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※現パロ
宗次郎とは恋人同士です。
(残業しちゃったなぁ…)
荷物をまとめながら名無しはちら、と手首に視線を向ける。
──二十一時と、少しを過ぎたところ。
やっぱり、と名無しは小さな溜め息を吐いた。
けれど“でもよかった”と安堵の気持ちが込み上げてくるのを感じた。
お付き合いしている年下の恋人に──“今週は仕事が立て込んでいて、クリスマスは一緒に過ごせないかもしれない。ごめんなさい”…そう告げていた。
『そうなんですか…お仕事頑張ってくださいね。』
優しく労るように、可愛らしい笑みを向けてくれた彼。
“もしかしたら上手い具合に仕事が進んで”、“あわよくば”──勿論、そのようなことを思わないでもなかったけれど。けれど確実に約束出来ないことは口には出せなかった。
(でも一緒にケーキ食べたりしたかったなぁ。宗次郎ケーキ好きだもんなぁ…)
前に通り掛かった洋菓子店で色とりどりのケーキをにこにこと眺めていた彼の笑顔を思い出して、名無しはふふっと笑みを溢した。
コートを羽織り退勤し、部屋を出て。
静まり返ったオフィスをまっすくに進んで、エレベーターのボタンを押して乗り込む。
下降するエレベーターの中でじっとしながら、また一つ溜め息を溢した。
(…今日はコンビニで晩ごはん買って帰ろ。これから何か作るのもしんどいし、明日も仕事だし…)
再び浮かんだ彼の顔。
(…宗次郎は何食べたのかな、今日。)
──付き合いたての時よりは、彼の物の考え方や行動の仕方は少しは掴めるようになった気はするけれど。如何せん、のらりくらりと適当に流すところ、ちゃっかりと処理するところ、その選択をするポイントを彼はどのように線引きしているのか、その点は未だにあまりわからなかった。
(…今日どうしてたかくらい、聞いてみてもいいかな…?遅い時間だから、ちょっとだけ…
声も聴きたくなっちゃったし…///)
スマホを握り締めた名無しの頬はほんのりと淡く染まっていた。
やがて歩き出し、出入り口へ向かう。
空を覆う真っ暗な夜が顔を出す。ビルを出ると冷たい風に晒される。思わず首を竦めようとした、その時。
「──名無しさん。」
「!?えっ、宗次郎?」
「お仕事終わったんですね、お疲れ様。」
「っ、え、どうしてここに…」
待ち合わせしてたっけ…
「名無しさんに内緒で会いに来ちゃいました。」
「えっ!?…ずっとここで待ってたの!?寒かったでしょ…!?」
「うーん、少しだけ。」
「ごめんなさい!遅くなっちゃって…」
きめ細かな彼の頰に思わず触れると、冷たくて。
「宗次郎、風邪引いちゃうよ…」
「もう、名無しさんに会いたくて来たんですから、いいじゃないですか。」
「…でも。」
ぎゅ、と両手で手を握り締められる。
「暖かくして来たんで大丈夫です!ほら、帰りましょ。僕のお家行きましょう。」
「え…今から…いいの?」
「名無しさんと食べたかったんでお料理頑張ったんですよ!ケーキももう買っちゃいました。」
「えっ!そうなの…!」
頬、鼻の頭を少し赤くしてる彼。
でも彼は無邪気に微笑んで、名無しに再びその手を差し出した。
「…名無しさん、はい!」
ただそれだけで、彼がそうして微笑みかけてくれるだけで心の中心が熱くなり、どうしようもなくなりそうになる。やがて伸ばした手をしかと掴んで宗次郎は満足そうに笑った。
「…名無しさんの手暖かい。」
「…宗次郎の手冷たいね。」
「名無しさんの手で暖めてください。」
にこり、と笑って。名無しの真横にぴたりと寄り添うようにして。繋いだ手をまたぎゅっと握り締めた。
街中のイルミネーションは今年に限って点灯時間が短いのだけれど、それ故に人の数は少なくて。
(……///)
しようか、しまいか、考えていたけれど。名無しは甘えるように宗次郎の肩に頭を少し預けた。
「…名無しさん、可愛い。そういうの普段からもっとしてほしいなぁ。」
「…お家でなら…」
「僕は外でも構わないんだけどなぁ。」
「…こ、これくらい人がいなければ…///」
「えぇー、もう照れ屋さんなんですから。」
あっけらかんと笑ってから、宗次郎はじっと名無しを見つめた。
「…?私の顔、何か変…?」
「いいえ。いつもの可愛いお顔ですよ、ちょっと疲れてるみたいですけど。」
「ここのところ残業続いてたからなぁ…」
「…僕で癒されてください。」
反対側の手で頭をぽん、ぽん、と優しく撫でてくれる。
すべて預けて微睡みたい、早く家に着きたい…名無しはそんなことを思いながら、心地よい彼との空間に幸せを噛み締めるのであった。
「…ねえ、名無しさん。」
「?」
「…あ、いえ、なんでもないです。」
「早く帰って、暖まらなきゃね。」
「…ええ。」
笑いかける名無し。その横顔を見て宗次郎は想いを募らせるのであった。
(──せっかくの雰囲気だけど、“今”は名無しさん疲れてるだろうし…家に着いてから…)
名無しと繋いでる側と反対側の手をポケットに差し入れる。
ゆっくりと何度も何度も手で、指先でなぞって確かめる。名無しに贈るために用意した、小さな小箱。
──名無しさん、喜んでくれるかな。
内心少し緊張しながらも、そうは見せまいと宗次郎は柔らかな笑みを浮かべて想いを馳せるのであった。
