彼に食って掛かられる
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『ボウヤへ。ちょっと町までお買い物に行ってきます☆』
「…帰ってきたらお仕置きですね。」
名無しの部屋に残されていた置き手紙。もちろん書いたのは名無しである。
宗次郎は笑顔で手紙をぐしゃ、と掴んで丸めて捨てた。
「!!うわ、今なんかすっごい悪寒した!!」
町に下りてきていた名無しはぶるっと身震いした。
(これはきっと殺気というやつだわ…そうに違いない…!心当たりはたった一つ、ふざけて手紙に書いた「ボウヤへ」…!!)
「名無し?どうかした?」
「聞いてよ操ちゃん。私家に帰れない、殺される。そんな念が送られてきた。」
「なにそれw」
隣で一緒に歩いていた操は反射的に吹き出した。
「名無しさぁ、一度ちゃんと病院で看てもらった方がいいよ。」
「うん、私もそう思ってる。」
「思ってるんだ!?…あ、ここよ!このお店がそうよ。」
操は笑顔で名無しに指し示した。
「ここ…?」
* * * * *
「ありがとねー操ちゃん、一度ならず二度までも。また町の案内してもらって。」
「あれ?五、六回はしてると思うけどな。ま、いいってことよ!」
操は得意気に胸を打った。
「また名無しが一人で出歩いて迷子になって、悪い奴らに絡まれたらと思うと気が気じゃないからさ。」
「いや!さすがにもう大丈夫!」
名無しは笑った。
操もつられて笑顔を浮かべたが、やがて名無しの手元をまじまじと見つめる。
「でも、ちょっと高そうなの買ってたよね?」
「まあ…ちょっとね♪えへへ。」
少し照れたように名無しは微笑んだ。
「…前に言ってた、名無しの友達に?」
「うん。…こないだね、私すっごい失礼なこと言っちゃったんだ。それでなんていうか。」
「そうなんだ。」
「普段こき使ってくるし怖いし意地悪だし殺しにかかってくる奴だけど。」
操は仰天し、思わず目をかっぴらく。
「なにそれ!?それ、友達なの!?名無しやばい奴に囲われてるんじゃない!?」
「いやいや!そんなんじゃないから!(まあ志々雄さんは決して健全な一般人とは言えないよなぁ…)」
「ほんとに!?名無しぼーっとしてるからなぁ…ここはいっちょ、あたしがガツンと!」
「いやいやいや!ほんと!本当に大丈夫だから!」
勢いづいていく操を名無しは慌てて制した。
「え、なんで!?」
「違うの違うの、そういうんじゃないの!」
しかめっ面をする操。名無しは宥めてこの場を落ち着かせようと懸命に言葉を模索する。
「悪い奴だけど、意地悪な奴だけど…」
「…」
「すっごく腹立つ奴だけど、何度もぶん殴りたいと思ったことあるけど、決して、決して悪人じゃなくて!」
「悪い奴だけど、悪人じゃないんだ??」
「うんっ…!そんなんじゃなくって……うまい言葉が出てこないけど…!悪い奴じゃないの…」
「あれ、さっき悪い奴って言ったよね?」
「あ!う、ううーん…そうなんだけど、そんなに悪い奴じゃなくって……」
「む、難しい人だなー…」
ええっと…と言葉を詰まらせながらも必死に否定しようとする名無しに、操はふと気付いた。
──名無しの頰が赤く色付いていることに。
その仕草はまるで。
加えて、先程からの様子や受け答え。
ピンときた操はぽんぽん、と名無しの肩に手を置いた。
「名無し…そいつに恋してるんだね。」
「へ?」
目を点にする名無し。しかし操は止まらない。
「もう何も言わなくて大丈夫!あたしには伝わったよ!」
「え?何が…?」
「きっと、名無しがそこまで想ってるんだから、本当はいい奴なんだよ。だって、名無しはあたしの大事な友達だからね!そんな名無しが好きになる人なんだから、きっといい人よね!」
「あ、あの?操ちゃん?」
「名無しも隅に置けないなぁ~。そっか、名無しはその人と仲直りしたくて、それでこんな手土産まで…!大丈夫!きっとうまくいくよ!あたしが保証する!!」
「操ちゃん、操ちゃーん?」
「というか、その人も名無しのこと好きなんだったりして!?」
「………え?」
笑顔で覗き込んできた操の言葉に、はたと固まる名無し。
操は目を輝かせながら思うままに名無しにまくし立てる。
「そうだよ!きっとその人、名無しが好きなんだよ!」
「え、好き?」
「うん!」
操は拳を握ったかと思うと、ぽん!と手を打つ。
「だから色々意地悪とかしてくるんだよ!」
「え」
「だって名無しみたいなかわいい子、ほっとけないもん!一緒にいると幸せな気分になれるもん!」
「え」
「両想いだよ!きっとそうだよ!!」
「え」
「ここはもう!!名無しが愛を伝えたら即オーケー…」
「…っ、違う違う違う違う!!!絶対違う!!!///」
声を大にして叫んだ名無しに操は思わずひっくり返る。
「うわぁ!何よ急に大声出して!びっくりするじゃない!」
「違う違う違う!!絶対に違う!!絶対違う!!!///」
「違わないって!好きなんでしょ!?その人のこと!」
名無しはムキになって叫ぶ。
「違う!!好きじゃない!!」
「愛してるんでしょ!!」
「あっ!?あい!?愛って…っ、愛!!?///」
「他に何があるのよ!名無しはその人を愛してて!その人も名無しを愛してるんじゃないの!?」
首まで真っ赤にした名無しの顔から勢いよく湯気が出る。
(愛!!?私が!宗次郎に!!?宗次郎が…私に!!??///)
初めてのこと、胸倉を掴まれて口吻された時。
そして、ニ回目の…
『したいようにさせてもらいます。あなたのうるさいその口は僕が塞ぎますから。』
(じゃあ……あれらは……!?////)
ヒートアップした操は、ぎこちなく動いている名無しの身体を揺り動かす。
「てか、名無しさぁ、ムキになって否定するから余計怪しい!認めなさいよ!好きなんで」
「ちっがーーう!!!」
「わあっ!?」
再び驚いて転んだ操に向かって、ワナワナと全身を震わせながら、名無しは力の限り叫び出す。
「決して、決して決して決して!!宗次郎のこと愛してなんかいないからぁぁぁぁ!!!!////」
「あっ!?待ちなさい!名無し!!」
あらぬ方向へ駆けだしてしまった名無し。
呼び止めて追いかけようとするも、スタートが遅れたことと、その隙に雑踏に名無しの姿が紛れてしまったことで操はその場に立ち尽くすしかなかった。
「え…っ、ちょっとどこ行ったの!?名無しーー…!!」
まさかのスイッチ
もうどうにも止まらない。