彼に食って掛かられる
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「あっれー!?名無し!もう、どこ行ってたのよ!?心配してたんだから!」
操ちゃんは心底ほっとしたようで、ちょっとだけ、お説教された。
「操ちゃん…心配かけてごめんね!本当にごめん!大丈夫だったから!」
「もう日も暮れるけど…帰れる?なんなら、うちに泊まってっていーよ?」
「あ、ううん。すぐそこまでお迎え来てるから大丈夫!ありがと!」
途端に瞳がらんらんと輝き出す操ちゃん。
「…え!?例の彼が来てるの!?」
「!違う違う!」
「いるんだ!?」
「いないよっ!!」
「ひゅーひゅー!!名無しの彼氏さぁーん!聞こえる-!?名無しのことよろしくねぇー!!」
「みみみ操ちゃんっ//やめて!近所迷惑!」
「…ごめん、宗次郎ありがと。」
「いいえ。」
操ちゃんと離れ離れになったままだったから、心配かけてごめんねと言うために宗次郎に送ってもらったんだけど…
それはいいとして。
…やばい、宗次郎の顔また見れなくなった…。
人通り多いしガヤガヤしてるから、もしかしたら聞こえてないかな…!?
ちらり、と覗き見すると、腕組みをしていた宗次郎はこほん、と咳払いをしてじとっとした目線を投げ掛けた。
「…一体全体、何の話をしたんですか。」
あちゃー…聞こえてた…!
「なんかまあ…ご、誤解を与えてしまっていて…//」
なんて言えばいいわけっ…//
「誤解、ねえ…」
「…ごめん、勝手に。」
「……別に、謝ってほしいわけじゃないんですけど。」
「へ…?」
「……なんですか、その顔は。」
珍しく眉間を寄せて、じろりとこちらを見下ろしてくる。
不機嫌なような、困ったような……もどかしそうな……何か言いたげな………見たことのない、顔。
こん、と額を小突かれた。
…思ったほど痛くない。
「……?」
「…ほら、顔上げて。帰りますよ。」
帰路に続く方向を向き、青い着物が翻る。
…少し躊躇いながら、その袖をつい、と摘まんだ。
「?なんですか。」
「…宗次郎、あのね。」
振り向いた彼にえいっ、と包みを差し出した。
「え?」
「今日は、ありがとう…迷子になっちゃってたから、その…迎えに来てもらって本当に心強かった…。ありがとう。」
「……」
「あ、それもあるんだけど…これは、」
…慣れないことする緊張からか腕が震えてくる。
「…私、失礼なこと言っちゃった、よね…」
「え?」
「えっと………失恋したとき。」
──私、宗次郎のこと、好きならよかった。
「……」
「…その、今思えば……心配してくれて親身になってくれてる…宗次郎に、自分の都合でそんな勝手な想定話するなんて…それはなしだなって…気付いて。」
こんなこと言うの、正直とても勇気がいる。
でも。
「私、人の気持ちも考えないで…好き勝手言って…。でも宗次郎に嫌がらせしようとか、そんなこと思ってたんじゃなくて………。宗次郎に…甘えて、甘ったれてた…」
「……」
「だからあの、あれ………うう、何て言ったらいいんだろ…うん…」
まっすぐ宗次郎の目を見ようと顔を上げる。
「本当にご」
──ふいに、手のひらを当てられ口を覆われる。
「……?」
「…だから、謝らなくていいって言ってるじゃないですか。」
「……」
真剣な眼差しと──
優しく触れている手に不意をつかれて何も言えない。
固まって動けなくなっていると。
「本当に…馬鹿ですね。」
優しい、微笑み。
穏やかな瞳。その表情に釘付けになり──
ふわっとしたそよ風が胸の内を通り過ぎた感覚。
思わず見とれてしまっていた。
…実は、あんなこと言ったから……ひょっとして慰める意味でキスされたのかなとも、思ってたんだ。
だから…大丈夫だよ!って伝える意味での感謝も込めて、贈り物をしたんだ。
けど…
同情とか慰めとかでは、ないの…?
じゃあ…それって…?
「じゃあ、帰りましょうか。」
「…うん!」
…でも。
言いたかったこと、やっと言えて。受け入れてもらえたのが嬉しくて。
だから今日は。
「ありがとね…」
……なんとなく、宗次郎の腕にくっつきたいなと思いながら、並んで二人で歩き出した。
恥ずかしいけど。
(ちゃんと言わなきゃ。)
『…あ、綺麗な落雁じゃないですか。』
『ここのとても人気なんだって♪』
『早速いただきま……何ぽかんと口開けてるんですか?』
『私にもひとつだけ!ちょうだい…?』
『…まあ、………に免じて。』
『?』
…巻町さんに免じて。