短編集
【短編用】名前変換
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「名無し。」
「名無し。」
「名無しさーん。」
「宗次郎、うるさい。」
本音と愛を読み聞かせ
「集中出来ないじゃないの。」
机を隔てて向かい合っている二人。
持っている本を前後にぱたぱたと揺らし、名無しは目の前の彼を睨む。
「静かにして。」
「だって名無しが全然聞こえてないみたいだから。」
机に伏せていた宗次郎はにこにこと切り返す。
「聞こえてるから。」
「じゃあ返事してくれてもいいじゃないですかぁ。」
「このやりとりさっきから何回繰り返してると思ってるの。」
「名無し、過ぎたことにいつまでもこだわるのは良くないですよ。」
「現在進行形ですが?」
宗次郎は名無しの読み終えた本に目をやる。
積み重ねられたものを複数手に取り、自分の方に寄せて枕にしながら呟いた。
「ねえ、まだ読むんですか?」
「…あと少し。」
再び本に意識を向けるも、宗次郎は食らいつく。
「つまんないなぁ。僕はどうしたらいい?」
「本があるじゃないの。枕にばかりしていないで読んでみたら?」
「だって字ばっかりですもん。」
それで当然だと言わんばかりの回答。
「…それが本っていうものでしょ。」
「溜め息なんて似合わないですよ?」
「あなたがつかせたんでしょ…」
静かにページを捲る姿に宗次郎は微笑む。
「だって、あなたが夢中にさせるから。」
「…今は構わないようにしてるんだけど。」
「ええ、僕の勝手です。勝手に夢中になってます。」
「……?」
「でも、悪くないんでしょう?」
気が付くといつの間にか、宗次郎がすぐ隣に立っていた。
その笑みに思わずどきっとして目をそらす。
「あ、名無し。今僕を見てどきっとしましたね。」
「…してない。」
「…顔赤いですよ?」
「そ、そんなことないわよっ」
慌てて手元の本で顔を隠すものの、穴が空くほどと言っていいほど見つめられる。
「…なによ…?」
目元だけを本から覗かせながら名無しは様子を伺う。
「隠せてませんけど?耳まで赤いですよ。」
「う、うるさいなぁ。」
「でも、悪くないんですよね?」
抱えていた本をそっと掴んだと思えば、そのまま持ち上げられ、隠したい顔が露になる。
「…そんなことないわ。嫌。やめて。」
「まだそんな減らず口を叩きますか。」
取り上げた本を閉じ、ぽんぽん、と表紙を叩く。
「本音だってば…!」
「説得力がありませんね、こんなに顔を赤くして煽っておいて。」
「あ、ちょ…」
本が床に落ちる音。手首を掴み上げて近付き、狩猟者のように怪しげな笑みを浮かべる。
「宗次…」
「そんなんだから、いじめた…構ってほしくなるんですよ。」
「……いじめたいって何よ。」
「あ~…思わず言っちゃいました。」
睨む名無しに宗次郎は愉快そうに笑うも、参ったとばかりに名無しの腕を解放した。
「人の弱味につけ込んで…!」
「あはは、そういうことかな。」
「もう…!」
手首を擦るような動作と共に自分を落ち着かせようとする名無しを眺める。
「まあ…常に見て聴いて、触れていたいと思いますね。」
「!」
「愛情表現というものですよ。」
「…」
「だから怒らないでくださいね。」
「仕方ないわね…」
解放されて油断していた名無し。それを宗次郎は見逃さない。
えい、とばかりに彼女の頬に吸い付いた。
「んっ!?」
驚きの声と接吻の音。突然の柔らかい感触に驚く名無し。
「…!」
「弱味につけこんだんじゃないですよ?名無しに隙があったから。隙を作ってましたもん。」
悪びれもなく微笑み、そして落ちた本を拾い上げ、差し出した。
「とは言え…僕が構ってほしいだけですから、どうぞ続きを。」
「……続きは後にする。」
頬を赤くしたまま名無しは呟く。
「あらら、じゃあ今からどうするんです?」
「…言わせないでよ。」
「……」
「……構ってほしいんでしょ?」
「僕も、名無しも、ですよね。」
そう言えばますます恥じらいの色を見せる名無しに、宗次郎は愛しさを感じるのだった。
本音と愛を読み聞かせ
(どんな表現技法でも、惚れた弱味というもの。)
END