短編集
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※「この愛がどこに続くのかは誰もまだ」の続きです。
「あの、瀬田様…」
「…はい。」
相対する名無しさんは珍しく様相を──崩れてしまわないようすんでのところで耐えているのだろうけれど──悲痛そうな面持ちでこちらに向かって深々と頭を下げた。
そうして顔を上げる。
…視線を逸らしたり顔を隠したりする所作は失礼だ、などと名無しさんは考えているのだろう──少し揺らぎながらもこちらを見る瞳は、少し困惑しながらも、且つ混乱から生じる熱染みたものを帯びているようで。
その光景はなんだか心に刺さった。
「…申し訳ありません。私の不注意で、瀬田様に。」
…そんな目で謝られても、僕としてはどう気持ちを落ち着かせていいのか。また、このわだかまりをどこに行き着かせればいいのか、わかったものじゃない。
任務に名無しさんを連れて向かった先で戦闘となり。
──先に結論を言うと敵方は全て斬り伏せたのだが。
名無しさんも僕と同じく、敵方と刃を交えて交戦していたのだけれど、隙を突かれて、力で押し負けてしまいそうになった。
そこにあろうことか、僕は割って入ったのだ。
刹那の間に彼女の身体を強く引き、まるで庇うかのように己の身体の背後に名無しさんを隠した。
『瀬田様っ…!?』
『…名無しさん、伏せててください。』
そうして、僕は。
“相手を斬らなければ名無しさんが死ぬ”
恐らくはその思考で僕自身の脳内は埋め尽くされていたように思う。…あれは我を忘れてしまっていたとでも言うのだろうか。どうしてだろう。
──ひとまず、肌に付着した血を拭おうか。
想定外の展開とはいえ、少し浴びすぎてしまった。そんなことを思い描いていると、名無しさんは手布をこちらへと差し出していた。
「あ。ありがとうございます。」
「いいえ…」
聞こえるか聞こえないか、小さな声で「私のせいで」と言葉を発した気がした。
「…気にしてるんですか?」
「自分で自分が許せません……足手纏いでしかないなんて。瀬田様は私の腕を信用して任務を任せてくださったのに…なのに。」
たしかに、あの時僕が替わらなければ名無しさんは死んでいたかもしれない。彼女が命を落とすことがあるとすれば、それは彼女自身の弱さのせいだ。あの瞬間に彼女は弱かったから死んでしまった、それだけのことになる。
それをわざわざ助けるだなんて。たしかに、名無しさんは僕にとって足手纏いだ。けど、けれど。
「そうですね。足手纏いではないとは言えないですけど、」
「…!」
「でも。」
…助けてはいけなかったのだろうか。
けれども、名無しさんが斬られると読んでから…彼女を守るために動いたけれど、その間一切、一連思考や行動を抑制しなかった。
どうしてだかわからないけれど、どうやら僕はこの人に死なれては困るらしい。参ったな。
こちらを見上げる名無しさんに──それ以外に向けられる表情を僕は知らなかったから──いつもと変わらない笑みを向けた。
「名無しさんにはいてもらわないと困ります。」
「……瀬田様。」
──部下として…?
恐らく僕は名無しさんを部下としてではない目で見ている。これがどういう感情か、そもそも感情であるのかですら、僕にはわからないけど。
彼女から受け取った手布で血を拭く。
肌の白さは戻るけれど、心の中の澱みは未だ拭い去れないようだ。けれども、自分の中の何かを認めつつあるのか、少しばかり諦めのような気持ちも芽生えているようだった。
そうしていたのだが、彼女の両手が固く握り締められていることに気付く。
名無しさんの顔は依然火照ったまま、やはり僕を前にしている故だろう、必死に平静を保とうとしているようだったけれど、今にも崩れてしまいそうな程に表情は歪んでいた。
「本当に申し訳ありません…」
「僕は気にしてませんから。もうこの話は終わりにしましょう。」
正直、彼女の方を見ていたいけれど、身体を翻す。
そうするのが正解だと思い直した。
「…どうして瀬田様は、私を生かしてくださってるのですか?」
「……」
「私のような部下を置いておけば、いずれまた同じようなことをしでかすのかもしれません…」
彼女の言うことは、最もだ。理にかなわない。
“…おかしいなぁ、こんなはずではなかったのにな”
僕の一部が囁きかけてくる。何を躊躇しているのか…“僕らしくも”ない。けれども、今だけは…
「…いいのですか?」
「理由…そうですよね。不思議がるのも無理はありません。」
ぽろり、と溢れる名無しさんの涙を見守る。
指先を其処に向かって伸ばす。指を伝わっていく温い感触はどこか僕の心を落ち着かせていった。
「…すみません。こんな醜態を…」
「もう…黙ってください。」
これ以上僕の心を惑わせてほしくない。そして、あなた自身が自分を傷付ける言葉を吐く姿を見たくない、もとい、やめてほしいという思いもあった。
そして…こんなに戸惑ってばかりの僕の心の裡を……少し知ってもらいたい、感じてほしい。知ってもらえればいいのに。そう願ってもいるだなんて。浅薄だな…自分でもそう思う。そう思うのにな。
「……いつかお話できるといいですね。」
名無しさんの肩に手を回して、少しだけ。こちらに引き寄せ、間もなくして解放した。
