彼に食って掛かられる
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「…宗次郎、いるー?」
彼の部屋の前で呼び掛けてみる。しかし…何の返事も返ってこない。──そう思いきや。
「いますけど?」
開いた扉から見慣れた顔が私を見つめてきた。
敗北宣言
…やっぱり私も乙女だから。
宗次郎の顔見た瞬間「この唇が私のここに…!」って…。でも一瞬ね、一瞬!!それでもって、「この人が私のファーストキスの相手かぁ」…とかね!
うん、そう思ったりもしたけど!今はそんなこと思ってる場合ではない!!
「は、はろー!」
ああ、開口一番、失敗した…なんだこの挨拶…!純日本人の癖に何気取ってんだ私は…!
「名無しさん…間違っても他所で言っちゃダメですよ。恥さらしですから。」
「あ、あははは。そ、そうだね!(いつもなら怒るけど今日はナイスフォローだよ宗次郎っ!)」
「……なんか、厄介な物持ってきました?」
じとっ、と私の抱えるものと私とを交互に眺める。
「…なんですか、これは?」
「ああ、おでん!」
「おでんという名前の暗器ですか?」
「火傷して死ね。…いやー、宗次郎お腹空いてないかなーって思って…」
「別に空いてないですけど…」
「寒がってないかなーと思って…」
「なんなんですか、突然。それらの結論に至るまで何があったんですか。」
…しまった。そんなこと、考えるまでもないのに。名無しさんにそんな挙動不審な思考をさせたのは、あの突然の出来事のせいに決まってるのに。…まあ名無しさんはよく変な動作をしてるから、いつも通りと言えばそう言えるけど。
でも今回は違うだろう。
「…すみません、名無しさん。何て言ったらいいか…」
「?」
丸い瞳がこちらを見返す。
「…あれは僕がどうかしてました。」
「やっぱり!だよねー!?」
甲高い声を上げてきゃっきゃと叫ぶ名無しさん。
満面の笑顔に一応ほっとするも、なんでそんなに笑っていられるんだろう、なんでもなかったのかと、少しもやっとする。
「…なんなんですか?なんでそんなに軽く笑ってられるんですか?」
「え?だって、宗次郎。どこか具合悪いんでしょ?」
「は?」
唖然とする宗次郎を尻目に名無しは得意気な表情を向けた。
私は沢山考えた──考え過ぎて知恵熱が出たところではっとした。
(そうだ!!体調不良だったんだ!!)
私だって風邪をひいたりする。風邪をひけば、よろけたり怠くて動けなかったり、朦朧としたりする。歯磨き粉と練り生姜を間違えて口にして延々と歯を磨いたり、意味の分からない行動をしてしまったこともある。
そう、きっとあの時、宗次郎は体調不良だったんだ。でなければ、私なんかに、奴にとっては寄生虫と同等の価値の私なんかに、キスなんかするわけがない。
全ては病気のもたらす所以であるだろう──
「…とまあ、こういう推理!!」
「……へー、なるほど。」
…名無しさんはやっぱり名無しさんだった。
「いやあ、よかったね!私が理解力の高い女で!じゃないと今頃痴漢にされてるよ!」
「ははは。なんかもうどうでもいいや。」
「でもきっと、宗次郎にとっては黒歴史なんだろうなー。」
「そうですね、色んな意味で黒歴史になりました。」
「でも大丈夫!心配しないで!私の胸の中だけに留めておくから!」
「…そうですか。じゃあ。」
「…ふえっ!?」
手荒に腕を引かれ、背中を軽く打つ。そのまま身体にのし掛かる重みに目を開けると──
「えっ?宗次郎?」
「……」
無表情な宗次郎の顔がこちらを見下ろす。名無しの身体は彼によって押し倒されていた。
「え…?あれ…?何か怒ってる…?」
「…まさか。」
不敵な笑み。
「ど、どうしたの?」
「別に、どうも。」
「…空気読めって言われても、何したらいいかわかんない…」
「ん?何もしなくていいんですよ?」
端正の取れた彼の顔が彼女の目と鼻の先に近づいてくる。
「えっ…!?ちょ、ちょっと待って!///」
「うるさい。」
はね付ける一声に名無しは目を瞬かせる。そのまま宗次郎は告げる──
「…察しろなんて言いません。理解しろとも言いません。でも…待ちません。」
「…宗…?」
「したいようにさせてもらいます。」
今まで見たことのない、熱の籠もった彼の眼差しに名無しの胸は高鳴る。
「あなたのうるさいその口は僕が塞ぎますから。」
「!わ…っ、!///」
あなたに、負けた。
負けて僕は、理性を手放した。
──そして二回目のくちづけは、宣戦布告の証だった。
敗北宣言
目覚めには毒林檎を。
</font