短編集
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※付き合っていない二人
『どちらかが好きと言わないと出られない部屋』
「好きです。」
「……!!??」
『どちらかが好きと言わないと出られない部屋』という文字が書かれた張り紙。
その文字を見据えたまま、表情一つどころか声色一つすら変えずに穏やかに呟いた隣の彼を信じられないという表情で名無しは見つめた。
澄ました横顔は端整なんだけれど、そういう問題ではない。
「?何か?」
「……そ、そんなこと躊躇いもなく…!こっちはそ、その、心の準備が……!」
「かと言って、この部屋から出ないわけにはいきませんよね?」
ぱくぱくと口を開閉させて頬を少し赤らめる名無しの態度なぞどこ吹く風だったが、暫く経ってから宗次郎はあれ、と呟いた。
「おかしいなぁ、出られないですね。」
「そういえば…変だね。」
「どうしてだろう。ちゃんと好きって言ったのになぁ。」
“ちゃんと好きって言ったのになぁ。”
名無しは内心その言葉に動揺を重ねていた。
意志とは裏腹に跳ね上がってしまう胸の鼓動にやや焦りを感じるけれど、ある種の嬉しさも噛み締めてしまう。
(まるで本当に宗次郎から告白されたみたいで…//)
名無しの動揺なんて全く知らないのだろう、首を傾げていた宗次郎は何かを思いついたかのように「あ」と声を漏らした。
「そうだ。名無しさんが言ってみてくださいよ。」
「え!?」
「実行したつもりですけど、もしかして何かが違ったのかもしれません。」
「それは…一理ある、けど…」
(ある、けど……っ!わ、私も言うの…!?宗次郎に、す、好きって……//)
恥ずかしい、出来れば言いたくない…
縋るような目で宗次郎の眼差しを見つめたけれど、提案を翻すことなどないまま、無邪気な笑顔を向けられるだけだった。
「言ってみてください、名無しさん。」
「…で、では…//」
まさかまさか、こんな羽目になるなんて。
名無しは内心穏やかではなかったけれど、たしかにこんな部屋にいつまでもいるわけにはいかない。
けれど───
「…す、す…!//」
ただ二文字を言えばいいだけ。
それにこれは……宗次郎に自分の気持ちを伝えるわけではないんだから。簡単、簡単───
「す……!」
「……」
気のせいか、宗次郎がこちらを真剣に見ているような。
…そんなことを思ってしまうと、すぐそこまで出かかったあと一文字がなかなか出てこない。
だったらそうだ!宗次郎の方を見ずに…!
「すっ!好きで…」
『相手の目を見て』
必死に張り紙に視線を向け、宗次郎の姿が視界に入らないようにそちらに二三歩歩み寄ってみたのだけれど。
『どちらかが好きと言わないと出られない部屋』の前に小さな文字でそう書いてあった。
(そ、宗次郎の目を見て…!?//)
「あ、なるほど。そういうことですか。」
「ひゃっ!?」
後ろから、頭の脇からそう囁かれてびっくりして振り向く。いつの間にか私の肩越しに張り紙を眺めていた宗次郎。
優しく、にこにこと微笑まれた。
思わず固まってしまい、目を見開いて見つめるけど、宗次郎の方は何も動じることはなく。
──だけど、微笑んで細くなっていた目をすっと開いたかと思うと、今度はまっすぐに見つめられる。
「だからさっきは駄目だったんですね。」
「…そ、そうみたい、だね…」
気のせいかな…距離が、顔が、近……
「じゃあ…もう一回。」
「え?」
向かい合わせにされ、両肩にそっと手を置かれる。
「え、え…?//」
いつになく真剣な眼差し。
「名無しさん。」
「は、はい…っ?」
──こ、これって…顔見ながら…!?//
こちらがようやく気付いたことが可笑しかったのか、くす、と笑みをこぼして……
よりこちらに寄せられる笑顔。
「可愛い。」
「…っ、!///」
「名無しさん、好き。」
ふわり、と揺れる彼の柔らかそうな前髪。
優しい眼差しがとても綺麗で。清んだ明るい声がとても可愛らしくて。その声を象った唇はとても端整で。
──だから、余計に。宗次郎とは対照的に慌ててしまうし内心とても取り乱してしまう。
かちゃりという音が聞こえた。
──外に出られる。けど、この夢のような時間ももうお終いか。
頬に灯った熱すら何だか愛おしくて、でも嬉しい時間だった。そんなことを一瞬のうちに考えた。
考えたのだけど。
「名無しさんのこと、好きです。」
もう一度そう告げた宗次郎の目に熱が灯って見えるのは──夢か幻か。
「…えっ、//」
「本気ですよ?」
にこにこ、と笑ってみせるけれど、その頬は少し色付くように染まっていた。
「名無しさんのこと。好きです。」
「……っ、///」
もしや、もしや……
黙りこくって一生懸命考えを巡らせるけど、心がついて行けていない。
そんな様をまるで見通すかのように、目をまた細めて。今度はいたずらっぽく囁かれた。
「…その様子だと肯定としか見れませんよ?」
「そ、その…っ、」
「……別に、名無しさんが伝える責務はもうないですけど…期待してしまうじゃないですか。」
そう言って、少し寂しげに笑うものだから。
そんな顔を見たくない、とばかりに顔を歪めていつしか宗次郎をまっすぐ見つめ返していた。
「そ、宗次郎……あ、あの…っ、//」
「……名無しさん。」
「あの、そのっ……私も…っ、//」
やっと言えた言葉。
にこりと優しく微笑まれ、またその言葉を喜びと共に告げられた。
ありったけの好きを伝えて
