短編集
【短編用】名前変換
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短編「はじめての」の現代パロのお話です。
「…名無し。」
そっと、消え入りそうな声。それはいつもの彼とはまるで違っていて。とある決心が付いた、というように改まった様子の声色でもあった。
その証とでも言えばいいのだろうか。こちらへ向けられる彼の眼差しは真剣そのもので。そのような視線を投げかけられた名無しはどう振る舞えばいいのか、どのような言葉を発すればいいのか、瞬く間に見失ってしまっていた。
──宗次郎の家にお呼ばれして。少し前から恋人としてのお付き合いを始めた彼との間柄を思うと、“その予感”がするのを止められたかといえば、やはり嘘で。
(デートの時に手を繋ぐことは何度かしたことがあるけれど、もしかして今日…)
そんな淡い期待を抱いていた。
けれどそんな素振りなんて、今この空間でも決して宗次郎は滲ませやしない──笑顔で最近の出来事を話したり、紅茶を淹れてくれたり…名無しの持ってきたお菓子を美味しそうに味わっていたり──終始そのような様子の彼を前に、名無しの心の中はふわふわと落ち着きなく揺れていた。
でも。
「名無し…」
「……//」
今の彼は、まるで自分を求めているかのよう。今まで見たことのないその表情に、名無しの感情はみるみるうちに掻き乱されていく。
愛しい人がこのような雰囲気を醸し出して、そしてこのような面持ちで自分の名前を囁いてくれるだけで。ただそれだけで、心の中の何かがじわりじわりと高揚してくるだなんて。名無しは知らなかった。
まっすぐ射抜くように見つめられ、頬がかああと熱くなるのを感じる。
宗次郎は名無しの方へと静かに躙り寄って。
──決して追われているわけではないのだけれど、緊張で身動いで後ずさる。けれど彼のベッドが背中に触れたら、もうそれまで。逃げられないと悟った。
名無しの心の裡を知ってか知らずか──宗次郎はそっと、床に沿わされたままになっている名無しの手の甲に己の手を重ね合わせた。
「…いつか名無しと…こういうことしてみたいと思ってて。」
彼女の手をすり…と優しくなぞって、宗次郎は甘い語らいを静かに囁く。
熱を秘めて、でも名無しの気持ちを慮る理性でそれを押し留めて、まっすぐに名無しに問う。
「しても、いいですか…?」
「……う…ん…//」
「…本当に?」
辿々しく言葉を紡いだ姿を見て、彼女の不安を感じ取ったのか、宗次郎はゆっくりと名無しの顔を覗き込んで。ぎこちなくしている名無しの肩にそっと手のひらを乗せて優しく語り掛ける。
「…大丈夫です。無理強いはしませんよ。」
名無しを安心させたいというように穏やかな笑みを浮かべた。
──その気遣い、そして笑顔が眩しくて、愛おしくて。宗次郎の優しさに包まれた名無しは言葉にならない気持ちを抱きしめ燻らせ溢していく。
肩に置かれた彼の手に己の手を重ねて。縋るようにきゅ、と力を込めて。
「宗次郎…私も…宗次郎とこうなれたらいいなって、思ってた…」
──不意を突かれたかのように、宗次郎の目が丸くなったけれど、けれどもそれも束の間。また優しい微笑みを向けて、彼女にそうっと近付いていく。
時折震える名無しの睫毛を間近で捉えられるほど接近して。彼女の身体を優しく抱き締めた。
「…っ…//」
「…名無し、大好きですよ。」
ぴくり、と小さく震えた名無しをあやすように、受け止めるように。優しく甘く囁いて。
潤んだ名無しの瞳に映る宗次郎は静かに微笑んで。彼女の瞳がゆっくり伏せられていくのに合わせて目をそっと閉じて──彼女の唇に己のそれを重ね合わせた。
時が止まったような静寂が二人を包む。聞こえるのは互いの吐息、そして触れ合った箇所が擦れる微かな音と衣擦れの音──
「……ん……」
宗次郎はゆっくりと首を傾げて、少しして、そっと名無しの唇を離した。
