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現代夢、学生パロです。
「宗次郎、お疲れ様。」
「あ。ありがとうございます、名無し♪」
差し出したボトルを受け取り、宗次郎はにっこりと微笑んだ。
真夏の炎天下。お昼時で太陽が照っているけど、何よりその笑顔が眩しくて。私は思わず目を逸らした。
──その途端。
「えいっ。」
「!ひあっ!冷た!」
べち、と冷え切ったボトルを頰に押し付けられ悲鳴を上げると、彼はくすくすと笑った。
「脅かし甲斐があるなあ。」
「も、もうっ!」
「あはは、すみません。」
謝りながらもずっとにこにこしている。
「…息一つ切らしてないけど…ちゃんと水分補給しなよね?」
「はーい♪」
宗次郎は…部活のエース。
人並み外れた足の速さを持ってて、様々な記録を次々と打ち立てている。
加えて誰にでも人懐こいから、皆にも慕われてて、人気で…。
──やっぱり、すごいなぁ…
「名無し?」
ついぼんやりと彼のことを眺めていると、目の前に突然降ってくる宗次郎の顔。
「ひゃっ!」
「何ぼーっと考えてるの?」
「べ、別に!こ、これ、タオル!」
どさくさに紛れて押し付けて乗り切ろうとしたら、
「はい、名無し。」
「へ?なんで私?」
ぽいっと私の頭に被された。
「今日暑いですからね。」
「?」
「少しでも日除けになれば。名無しも気をつけてくださいね?」
にっこりと微笑まれ、名無しの心臓はとくんと鳴った。
「名無し。待った?」
「ううん。」
「そっか。じゃあ帰ろっか。」
制服姿に着替えた宗次郎は颯爽と私の隣に身を寄せた。
並んで歩いているうちに夕日が出て来る。
その光景を見る度に、また一日終わってしまうんだと感じてしまう。
「宗次郎…いつもお疲れ様。」
「え?名無しだって大変でしょう?いつだって練習のサポートに来てくれてるじゃないですか。」
「だってマネージャーだもん。」
「いつも助かってますよ♪」
他でもない宗次郎にそう言われると、とても嬉しい。つい、はにかみそうになる。
「…でも、秋大会で終わっちゃうね…」
「…そうですね。」
「寂しいな…会えなくなっちゃう…」
思わず口にすると、宗次郎は目を丸くしてこちらを見つめてきた。
その様子から自分の発言に気がつき、頬が熱を持っていく。
「あ、そ、その!皆に会えなく…なるなって…!」
「…ふふ、そうですよね♪」
無邪気に微笑む宗次郎。
…本当は…会えなくて一番寂しいのは、宗次郎だよ…。
そんなことを思っていると、頭にぽんぽん、と優しく手を置かれた。
少し背の高い彼の表情は、横目だけでは追えなくて。宗次郎は私のこと、どう思っているんだろう。
(私は…宗次郎のこと…//)
そんな時。
「あ。」
宗次郎の声。
「どうしたの?」
「名無し、あれ。」
「え?」
視線を向けると、歩道の向こう側にお店。袋に入った花火が沢山並んでいる。
「花火、しません?」
にこっと人懐こい笑顔で囁かれた。
「あ、この辺なら大丈夫かな?」
「うん、大丈夫じゃない?」
学校の近くの川まで辿り着き、川縁まで歩いた。
空のペットボトルに水を汲む。
辺りも随分と暗くなったけど、その分宗次郎との二人きりの空間を感じられるような気がして、名無しは少し嬉しかった。
「なんか、わくわくするね。」
はい、と名無しは袋を開けて宗次郎に花火を差し出した。
「はい、名無しも選んで。」
「じゃあ、これ!」
「じゃあ…火付けますよ?」
宗次郎の手元で灯された火が、明るくその光景を映し出す。
そして、名無しの花火が音と光を放つ。
「ついた!」
