り掛かってください。」
「え?何言ってんの!?意味不明なんだけど。」
「早くしないとピーーー(放送禁止用語)ーーーしちゃいますよ?(黒笑)」
「!!??……はあっ!?///」
爽やかな笑顔を向けられるものの、耳にした言葉に思わず沸騰しそうになる名無しであった。
「…ねぇ由美サン。」
死んだ魚のような目のまま鎌足が口を開く。
「…なに、鎌足。」
由美も死んだ魚のような目のまま問いかけに反応する。
「あの笑顔はさ…照れ隠しなわけ?」
「……」
「あの態度も要するに…照れ隠しなわけ?宗ちゃん超が付くほどのツンデレなわけ?」
「……私もそう思っていたところ。」
二人の呟きもよそに、名無しは宗次郎に抱えられて仕事に就きましたとさ。
惚れた腫れたなんか
果たして、本当のところは…?
* * * * *
『名無しさん、これお土産です。』
『え?わあっ!すごくかわいい簪!!ありがとう!』
『いいえ。』
『…あれ、宗次郎?顔赤くない?大丈夫?』
『なんでもないです。名無しさんには関係ありません。』
『かわいくないなーもう。』
ぶつぶつと呟きながらも、嬉しそうな笑顔を見せる名無しをちらり、と見ながら宗次郎は心の中で思った。
(好き…か。恥ずかしくて口が避けても言えないや。)