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宗次郎お誕生日祝い。
※年齢は満年齢表記です。
『おまえも元服だな。元服の祝いだ。』
『志々雄さん、いいんですか?こんな立派な刀貰っちゃって。壊したりしたらどうしようかな。』
『人の元服祝いをなんだと思ってるんだテメエ。』
『坊や!今日お誕生日なのよね!』
『宗ちゃん!おめでとう!』
『ああ、そうらしいですね。ありがとうございます。由美さん、鎌足さん。』
『はいこれ!私たちから!』
『あれ、いいんですか?』
『あんた、まだ十と五でしょう?もっと誇らしくしててもいいのよ?』
『?そういうものなんですか?』
──齢が一つ増えるだけ。
けれど普通は何やら、めでたい出来事なんだということは、これまでの周囲の反応から何となく理解していた。
生きていること。今まで生きてきたということ。
これからもそれを望まれるということ。
──それらを嬉しそうに称えられるというのは、どうやら有難いことなんだろうな。
そう思うようにはなったものの、何処か他人事のように捉えていた。
「宗次郎!お誕生日おめでとう!」
「…あ、名無しさん。」
「皆に教えてもらったんだ、今日で十六歳なんだね!おめでとう。」
そう朗らかに名無しさんは笑った。
まるで自分のことのように嬉しそうにしているものだから。
「……」
「…宗次郎?」
てっきり彼女に何か良いことがあったのかと錯覚を起こし、何を言われているか理解するのに少しだけ時間を要した。
「──ありがとうございます。でも。」
「?」
「…いえ、なんでもないです。」
「素敵な十六歳になるといいね!」
にこっと微笑んだ名無しさん。
その笑顔を見せられてしまうと、逡巡した疑問は咽の奥にしまわざるを得なかった。
僕は彼女の笑顔が好きだ。今の笑顔だって。
──その笑顔の名無しさんから伝えられた気持ちは、いつだって今日だって、何処までも精一杯で純粋なものなのだと感じたから。
「──ええ。」
思わず呟いて、微笑みを返していた。
名無しさんは少し照れたようにしながら言葉を続ける。
「…宗次郎に食べてもらおうと思って、ケーキを用意しました…!」
「え?」
「由美さん達に手伝ってもらいながら、頑張って作ったんだよ!」
「そうなんですか…」
「ほら!向こうで皆待ってるよ!今からお誕生日会するからね!」
「……」
「ほら、行こう?」
立ち尽くす僕の手を取って。
こちらを見つめる彼女の瞳。
“ありがとうございます。でも…”
──心に仕舞い込んだ言葉。
“なぜ名無しさんがそんなに嬉しそうにしているんですか?何のために?”
それは名無しさんの前に吐き出すには躊躇われて。
そうしているうちに、そのまま行き場をなくして消えていくようだった。まるで、名無しさんのくれた気持ちに包み込まれるように。
今まで、いつだって、思考は“一応、めでたいことなんだな”──そこ止まりだったんだけど。
そう悪いものではないと思う自分がいた。むしろ…
芽生えた暖かい気持ちに思わず戸惑ってしまう。けれど。
「名無しさん。」
「!」
「ありがとうございます。」
きゅ…と彼女の手を握り締めて。
どうかこの温もりが伝わるといい。そんなことを思っていた。
名無しさんははにかむように微笑んで、
「だって宗次郎のお祝いだもの!」
暖かな声音でそう告げて、手を握り返した。
自分自身が生きていること。
生まれたこと。
どうやら、そういったことを尊いという風には思えないでいたけれど。
「僕は生きていてよかったのかもしれない」と。少しそんな予感が胸を過ぎった。
「宗ちゃーん、早く早く!」
「宗次郎、ワイからもお祝いや!」
「鎌足さん、張さん。」
「ほら!坊や!名無しったら坊やの為に四苦八苦しながら作ったのよこのケーキ!」
「ゆ、由美さん///」
「宗次郎殿、おめでとう。」
「和尚も一緒に手伝ってくれたんだから!」
「由美さん、安慈和尚。」
「宗次郎、私からはこれを。」
「──本かぁ。」
「本かぁ、とはなんだ。」
「冗談ですよ、ありがとうございます方治さん。」
「…さてと。ようやく主役が来たな。」
「志々雄さん。」
「めでたい日だな。」
「──それじゃあ宗次郎のお誕生日会を始めまーす!」
(…名無しさん。)
「宗次郎、おめでとう!」
「ありがとうございます。」
──何もかもが暖かいと感じた日。
いきるしあわせを知ったひと
(Wishing you many, many more happiness!!)