次第に静かに開かれていく名無しの瞼。涙に濡れた瞳は熱を持ちながら、宗次郎の姿をそこに映した。
彼女を落ち着かせるように頬にもう一度くちづけを落として──“ん…”と微かに名無しが声を漏らす。その声すら愛しくて、暫くはその余韻に浸りながら彼女を見下ろしていたけれど。やがてそうっと囁いた。
「…名無し、大丈夫ですか?」
「……っ、うん…///」
息を整えつつ小さく甘い溜め息をこぼす名無しに、宗次郎はまた自身が熱を帯びそうになるのを自覚しながら、少し照れ臭そうに笑った。
「…その、やっぱり少し恥ずかしいですね。」
「…うん…」
名無しもやはり恥ずかしいようで伏し目がちになりながら呟くけれども。
「…宗次郎…実はね、私…」
「はい?」
「ファーストキスだったの…//」
「…えっ、そうだったんですか…?」
「宗次郎でよかった…」
思いがけない彼女の言葉に宗次郎は目を見開く。
次第に、動揺も相まって殊更恥ずかしさが積もり積もってきたのか、頬を染めながら腕の中の名無しを見つめる。
珍しく慌てている彼の様子に──つい言ってしまった、失言だったかもしれない…と思いを巡らせる名無しだったけれども。
その瞬間宗次郎にぎゅ、と抱かれて我に返る。先程までの丁寧な所作とは打って変わった力強さに、居たたまれなさや恥ずかしさといった感情が早急に内側から込み上げてきて。
「そ、宗次郎…っ?//」
ただただ、どうしよう、と思うばかりで、その心のままに彼の名を口にしてみたのだけれど。
彼の表情を窺い見ると──奔る衝動もあるのであろうけれど、ある心積もりをしたように揺らがない瞳に気圧される。染まりきった赤面を隠そうともせずに、意を決した宗次郎は名無しの瞳を見据え。真一文字に結んだ唇を開いて。
「……もうずっと大事にします。」
「…えっ…!?//」
「大好きです…!」
愛しくて愛しくてたまらない、というように。
戸惑う彼女の心内を知りながらも、宗次郎は名無しの温もりを決して離さないとばかりに、もう一度強く手繰り寄せて抱き締めた。
「…名無し。」
そっと、消え入りそうな声。それはいつもの彼とはまるで違っていて。とある決心が付いた、というように改まった様子の声色でもあった。
その証とでも言えばいいのだろうか。こちらへ向けられる彼の眼差しは真剣そのもので。そのような視線を投げかけられた名無しはどう振る舞えばいいのか、どのような言葉を発すればいいのか、瞬く間に見失ってしまっていた。
──宗次郎の家にお呼ばれして。少し前から恋人としてのお付き合いを始めた彼との間柄を思うと、“その予感”がするのを止められたかといえば、やはり嘘で。
(デートの時に手を繋ぐことは何度かしたことがあるけれど、もしかして今日…)
そんな淡い期待を抱いていた。
けれどそんな素振りなんて、今この空間でも決して宗次郎は滲ませやしない──笑顔で最近の出来事を話したり、紅茶を淹れてくれたり…名無しの持ってきたお菓子を美味しそうに味わっていたり──終始そのような様子の彼を前に、名無しの心の中はふわふわと落ち着きなく揺れていた。
でも。
「名無し…」
「……//」
今の彼は、まるで自分を求めているかのよう。今まで見たことのないその表情に、名無しの感情はみるみるうちに掻き乱されていく。
愛しい人がこのような雰囲気を醸し出して、そしてこのような面持ちで自分の名前を囁いてくれるだけで。ただそれだけで、心の中の何かがじわりじわりと高揚してくるだなんて。名無しは知らなかった。
まっすぐ射抜くように見つめられ、頬がかああと熱くなるのを感じる。
宗次郎は名無しの方へと静かに躙り寄って。
──決して追われているわけではないのだけれど、緊張で身動いで後ずさる。けれど彼のベッドが背中に触れたら、もうそれまで。逃げられないと悟った。
名無しの心の裡を知ってか知らずか──宗次郎はそっと、床に沿わされたままになっている名無しの手の甲に己の手を重ね合わせた。
