彼に食って掛かられる
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ただいま場面は変わりまして、宗次郎と私はぐつぐつと煮立つおでんを囲んでおります。そう、このおでんは前話で私が持ってきたおでんです。
…わからぬ。
え?何がって?
えーと、宗次郎にその……………キス、というのをされて。
(自分で言いたかないけど)飼われてる身の私は一体全体どうしましょうか。どういう心持ちになったらいいんでしょうか。
うん、そうだ。きっと宗次郎、何か変なもの食べたんだ。…じゃないと、あ、あんな!い…色っぽい顔してキスしたりするはずがない!!///
…何を食べたのかは聞かないでおいてあげよう。よっぽど変なもの食べたんだ、あんなことするからには…
「名無しさん。」
「…あ。はい?」
「絶対、失礼なこと考えてますよね。」
「へっ!?え、えっと~…あはははは…」
白けた眼差しを向けられる。
「これだから弱い人は嫌なんですよ。」
「ねぇそれは力のこと?頭のこと?」
「両方です。」
言うが否や、ぴしっと指を弾いておでこを狙い撃ちされる。激痛が奔り私は呻く。
「いったあ!」
「これだけ痛めつけても足りないくらいです。」
「…私が鈍感なことに呆れてるの?」
「…別に理解しなくていいって言ったじゃないですか。」
ぷい、と目線を外される。
「…完全に見下してるよね?根っからの馬鹿だからどうせ理解できないだろって思ってますよね?」
「当たり前じゃないですか。」
「じゃあ怒らなくてもいいじゃない、ばかー!」
………見えない。
普通好きだからキスするんじゃん?
でも、これ微塵も私のこと好きじゃないよね?絶対、馬鹿としか思ってないよね?しかも、さっきの白けた目!!好きって思ってる相手に普通はしないよ。
そう、決して色っぽいとかなかった。私の記憶違い。あ、私の方が何か変なもの食べたのかもしれない、知らないうちに。もうそれでいいや。病院行こ。
「もういいや、おでん作りすぎたからどんどん食べて。」
「おでんっていうか、こんにゃくと大根とたまごしか入ってないじゃないですか。れっきとした嫌がらせでしょ。」
「あり合わせだったから練り物なかったのよっ!!宗次郎が急に体調不良になんてなるから!」
「だから違いますってば。」
やれやれ、と呟く彼の姿に、さっきまでの疑問がまた再燃してしまう。
「……じゃあ、」
──なんでキスしたの?
──私のこと、好きなの?
そう聞けばいいのに。当然の疑問だから聞けばいいのに、聞けない。さあどうして?
「………なんでもない。」
「…」
(…聞かないんですね。)
馬鹿は馬鹿なりに聞いてくれればいいのに───
「……な、なんでもないから……」
「…はい名無しさん、あーん。」
「た、たまご丸ごとじゃん!あーん出来ないって!」
「仕方ないなあ。じゃあ大根で。」
「そんなに熱いの無理だよっ。」
「気が利かない人ですね。せっかくの人の好意を。」
「嫌がらせにどう応えろと?」
やっぱり、意地悪ないつもの宗次郎だ。──そう思った時、
「じゃあ……これは、好き?」
それだけの言葉だったのだけど、甘い、澄んだ声に言葉に、ふいにドキッとしてしまった。
一度逸らした視線を恐る恐る戻すと、こんにゃくを箸で摘まんでらしただけだった。しかし、その…とても綺麗で端整な微笑みを向けられてた。
突然そんな、らしくない表情向けられたりしたら…ドキドキするしかないじゃない。
「……好、きじゃない。」
「ふうん…」
いっぱいいっぱいで、思わず否定したけど、追い打ちをかけられる。
「おかしいな。名無しさん、こんにゃく好きじゃなかったですか?」
「…違う。こんにゃくは好き、食べる。」
「こんにゃく“は”?」
「………そんなこと言ったっけ?」
「ふーん。」
にこにこと微笑まれる。
…まずい。なんかまずい流れだ。手のひらで転がされてる気がする。
流れを変えようとしてお皿を宗次郎の方に差し出すものの、宗次郎はひょいっとお箸を遠ざけてしまう。
「あ!ちょっと、」
「…名無しさん、今ちょっと動揺してますよね?」
「も、もう、うるさいなぁ//ちょうだい!」
「え?熱々のこんにゃく口に突っ込んでいいんですか?」
意地悪な言い方とは裏腹に、頬を優しく手で包み込んでやるとみるみる瞳孔が開いていく。
「もうっ//じ、自分で取り分ける!」
──彼女の顔が紅潮していくのを目の当たりにした僕は、唇の両端を吊り上げる。
「…名無しさんは僕のこの顔に弱いんですね。」
「ぶっ!」
「覚えておこうっと♪」
「けほけほけほ…っ!!ち、違うもん!いつもと違うからびっくりしただけだもん!」
「いつもと違う…。じゃあ、」
ふいに名無しさんの顔を覗き込むと、びくっと身を縮める。
「…っ…?//」
「さっき、キスした時も…」
「!!」
大方、思い出して居たたまれなくなってるんだろうなぁ。真っ赤に染まる顔にもっと意地悪をしたくなる。
「…ひょっとして、やばかったんじゃないですか?」
「~~!//」
「普段と違う姿に興奮する…というやつですか。名無しさんはそういう嗜好なんですね。」
「じ…じっくり解析しないでください!//」
ぽかぽかと非力な力で胸を叩かれたけど、反応を見るに、結構キスの効果はあったのかなと思う。
思わず口元が緩んだところを、名無しさんに睨みつけられた。
──せいぜい、愛らしい馬鹿でいてください。でも、この先もっと追い詰めてあげますからね。
心の中でそっと呟いた。
賽は投げられた
(宗次郎の色気が半端ない//ちょっと分けて欲しい…//)