短編集
【短編用】名前変換
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※主従関係。主人公×宗気味。
狂信的に主人公を恋い慕う宗次郎がいます。
「はい、名無しさん。どうぞ。」
あなた好みの温度と濃度にしつらえた珈琲を差し出す。
もう何度こうしてあなたと二人過ごしたことだろう。最初こそは不慣れで手間を掛けたもので、ほとほと自分でもお手上げだったのだけれど。何度も教えられていき時間を掛けて身につけていった甲斐があったようで。
あなたは薄く笑みを浮かべてそっと手を伸ばし、ゆっくりと陶器の器に唇を近付けていく。
静寂に飲み込まれてゆく一時。周囲の時が止まり、あなたと二人きりに取り残されていく感覚に包み込まれていくようで。この瞬間が、僕は好きだ。
伏せられたあなたの瞳。まるでこの味をこの空気を心ゆくまで味わい慈しんでいるようで。
知らず知らずその様に魅入ってしまう自分がいた。
器から離れていく唇は次第に満足気な溜め息をついた。
そっと西洋机の上に器が置かれて。器に残された黒い液体の水面は静まるにつれて、あなたの顔貌をやや鈍く暗く宿し映し出していった。やがて──
「宗次郎。」
「はい。」
特に上擦ることも乱れることもなく平静の如く淡々と。返答を待ち侘びていたようにあなたは微笑む。
それを合図に。
静かに跪くと頬に伸ばされるあなたの腕。僕は冷静に見ていたつもりだが、瞳の奥に燃える熱を見透かして見つけたようにあなたは含み笑いをしながら──
仔猫を撫でるように優しく触れてくれるその手をそっと包み込むように両手にし、自らの手で頬に、首筋に静かに擦り付けていく。
僕の心の底には何もない。
“証”──強さという取っ掛かりがなければ世の不浄不条理、儚いもの弱きもの、何もかもをするりと死の淵へ堕としていき、そのまま唯々磨り潰してしまうだけ。
そんな心の闇を見抜かれていることは百も承知。
だけど。知らないでしょう?僕に…ささやかな欲望があることを。
流れるままに微熱を孕ませていく咥内。小さく薄く開いた唇は笑みを象りながら。
僕はあなたにこうして付き従っている──でも、本当は。
絶対的な強さを兼ね備えているあなたは、特別なんだ。あなたに対して言い知れぬ畏怖と激しい恋慕のような憧憬を抱いていて。想いはそれだけに留まらず。
…僕とぐちゃぐちゃに交じり合って混ざり合って解れた中心に剥き出しになった心の底にあなたを注ぎ込んで欲しい。余すことなく。
僕を乱して壊して、そしてすっかり溶かして、僕の弱さ──あなたの視線や仕草ひとつで揺れてしまう僕の弱い心を抽出して摘まみ上げて取り除いて欲しい。
そうやってあなたの隣にいつもいつでも永遠に。あなたに不必要な僕はいらない。あなたにとって必要な僕さえあればいい。
そんな下心をしたため含めて持ちながら、あなたの手の甲に唇を寄せた。
「宗次郎。」
冷たく笑うあなたが口にしたその言葉。
その命令に乾いた笑みを口許に、そして蜜を纏わせた赤い舌をちろちろと這わせていく。
もう一度名前を呼んだあなたに唯々笑みを浮かべながら。
僕の黒い瞳はあなたの姿を映した。
「名無しさんの、お気に召すままに。」
白日の珈琲と麝香の香り
(縛られて心を奪われた。)
狂信的に主人公を恋い慕う宗次郎がいます。
「はい、名無しさん。どうぞ。」
あなた好みの温度と濃度にしつらえた珈琲を差し出す。
もう何度こうしてあなたと二人過ごしたことだろう。最初こそは不慣れで手間を掛けたもので、ほとほと自分でもお手上げだったのだけれど。何度も教えられていき時間を掛けて身につけていった甲斐があったようで。
あなたは薄く笑みを浮かべてそっと手を伸ばし、ゆっくりと陶器の器に唇を近付けていく。
静寂に飲み込まれてゆく一時。周囲の時が止まり、あなたと二人きりに取り残されていく感覚に包み込まれていくようで。この瞬間が、僕は好きだ。
伏せられたあなたの瞳。まるでこの味をこの空気を心ゆくまで味わい慈しんでいるようで。
知らず知らずその様に魅入ってしまう自分がいた。
器から離れていく唇は次第に満足気な溜め息をついた。
そっと西洋机の上に器が置かれて。器に残された黒い液体の水面は静まるにつれて、あなたの顔貌をやや鈍く暗く宿し映し出していった。やがて──
「宗次郎。」
「はい。」
特に上擦ることも乱れることもなく平静の如く淡々と。返答を待ち侘びていたようにあなたは微笑む。
それを合図に。
静かに跪くと頬に伸ばされるあなたの腕。僕は冷静に見ていたつもりだが、瞳の奥に燃える熱を見透かして見つけたようにあなたは含み笑いをしながら──
仔猫を撫でるように優しく触れてくれるその手をそっと包み込むように両手にし、自らの手で頬に、首筋に静かに擦り付けていく。
僕の心の底には何もない。
“証”──強さという取っ掛かりがなければ世の不浄不条理、儚いもの弱きもの、何もかもをするりと死の淵へ堕としていき、そのまま唯々磨り潰してしまうだけ。
そんな心の闇を見抜かれていることは百も承知。
だけど。知らないでしょう?僕に…ささやかな欲望があることを。
流れるままに微熱を孕ませていく咥内。小さく薄く開いた唇は笑みを象りながら。
僕はあなたにこうして付き従っている──でも、本当は。
絶対的な強さを兼ね備えているあなたは、特別なんだ。あなたに対して言い知れぬ畏怖と激しい恋慕のような憧憬を抱いていて。想いはそれだけに留まらず。
…僕とぐちゃぐちゃに交じり合って混ざり合って解れた中心に剥き出しになった心の底にあなたを注ぎ込んで欲しい。余すことなく。
僕を乱して壊して、そしてすっかり溶かして、僕の弱さ──あなたの視線や仕草ひとつで揺れてしまう僕の弱い心を抽出して摘まみ上げて取り除いて欲しい。
そうやってあなたの隣にいつもいつでも永遠に。あなたに不必要な僕はいらない。あなたにとって必要な僕さえあればいい。
そんな下心をしたため含めて持ちながら、あなたの手の甲に唇を寄せた。
「宗次郎。」
冷たく笑うあなたが口にしたその言葉。
その命令に乾いた笑みを口許に、そして蜜を纏わせた赤い舌をちろちろと這わせていく。
もう一度名前を呼んだあなたに唯々笑みを浮かべながら。
僕の黒い瞳はあなたの姿を映した。
「名無しさんの、お気に召すままに。」
白日の珈琲と麝香の香り
(縛られて心を奪われた。)