辻褄合わせも出来やしない
もう少し続きます。
■タイトルはまばたき様よりお借り致しました。
「あの、瀬田様…」
「…はい。」
相対する名無しさんは珍しく様相を──崩れてしまわないようすんでのところで耐えているのだろうけれど──悲痛そうな面持ちでこちらに向かって深々と頭を下げた。
そうして顔を上げる。
…視線を逸らしたり顔を隠したりする所作は失礼だ、などと名無しさんは考えているのだろう──少し揺らぎながらもこちらを見る瞳は、少し困惑しながらも、且つ混乱から生じる熱染みたものを帯びているようで。
その光景はなんだか心に刺さった。
「…申し訳ありません。私の不注意で、瀬田様に。」
…そんな目で謝られても、僕としてはどう気持ちを落ち着かせていいのか。また、このわだかまりをどこに行き着かせればいいのか、わかったものじゃない。
任務に名無しさんを連れて向かった先で戦闘となり。
──先に結論を言うと敵方は全て斬り伏せたのだが。
名無しさんも僕と同じく、敵方と刃を交えて交戦していたのだけれど、隙を突かれて、力で押し負けてしまいそうになった。
そこにあろうことか、僕は割って入ったのだ。
刹那の間に彼女の身体を強く引き、まるで庇うかのように己の身体の背後に名無しさんを隠した。
『瀬田様っ…!?』
『…名無しさん、伏せててください。』
そうして、僕は。
“相手を斬らなければ名無しさんが死ぬ”
恐らくはその思考で僕自身の脳内は埋め尽くされていたように思う。…あれは我を忘れてしまっていたとでも言うのだろうか。どうしてだろう。
──ひとまず、肌に付着した血を拭おうか。
想定外の展開とはいえ、少し浴びすぎてしまった。そんなことを思い描いていると、名無しさんは手布をこちらへと差し出していた。
「あ。ありがとうございます。」
「いいえ…」
聞こえるか聞こえないか、小さな声で「私のせいで」と言葉を発した気がした。
「…気にしてるんですか?」
「自分で自分が許せません……足手纏いでしかないなんて。瀬田様は私の腕を信用して任務を任せてくださったのに…なのに。」
たしかに、あの時僕が替わらなければ名無しさんは死んでいたかもしれない。彼女が命を落とすことがあるとすれば、それは彼女自身の弱さのせいだ。あの瞬間に彼女は弱かったから死んでしまった、それだけのことになる。
それをわざわざ助けるだなんて。たしかに、名無しさんは僕にとって足手纏いだ。けど、けれど。
「そうですね。足手纏いではないとは言えないですけど、」
「…!」
「でも。」
…助けてはいけなかったのだろうか。
けれども、名無しさんが斬られると読んでから…彼女を守るために動いたけれど、その間一切、一連思考や行動を抑制しなかった。
どうしてだかわからないけれど、どうやら僕はこの人に死なれては困るらしい。参ったな。
こちらを見上げる名無しさんに──それ以外に向けられる表情を僕は知らなかったから──いつもと変わらない笑みを向けた。
「名無しさんにはいてもらわないと困ります。」
「……瀬田様。」
──部下として…?
恐らく僕は名無しさんを部下としてではない目で見ている。これがどういう感情か、そもそも感情であるのかですら、僕にはわからないけど。
彼女から受け取った手布で血を拭く。
肌の白さは戻るけれど、心の中の澱みは未だ拭い去れないようだ。けれども、自分の中の何かを認めつつあるのか、少しばかり諦めのような気持ちも芽生えているようだった。
そうしていたのだが、彼女の両手が固く握り締められていることに気付く。
名無しさんの顔は依然火照ったまま、やはり僕を前にしている故だろう、必死に平静を保とうとしているようだったけれど、今にも崩れてしまいそうな程に表情は歪んでいた。
「本当に申し訳ありません…」
「僕は気にしてませんから。もうこの話は終わりにしましょう。」
正直、彼女の方を見ていたいけれど、身体を翻す。
そうするのが正解だと思い直した。
「…どうして瀬田様は、私を生かしてくださってるのですか?」
「……」
「私のような部下を置いておけば、いずれまた同じようなことをしでかすのかもしれません…」
彼女の言うことは、最もだ。理にかなわない。
“…おかしいなぁ、こんなはずではなかったのにな”
僕の一部が囁きかけてくる。何を躊躇しているのか…“僕らしくも”ない。けれども、今だけは…
「…いいのですか?」
「理由…そうですよね。不思議がるのも無理はありません。」
ぽろり、と溢れる名無しさんの涙を見守る。
指先を其処に向かって伸ばす。指を伝わっていく温い感触はどこか僕の心を落ち着かせていった。
「…すみません。こんな醜態を…」
「もう…黙ってください。」
これ以上僕の心を惑わせてほしくない。そして、あなた自身が自分を傷付ける言葉を吐く姿を見たくない、もとい、やめてほしいという思いもあった。
そして…こんなに戸惑ってばかりの僕の心の裡を……少し知ってもらいたい、感じてほしい。知ってもらえればいいのに。そう願ってもいるだなんて。浅薄だな…自分でもそう思う。そう思うのにな。
「……いつかお話できるといいですね。」
名無しさんの肩に手を回して、少しだけ。こちらに引き寄せ、間もなくして解放した。
辻褄合わせも出来やしない
もう少し続きます。
■タイトルはまばたき様よりお借り致しました。