「…いつか名無しと…こういうことしてみたいと思ってて。」
彼女の手をすり…と優しくなぞって、宗次郎は甘い語らいを静かに囁く。
熱を秘めて、でも名無しの気持ちを慮る理性でそれを押し留めて、まっすぐに名無しに問う。
「しても、いいですか…?」
「……う…ん…//」
「…本当に?」
辿々しく言葉を紡いだ姿を見て、彼女の不安を感じ取ったのか、宗次郎はゆっくりと名無しの顔を覗き込んで。ぎこちなくしている名無しの肩にそっと手のひらを乗せて優しく語り掛ける。
「…大丈夫です。無理強いはしませんよ。」
名無しを安心させたいというように穏やかな笑みを浮かべた。
──その気遣い、そして笑顔が眩しくて、愛おしくて。宗次郎の優しさに包まれた名無しは言葉にならない気持ちを抱きしめ燻らせ溢していく。
肩に置かれた彼の手に己の手を重ねて。縋るようにきゅ、と力を込めて。
「宗次郎…私も…宗次郎とこうなれたらいいなって、思ってた…」
──不意を突かれたかのように、宗次郎の目が丸くなったけれど、けれどもそれも束の間。また優しい微笑みを向けて、彼女にそうっと近付いていく。
時折震える名無しの睫毛を間近で捉えられるほど接近して。彼女の身体を優しく抱き締めた。
「…っ…//」
「…名無し、大好きですよ。」
ぴくり、と小さく震えた名無しをあやすように、受け止めるように。優しく甘く囁いて。
潤んだ名無しの瞳に映る宗次郎は静かに微笑んで。彼女の瞳がゆっくり伏せられていくのに合わせて目をそっと閉じて──彼女の唇に己のそれを重ね合わせた。
時が止まったような静寂が二人を包む。聞こえるのは互いの吐息、そして触れ合った箇所が擦れる微かな音と衣擦れの音──
「……ん……」
宗次郎はゆっくりと首を傾げて、少しして、そっと名無しの唇を離した。
次第に静かに開かれていく名無しの瞼。涙に濡れた瞳は熱を持ちながら、宗次郎の姿をそこに映した。
彼女を落ち着かせるように頬にもう一度くちづけを落として──“ん…”と微かに名無しが声を漏らす。その声すら愛しくて、暫くはその余韻に浸りながら彼女を見下ろしていたけれど。やがてそうっと囁いた。
「…名無し、大丈夫ですか?」
「……っ、うん…///」
息を整えつつ小さく甘い溜め息をこぼす名無しに、宗次郎はまた自身が熱を帯びそうになるのを自覚しながら、少し照れ臭そうに笑った。
「…その、やっぱり少し恥ずかしいですね。」
「…うん…」
名無しもやはり恥ずかしいようで伏し目がちになりながら呟くけれども。
「…宗次郎…実はね、私…」
「はい?」
「ファーストキスだったの…//」
「…えっ、そうだったんですか…?」
「宗次郎でよかった…」
思いがけない彼女の言葉に宗次郎は目を見開く。
次第に、動揺も相まって殊更恥ずかしさが積もり積もってきたのか、頬を染めながら腕の中の名無しを見つめる。
珍しく慌てている彼の様子に──つい言ってしまった、失言だったかもしれない…と思いを巡らせる名無しだったけれども。
その瞬間宗次郎にぎゅ、と抱かれて我に返る。先程までの丁寧な所作とは打って変わった力強さに、居たたまれなさや恥ずかしさといった感情が早急に内側から込み上げてきて。
「そ、宗次郎…っ?//」
ただただ、どうしよう、と思うばかりで、その心のままに彼の名を口にしてみたのだけれど。
彼の表情を窺い見ると──奔る衝動もあるのであろうけれど、ある心積もりをしたように揺らがない瞳に気圧される。染まりきった赤面を隠そうともせずに、意を決した宗次郎は名無しの瞳を見据え。真一文字に結んだ唇を開いて。
「……もうずっと大事にします。」
「…えっ…!?//」
「大好きです…!」
愛しくて愛しくてたまらない、というように。
戸惑う彼女の心内を知りながらも、宗次郎は名無しの温もりを決して離さないとばかりに、もう一度強く手繰り寄せて抱き締めた。