かぐやひめの時渡り
【短編用】名前変換
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宗次郎と名無しは今日は町へとお出かけ。
人の多い日のためか、大きな通りにはお洒落なものを扱う出店が沢山出ていて。
よりどり見どりで、特に名無しは瞳を輝かせ嬉しそうな顔をしながら見て回っている。
そうしている内に、はたと足を止め思わず感嘆の声を漏らした。
「あ、紅差し…綺麗だなぁ…」
「わあ、本当ですね。貝殻の装飾も綺麗ですね。」
少し遅れて追いついた宗次郎も呟いた。紅の入った綺麗な貝殻が展示されている。
憧れるような瞳をしながら、名無しは宗次郎に語りかけた。
「私、お屋敷にいた時はお化粧してもらってたんだけど…口紅もね。でも、自分ではお化粧できなくって。」
「…名無しさんは何もしなくても綺麗ですよ?とっても。」
「…でも。宗次郎より子供だから、少しでも大人っぽく…」
「名無しさん。」
「!」
そっと、彼女の頬を包み込んだ。手のひらに、指先に触れる名無しさんの温もり。
のぞき込むように顔を近付けて囁く。
「名無しさんは…お姫様なんでしょう?」
「…宗次郎。」
「そんなに不安そうにしないで。…大丈夫です。名無しさんはこんなに美しいんですから。」
思わず瞳を潤ませる名無しさんに微笑みかけながら、すっと、名無しさんの手を取り…
「!」
「…ずっとお慕いしてますから。」
手の甲にちゅ、と口吻を落とした。
「僕にはなんでも言ってください。不安な気持ちも、文句も、わがままも…」
「…そっか、ありがとう…」
「いいえ。」
嬉しそうに瞳を伏せた名無しさん。
そして、にぱっと無邪気な笑顔を向けた。
「じゃあね、じゃあね!紅差しほしい♪絶対、もっと綺麗になれるから!」
「えー、知りませんよ?」
「なにが?」
「名無しさんがもっと綺麗になって、もっと大騒ぎになっちゃっても。」
「本当だー…」
しばらく考えを巡らせる名無しさん。
「…その時は守ってくれる?」
「はいはい♪」
相変わらずのペースに和やかになりながら、宗次郎は微笑みかけた。
「じゃあ、どの貝殻のがいいですか?」
「んっとねー…これにする!」
「わーい♪ありがとう、宗次郎。」
「いいえ。大切にしてくださいね。」
「うん!私の宝物にするね!」
嬉しそうに瞳を煌めかせる名無し。
──最初はそうやって、包み紙に入った紅差しをそのまま幸せそうに眺めていたのだが。
「うーん…どうしよう…」
「?どうかしたんですか?」
「どうしよう、宗次郎…早速つけてみたいの…!」
あわあわと、抑え切れない好奇心を溢れさせて名無しはため息をついた。
「いいですよ。」
「えっ!?」
「僕がつけましょうか。」
にこりと宗次郎は微笑んだ。
「えっ、いいの!?」
「ええ。もっと綺麗になった名無しさんが見たいですし。」
「…宗次郎、お化粧の仕方わかるの…?」
「なんとなくですが、でも口紅なら大丈夫です。」
(実は由美さんと鎌足さんに何度か女装させられた時に、お化粧もされちゃって…)
「本当!?じゃあ、つけてつけてー♪」
満面の笑みで笑いかける名無しに宗次郎は優しい笑顔を向けるのであった。
名無しの手を引き、人混みを避けて路地に入り──家屋を背後に名無しを立たせる。
そっと包み紙を開き、合わさった貝を静かに開く。傍から見ていた名無しは高らかに声を上げた。
「わあっ、鮮やかな艶紅…」
「えっと…たしか薬指で…」
薬指の先で紅を少し取り滲ませていく。
それを名無しの唇へと向けると──
「…なんかどきどきするね…!」
「え?どうしてですか?」
「だって…こっそりいけないことするみたいで…」
「…はは、たしかに。本当ですね。」
互いに見つめ合いくすくすと笑う。
「…まるで今から、くちづけするみたい。」
「えっ?」
「うふふ、なんでもなーい♪」
悪戯っぽく笑みを浮かべる名無しに、少しどきっとした。
「……」
「あれ?どしたの宗次郎。」
「…いいえ、少し…」
「少し?」
「少しだけ…そんな気分になっただけです…」
──頬を少し染めて、けれど自らを律するように真面目な表情をして。
「…すみません、おかしなこと言ってますよね、僕。なんでもないんです、気にしないでくださいね。」
「…ごめんね、宗次郎のこと困らせるつもりじゃなかったの。」
宗次郎のが伝染るように名無しの頬も紅く染まる。
「…いつかその時が来たら…ちょうだいね…?」
「名無しさん…」
恥ずかしげに、けれど幸せそうに眩い笑顔を向けるから。
思わず見惚れて、そして切なげな笑顔を浮かべた。
「…じゃあ、ほら♪」
「……ええ。」
小さな唇を指で指し示し、宗次郎の手を取る名無し。
愛おしく思いながら──紅の移った指先をそっと、名無しの唇に乗せた。
ふんわりと色付いていく彼女の唇。心なしか胸の鼓動が高鳴っていくのを感じる。
──この人は、本当に可愛らしくて…でもこんな気持ちにさせて…不思議な女性…
徐々にくっきりと色を乗せていく名無しに魅入られるように、宗次郎の瞳は熱を持っていった。
「…はい。できましたよ、名無しさん。」
「ありがとう…」
すべてを享受するように微笑んだ名無しは何とも言えない色香を漂わせていて。
思わず言葉を失ってしまう。
「…あまり、似合わなかった?」
「いえ……とても、綺麗です。名無しさん。」
心の底から、本当にそう思う。
緊張しながら告げた宗次郎に、名無しは優しい眼差しを向けていた。
* * * * *
アジトに集結する十本刀、そして志々雄と由美。
「よし、これで宝物は集まったな。」
目の前の宝物、そして憤ったり途方に暮れたりしている面々もいる中、志々雄は満足そうに笑みを浮かべた。