クリスマスの夜が明ける頃には
(君の眩い笑顔を目の当たりに出来ていたら)
宗次郎とは恋人同士です。
(残業しちゃったなぁ…)
荷物をまとめながら名無しはちら、と手首に視線を向ける。
──二十一時と、少しを過ぎたところ。
やっぱり、と名無しは小さな溜め息を吐いた。
けれど“でもよかった”と安堵の気持ちが込み上げてくるのを感じた。
お付き合いしている年下の恋人に──“今週は仕事が立て込んでいて、クリスマスは一緒に過ごせないかもしれない。ごめんなさい”…そう告げていた。
『そうなんですか…お仕事頑張ってくださいね。』
優しく労るように、可愛らしい笑みを向けてくれた彼。
“もしかしたら上手い具合に仕事が進んで”、“あわよくば”──勿論、そのようなことを思わないでもなかったけれど。けれど確実に約束出来ないことは口には出せなかった。
(でも一緒にケーキ食べたりしたかったなぁ。宗次郎ケーキ好きだもんなぁ…)
前に通り掛かった洋菓子店で色とりどりのケーキをにこにこと眺めていた彼の笑顔を思い出して、名無しはふふっと笑みを溢した。
コートを羽織り退勤し、部屋を出て。
静まり返ったオフィスをまっすくに進んで、エレベーターのボタンを押して乗り込む。
下降するエレベーターの中でじっとしながら、また一つ溜め息を溢した。
(…今日はコンビニで晩ごはん買って帰ろ。これから何か作るのもしんどいし、明日も仕事だし…)
再び浮かんだ彼の顔。
(…宗次郎は何食べたのかな、今日。)
──付き合いたての時よりは、彼の物の考え方や行動の仕方は少しは掴めるようになった気はするけれど。如何せん、のらりくらりと適当に流すところ、ちゃっかりと処理するところ、その選択をするポイントを彼はどのように線引きしているのか、その点は未だにあまりわからなかった。
(…今日どうしてたかくらい、聞いてみてもいいかな…?遅い時間だから、ちょっとだけ…
声も聴きたくなっちゃったし…///)
スマホを握り締めた名無しの頬はほんのりと淡く染まっていた。
やがて歩き出し、出入り口へ向かう。
空を覆う真っ暗な夜が顔を出す。ビルを出ると冷たい風に晒される。思わず首を竦めようとした、その時。
「──名無しさん。」
「!?えっ、宗次郎?」
「お仕事終わったんですね、お疲れ様。」
「っ、え、どうしてここに…」
待ち合わせしてたっけ…
「名無しさんに内緒で会いに来ちゃいました。」
「えっ!?…ずっとここで待ってたの!?寒かったでしょ…!?」
「うーん、少しだけ。」
「ごめんなさい!遅くなっちゃって…」
きめ細かな彼の頰に思わず触れると、冷たくて。
「宗次郎、風邪引いちゃうよ…」
「もう、名無しさんに会いたくて来たんですから、いいじゃないですか。」
「…でも。」
ぎゅ、と両手で手を握り締められる。
「暖かくして来たんで大丈夫です!ほら、帰りましょ。僕のお家行きましょう。」
「え…今から…いいの?」
「名無しさんと食べたかったんでお料理頑張ったんですよ!ケーキももう買っちゃいました。」
「えっ!そうなの…!」
頬、鼻の頭を少し赤くしてる彼。
でも彼は無邪気に微笑んで、名無しに再びその手を差し出した。
「…名無しさん、はい!」
ただそれだけで、彼がそうして微笑みかけてくれるだけで心の中心が熱くなり、どうしようもなくなりそうになる。やがて伸ばした手をしかと掴んで宗次郎は満足そうに笑った。
「…名無しさんの手暖かい。」
「…宗次郎の手冷たいね。」
「名無しさんの手で暖めてください。」
にこり、と笑って。名無しの真横にぴたりと寄り添うようにして。繋いだ手をまたぎゅっと握り締めた。
街中のイルミネーションは今年に限って点灯時間が短いのだけれど、それ故に人の数は少なくて。
(……///)
しようか、しまいか、考えていたけれど。名無しは甘えるように宗次郎の肩に頭を少し預けた。
「…名無しさん、可愛い。そういうの普段からもっとしてほしいなぁ。」
「…お家でなら…」
「僕は外でも構わないんだけどなぁ。」
「…こ、これくらい人がいなければ…///」
「えぇー、もう照れ屋さんなんですから。」
あっけらかんと笑ってから、宗次郎はじっと名無しを見つめた。
「…?私の顔、何か変…?」
「いいえ。いつもの可愛いお顔ですよ、ちょっと疲れてるみたいですけど。」
「ここのところ残業続いてたからなぁ…」
「…僕で癒されてください。」
反対側の手で頭をぽん、ぽん、と優しく撫でてくれる。
すべて預けて微睡みたい、早く家に着きたい…名無しはそんなことを思いながら、心地よい彼との空間に幸せを噛み締めるのであった。
「…ねえ、名無しさん。」
「?」
「…あ、いえ、なんでもないです。」
「早く帰って、暖まらなきゃね。」
「…ええ。」
笑いかける名無し。その横顔を見て宗次郎は想いを募らせるのであった。
(──せっかくの雰囲気だけど、“今”は名無しさん疲れてるだろうし…家に着いてから…)
名無しと繋いでる側と反対側の手をポケットに差し入れる。
ゆっくりと何度も何度も手で、指先でなぞって確かめる。名無しに贈るために用意した、小さな小箱。
──名無しさん、喜んでくれるかな。
内心少し緊張しながらも、そうは見せまいと宗次郎は柔らかな笑みを浮かべて想いを馳せるのであった。
クリスマスの夜が明ける頃には
(君の眩い笑顔を目の当たりに出来ていたら)