(ひょっとすると、宗次郎は少し確信犯なところもあったりするかもしれません。ないかもしれません。)
『どちらかが好きと言わないと出られない部屋』
「好きです。」
「……!!??」
『どちらかが好きと言わないと出られない部屋』という文字が書かれた張り紙。
その文字を見据えたまま、表情一つどころか声色一つすら変えずに穏やかに呟いた隣の彼を信じられないという表情で名無しは見つめた。
澄ました横顔は端整なんだけれど、そういう問題ではない。
「?何か?」
「……そ、そんなこと躊躇いもなく…!こっちはそ、その、心の準備が……!」
「かと言って、この部屋から出ないわけにはいきませんよね?」
ぱくぱくと口を開閉させて頬を少し赤らめる名無しの態度なぞどこ吹く風だったが、暫く経ってから宗次郎はあれ、と呟いた。
「おかしいなぁ、出られないですね。」
「そういえば…変だね。」
「どうしてだろう。ちゃんと好きって言ったのになぁ。」
“ちゃんと好きって言ったのになぁ。”
名無しは内心その言葉に動揺を重ねていた。
意志とは裏腹に跳ね上がってしまう胸の鼓動にやや焦りを感じるけれど、ある種の嬉しさも噛み締めてしまう。
(まるで本当に宗次郎から告白されたみたいで…//)
名無しの動揺なんて全く知らないのだろう、首を傾げていた宗次郎は何かを思いついたかのように「あ」と声を漏らした。
「そうだ。名無しさんが言ってみてくださいよ。」
「え!?」
「実行したつもりですけど、もしかして何かが違ったのかもしれません。」
「それは…一理ある、けど…」
(ある、けど……っ!わ、私も言うの…!?宗次郎に、す、好きって……//)
恥ずかしい、出来れば言いたくない…
縋るような目で宗次郎の眼差しを見つめたけれど、提案を翻すことなどないまま、無邪気な笑顔を向けられるだけだった。
「言ってみてください、名無しさん。」
「…で、では…//」
まさかまさか、こんな羽目になるなんて。
名無しは内心穏やかではなかったけれど、たしかにこんな部屋にいつまでもいるわけにはいかない。
けれど───
「…す、す…!//」
ただ二文字を言えばいいだけ。
それにこれは……宗次郎に自分の気持ちを伝えるわけではないんだから。簡単、簡単───
「す……!」
「……」
気のせいか、宗次郎がこちらを真剣に見ているような。
…そんなことを思ってしまうと、すぐそこまで出かかったあと一文字がなかなか出てこない。
だったらそうだ!宗次郎の方を見ずに…!
「すっ!好きで…」
『相手の目を見て』
必死に張り紙に視線を向け、宗次郎の姿が視界に入らないようにそちらに二三歩歩み寄ってみたのだけれど。
『どちらかが好きと言わないと出られない部屋』の前に小さな文字でそう書いてあった。
(そ、宗次郎の目を見て…!?//)
「あ、なるほど。そういうことですか。」
「ひゃっ!?」
後ろから、頭の脇からそう囁かれてびっくりして振り向く。いつの間にか私の肩越しに張り紙を眺めていた宗次郎。
優しく、にこにこと微笑まれた。
思わず固まってしまい、目を見開いて見つめるけど、宗次郎の方は何も動じることはなく。
──だけど、微笑んで細くなっていた目をすっと開いたかと思うと、今度はまっすぐに見つめられる。
「だからさっきは駄目だったんですね。」
「…そ、そうみたい、だね…」
気のせいかな…距離が、顔が、近……
「じゃあ…もう一回。」
「え?」
向かい合わせにされ、両肩にそっと手を置かれる。
「え、え…?//」
いつになく真剣な眼差し。
「名無しさん。」
「は、はい…っ?」
──こ、これって…顔見ながら…!?//
こちらがようやく気付いたことが可笑しかったのか、くす、と笑みをこぼして……
よりこちらに寄せられる笑顔。
「可愛い。」
「…っ、!///」
「名無しさん、好き。」
ふわり、と揺れる彼の柔らかそうな前髪。
優しい眼差しがとても綺麗で。清んだ明るい声がとても可愛らしくて。その声を象った唇はとても端整で。
──だから、余計に。宗次郎とは対照的に慌ててしまうし内心とても取り乱してしまう。
かちゃりという音が聞こえた。
──外に出られる。けど、この夢のような時間ももうお終いか。
頬に灯った熱すら何だか愛おしくて、でも嬉しい時間だった。そんなことを一瞬のうちに考えた。
考えたのだけど。
「名無しさんのこと、好きです。」
もう一度そう告げた宗次郎の目に熱が灯って見えるのは──夢か幻か。
「…えっ、//」
「本気ですよ?」
にこにこ、と笑ってみせるけれど、その頬は少し色付くように染まっていた。
「名無しさんのこと。好きです。」
「……っ、///」
もしや、もしや……
黙りこくって一生懸命考えを巡らせるけど、心がついて行けていない。
そんな様をまるで見通すかのように、目をまた細めて。今度はいたずらっぽく囁かれた。
「…その様子だと肯定としか見れませんよ?」
「そ、その…っ、」
「……別に、名無しさんが伝える責務はもうないですけど…期待してしまうじゃないですか。」
そう言って、少し寂しげに笑うものだから。
そんな顔を見たくない、とばかりに顔を歪めていつしか宗次郎をまっすぐ見つめ返していた。
「そ、宗次郎……あ、あの…っ、//」
「……名無しさん。」
「あの、そのっ……私も…っ、//」
やっと言えた言葉。
にこりと優しく微笑まれ、またその言葉を喜びと共に告げられた。
ありったけの好きを伝えて
(ひょっとすると、宗次郎は少し確信犯なところもあったりするかもしれません。ないかもしれません。)