※年齢は満年齢表記です。
『おまえも元服だな。元服の祝いだ。』
『志々雄さん、いいんですか?こんな立派な刀貰っちゃって。壊したりしたらどうしようかな。』
『人の元服祝いをなんだと思ってるんだテメエ。』
『坊や!今日お誕生日なのよね!』
『宗ちゃん!おめでとう!』
『ああ、そうらしいですね。ありがとうございます。由美さん、鎌足さん。』
『はいこれ!私たちから!』
『あれ、いいんですか?』
『あんた、まだ十と五でしょう?もっと誇らしくしててもいいのよ?』
『?そういうものなんですか?』
──齢が一つ増えるだけ。
けれど普通は何やら、めでたい出来事なんだということは、これまでの周囲の反応から何となく理解していた。
生きていること。今まで生きてきたということ。
これからもそれを望まれるということ。
──それらを嬉しそうに称えられるというのは、どうやら有難いことなんだろうな。
そう思うようにはなったものの、何処か他人事のように捉えていた。
「宗次郎!お誕生日おめでとう!」
「…あ、名無しさん。」
「皆に教えてもらったんだ、今日で十六歳なんだね!おめでとう。」
そう朗らかに名無しさんは笑った。
まるで自分のことのように嬉しそうにしているものだから。
「……」
「…宗次郎?」
てっきり彼女に何か良いことがあったのかと錯覚を起こし、何を言われているか理解するのに少しだけ時間を要した。
「──ありがとうございます。でも。」
「?」
「…いえ、なんでもないです。」
「素敵な十六歳になるといいね!」
にこっと微笑んだ名無しさん。
その笑顔を見せられてしまうと、逡巡した疑問は咽の奥にしまわざるを得なかった。
僕は彼女の笑顔が好きだ。今の笑顔だって。
──その笑顔の名無しさんから伝えられた気持ちは、いつだって今日だって、何処までも精一杯で純粋なものなのだと感じたから。
「──ええ。」
思わず呟いて、微笑みを返していた。
名無しさんは少し照れたようにしながら言葉を続ける。
「…宗次郎に食べてもらおうと思って、ケーキを用意しました…!」
「え?」
「由美さん達に手伝ってもらいながら、頑張って作ったんだよ!」
「そうなんですか…」
「ほら!向こうで皆待ってるよ!今からお誕生日会するからね!」
「……」
「ほら、行こう?」
立ち尽くす僕の手を取って。
こちらを見つめる彼女の瞳。
“ありがとうございます。でも…”
──心に仕舞い込んだ言葉。
“なぜ名無しさんがそんなに嬉しそうにしているんですか?何のために?”
それは名無しさんの前に吐き出すには躊躇われて。
そうしているうちに、そのまま行き場をなくして消えていくようだった。まるで、名無しさんのくれた気持ちに包み込まれるように。
今まで、いつだって、思考は“一応、めでたいことなんだな”──そこ止まりだったんだけど。
そう悪いものではないと思う自分がいた。むしろ…
芽生えた暖かい気持ちに思わず戸惑ってしまう。けれど。
「名無しさん。」
「!」
「ありがとうございます。」
きゅ…と彼女の手を握り締めて。
どうかこの温もりが伝わるといい。そんなことを思っていた。
名無しさんははにかむように微笑んで、
「だって宗次郎のお祝いだもの!」
暖かな声音でそう告げて、手を握り返した。
自分自身が生きていること。
生まれたこと。
どうやら、そういったことを尊いという風には思えないでいたけれど。
「僕は生きていてよかったのかもしれない」と。少しそんな予感が胸を過ぎった。
「宗ちゃーん、早く早く!」
「宗次郎、ワイからもお祝いや!」
「鎌足さん、張さん。」
「ほら!坊や!名無しったら坊やの為に四苦八苦しながら作ったのよこのケーキ!」
「ゆ、由美さん///」
「宗次郎殿、おめでとう。」
「和尚も一緒に手伝ってくれたんだから!」
「由美さん、安慈和尚。」
「宗次郎、私からはこれを。」
「──本かぁ。」
「本かぁ、とはなんだ。」
「冗談ですよ、ありがとうございます方治さん。」
「…さてと。ようやく主役が来たな。」
「志々雄さん。」
「めでたい日だな。」
「──それじゃあ宗次郎のお誕生日会を始めまーす!」
(…名無しさん。)
「宗次郎、おめでとう!」
「ありがとうございます。」
──何もかもが暖かいと感じた日。
いきるしあわせを知ったひと
(Wishing you many, many more happiness!!)