短編集
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(本当にうっかりしてた…!梅雨なのに傘を持たずに出掛けるなんて…!)
名無しは小走りで視界に入った木の下に辿り着き溜め息をついた。
そう、今朝は珍しく晴天で、お昼に出掛ける時だって雨の気配なんてまったくなかった。
だから今日は傘を持たなくても大丈夫だと判断して任務に出てしまった。
「街中なら傘を買って帰れるのになぁ…」
このまま雨宿りして少し待ってみて、小降りになったら帰ろう…そう思った名無しはしゃがみこんで空を眺めた。
(………暇だなぁ。)
(早く帰って宗次郎のところに行きたいな。朝早く出たから今日はまだ会ってない…)
「……名無し?」
「…あれ?宗次郎?」
宗次郎の姿が目の前に差し掛かる小道に。
傘を差したままこちらを見て目を丸くしていた。
「…どうして宗次郎がここに…?」
「こんなところで道草食ってたんですか?」
「う、うん」
さすがだなぁ、と言いながらも、憂いを帯びたような、安心したような笑顔。
そんな笑顔を見てほっとしたら、なんだか緊張してきた…
「あ…あのね、宗次郎…」
「傘を忘れて帰るに帰れなかったんでしょう?」
「……ずばり、そうです…」
「馬鹿だなあ」
「…まあ、そうだよね…(核心過ぎて何も言えないよねこれは)」
「そうそう、ご託はいいですから」
にこにこと容赦のない責め立て。
「…ほら、入ってください。一緒に帰りましょう」
「……ありがとう」
傘を持つ右手をこちらに伸ばされ、優しい微笑みを向けられた。
隣に並ぶ少し高い位置の肩と、自分よりやや大きな、傘を持つ手。やっぱり宗次郎が頼もしく思えた。
「何をじろじろ見てるんです?」
「え?あ、いや、その…!」
「僕に見とれるのもいいですけど、足元が危ないですよ?」
「ちゃんと気を付けてるもん…」
「あ、見とれてることは事実なんですね」
「……!」
ふふ、と見つめられれば返す言葉がなかった。
思わず顔を反らそうとしたが、はたと気付いた。
「宗次郎、迎えに来てくれたんだよね…?」
「え?ああ、そうですね」
「ごめんね。今日は任務がない日だったんでしょう?なのに面倒かけちゃって…」
「でも、こうやって久々に名無しと二人で散歩出来てるでしょ?むしろ嬉しいなぁって思います」
「…///(な、なんて返せばいい?なんて返せば…)」
「まあ、玄関に置きっぱなしの傘を見たら、放っておけませんよ。ああ名無し馬鹿だなぁ、仕方がないなぁって♪」
「……(嬉しいような、嬉しくないような…)」
「あれ、なんだか複雑な顔してるなぁ」
「い、ひゃ!」
面白いなぁ、と笑いながらほっぺたをつままれた。
「もう!怒るよ!」
「あはは、すみません」
「………やっぱり宗次郎は宗次郎だ」
「まあ、判断はお任せしますね♪…それより」
宗次郎はじっと彼女を見据えた。
「…もっとこっちに来てください」
「え?」
「肩が濡れるでしょう?」
「でも…詰め寄りすぎたら、逆に宗次郎の肩が濡れちゃうから」
宗次郎の肩を見ながら遠慮がちにする名無しを見つめ、何かを思い巡らせるように間を置いてから宗次郎は言った。
「…名無しが濡れたら洒落にならないんですよ」
「で、でも…」
「いいから」
(わっ…!)
空いてる方の手で力強く腕を引っぱられれば、宗次郎の身体に密着せざるを得なかった。
「…ご、ごめんね」
「なんで謝るんです?」
「だって、窮屈になっちゃって…」
「……名無しは嫌ですか?」
「…ううん」
宗次郎の言葉を思い出す。
「…むしろ嬉しいなって思った…かな…//」
「……」
あはは、と恥ずかしくなって自分で笑い飛ばすも、無言で真っ直ぐ向けられた視線。
気付いて思わず俯くと、ぐっと肩を抱き寄せられた。
「…あっ」
「かわいいですね、あなたは」
宗次郎の温もり。
「そんなこと…」
「こういうのも、嫌じゃないんでしょうか?」
「……うん」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「…うん…//」
窮屈で、嬉しさで胸がつかえて、安心感でいっぱいで。
傘の外から聞こえる雨の音が、なんだか遠い世界のことみたい。
「…ありがとう、宗次郎」
「…お礼には及びませんよ」
雨がくれた温もり
(ずっとこうしていたいな)
END