「あ、綺麗ですね。」
「わあー!きれい!」
名無しは目を輝かせる。
「ね!宗次郎のも早く!」
「はいはい♪」
赤、青、黄…様々な光が放たれていく。
その度に名無しの気持ちも高まっていった。
(今日は本当に、一生の思い出だな…//)
色とりどりの火花に見入っていると、宗次郎がぽつりと呟いた。
「よかった、名無しが楽しそうで。」
「…だって、宗次郎とだもん、まるでデートみたいで…」
「……」
「あっ!ううん、なんでもないの!//」
思わず本音をこぼしてしまい、名無しは慌てて否定した。
「…名無し。」
じいっと見つめられる。
「は、はいっ?」
「真っ赤ですよ?」
「えっ?//」
あたふたと頬を触り、火照っているのか確かめようとしてたら、
「名無しの花火が。」
「…あ!ほんとだ!花火、花火ね!」
「ふふっ…なんのことだと思ったんですか?」
「…!」
「第一、暗くてよく見えないですから。」
「た、たしかに。」
宗次郎は微笑んだ。
「もっと近くに来ません?」
「え…?」
「…ほら。」
おいでおいで、とする宗次郎。
光に照らし出された目元。少し恥ずかしそうにしているように見えた。
「う、うん…///」
遠慮がちに、でも言われるがままに名無しは宗次郎の傍らでしゃがみ込んだ。
「…次の花火貸してください。」
「あっ、うん。」
新たに灯されていく花火。
再び照らされた彼の顔はいつもと同じように見えたけど。
(宗次郎…急にどうしたんだろう…?//)
さっきのやり取りがずっと頭から離れない。
でも、意識のし過ぎかな、と思い立ち、手元の花火に視線を移した。
──その時。
「名無し、僕は。」
宗次郎の声が静寂の中通る。
「……?」
「ずっと、気にしていたことがあって。」
「?うん…」
火花の勢いが弱まり始め、少し静かになった隙に宗次郎は言葉を紡ぐ。
「…ずうっと、名無しのことを考えていて。」
「えっ…?」
こちらに向けられた視線は真剣だった。
「夏休みが明けて、大会が始まって…引退してからも………名無しに会いたい。」
「……!」
「名無しが、好きなんだ。」
火花が消えゆく中、花火を持つ手を握りしめられた。
* * * * *
線香花火の灯りが仄かに二人の表情を照らし出す。
宗次郎は笑顔で名無しの火を見つめる。
ゆっくりと火花を散らし始める玉。
名無しははみかみながら、花火越しに宗次郎を見つめていた。
「…私も。ずっと宗次郎のこと見てたよ。」
「そうなんですか。」
「…うん。」
嬉しかった。宗次郎も、私のこと…そんな風に想ってくれてたなんて。
部活が終わってしまうのは寂しいけど…でも、それからも変わらず、宗次郎との関係は…
火花がぱちぱちぱち、と激しく燃えていく。
「すごく、嬉しい…//」
「…僕もです。」
「ありがとう、宗次郎。」
にっこりと名無しは微笑んだ。
その様子を宗次郎は幸せそうな眼差しで見守っていた。
「…あ。最後のも、もう消えちゃう。」
「あ…僕のもですね。」
しゅん、とする名無しを宗次郎は優しく見つめる。
「…名無し。」
「?」
「こっち、見てて?」
その声に、宗次郎の方へと顔を上げると。
──ゆっくりと近づく彼の素顔。
名無しの胸は自然と高鳴る。
長い睫毛がかかる瞳が優しげだった。
──互いの線香花火が消えた瞬間。
名無しの唇は彼のものとそっと触れ合っていた。
星が輝きだした夜。
名無しと手を重ね夜道を歩きながら、彼女と同じく宗次郎も頰を赤く染めていた。
──これからも、ずっと好きですよ。
まだどこかぎこちない名無しにそっと語りかけた。
E N D
線香花火
(一瞬一瞬の輝き、ときめき。)