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机の上に山のように積まれている書状の束に向かい始めて、どれくらいの時間が経過しただろう。
此処の洋式の机と椅子にはようやく体も慣れてきたけれど。やはり長い時間同じ姿勢で物事に没頭していると、ふと息を吐いた拍子や我に返った時などに体の疲れや怠さを実感することが多々ある。名無しにとってもそれは例外ではなかった。

手の先同士を絡めて、うーん、と腕を正面に向かって伸ばす。
もう少し解しておこう、と背中を背もたれにぴたりと付けて。そのまま首を上に向けると。


名無しさん。」

「わっ、宗次郎!」


宗次郎が覗き込んでいた。名無しの背後から、真上から──逆さまになった彼の笑顔がこちらを見下ろしている。
いつの間に此処に、そして背後に。


「びっくりした…!いつから?」

「つい今し方ですね。」


そのまま名無しを見つめたままで、いとけなくにこにこと呟く。


「全然、気付かなかった…」

名無しさんの驚いた顔可愛かったですよ。」

「もう…」

「お疲れ様です。はい、これ。差し入れです。」


そう言って宗次郎は何かを持った手を名無しの視界に入るように掲げる。包み紙に包まれた和菓子と思しきものに名無しは目を丸くさせた。


「わ…ありがとう。」


思わぬ彼の心遣いに嬉しさを滲ませ、そして彼の方へ振り返ろうと身動ぐ名無しだったが。


「少し…そのままでいてもらえます?」


穏やかに、そっとそう一言囁かれたと思えば。後ろからそのまま、両の肩に手を置かれて。
優しく触れた指先がなんだか心地よいし、そうしている雰囲気に充てられて名無しの胸の鼓動は少し速くなる。


「…宗次郎…?」

名無しさん。」


宗次郎の優しい声が背後から、少し左側に逸れて。
そして──訪れる静寂。正確には、宗次郎がそっとこちらに近付く所作に伴って彼の着物が少し擦れる音が名無しの耳には届いていた。
やがて名無しはおずおずとその方角を意識して目線を向けて、そしてそっと彼の方へと振り向くや否や、その途中で。


「…っ…///」

「…差し入れ、です。」


静かに唇を吸われた。
口付けておいて、そしてゆっくりと遠ざかる彼の唇。生じた間に何とも言いがたい恥ずかしさが込み上げてきて、名無しは触れられた唇を思わず手で覆った。


「も、もう…//」


ふっ、と宗次郎は薄く笑って名無しを見つめて、そしてにこやかな笑顔を向けた。


「…はい。これ食べてまた頑張ってくださいね。」


名無しの手を取り、その手のひらに差し入れの和菓子を乗せて。きゅっとその手を優しく握りしめた。


「…うん…//」

「うん、いい子ですね。」


頷いて嬉しそうにはにかみ、声援を受け取る名無しに宗次郎は柔らかな微笑みを浮かべてその場を後にした。





静かに佇む彼の施し


(接吻した後、一瞬とろんとした表情になる名無しさん可愛いんですよね。ここだけの話…)
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