かぐやひめの時渡り
【短編用】名前変換
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それはふいに訪れました。
「名無しさん、こんな感じでどうです?」
「わあ、素敵ー!ありがとう。」
…たくさんの花で編んだ花冠を手渡すと、名無しさんは瞳を輝かせて喜んだ。
───名無しさんが行ってみたい、と言うので。
志々雄さんに一日お休みをもらって少し離れた地まで二人で出掛けることになりました。
道中、派手な着物の名無しさんは道行く人の目を惹きがちだったけど、僕は気にならなかったし…
「あ、宗次郎!みんな私たちの方見てるよ!こんにちは~♪」
「わあ、それなあに?面白そう!」
「うん♪今日はちょっとお散歩で遠くまで出てきたの!」
「え?この先に?宗次郎、行ってみよー!」
気ままな名無しさんはむしろ嬉しそうだった。
だからよかった、と僕も思ったり。
「…えへへ、宗次郎♪いっぱいお菓子とお土産もらっちゃった♪」
名無しさんはやっぱりみんなに慕われやすいのか、片っ端から仲良くなって色々面倒を見て貰ったりしてた。
「宗次郎、これあーげる♪」
「?」
巾着を取り出す。
促されて手を差し出すと、手のひらにぱらぱらと幾つも降り注がれた。
「あ、金平糖ですね。ありがとうございます。」
「え!?」
頬張ると、名無しさんは驚いたように目を丸くした。
「それ、食べれるの?」
「そっか、知らないんだ。これもね、飴玉みたいに綺麗だけど食べ物なんです。お砂糖でできたお菓子ですよ。甘くて美味しいですよ♪」
「へーえ…!!」
「はい、名無しさんあーんして。」
「はい♪」
…わざわざ目をつむって、ぱかっと小さい口を一生懸命開けているものだから、なんだかいたずら心が湧いてしまって。
「……」
「…ねえ、まだ~?」
「え?名無しさん気付いてないんですか?さっき入れたんですけど。」
「えっ?」
驚いて目を開ける名無しさん。
「あれ…?」
「おかしいなぁ。…あ、そういえば聞いたことあります。金平糖って、悪い子は口にした途端…消えちゃって食べられないみたいですよ?」
「えーっ!?ひょっとして私、悪い子なの…?」
「そうですね、もしかしたら…」
「宗次郎、どうしよう~っ!?」
おろおろと慌てふためく名無しさん。
…ちょっと意地悪しすぎたかな…?
両手を優しく包み込んで、まっすぐ名無しさんを見つめる。
「宗…?」
「…ごめんなさい、名無しさんを驚かせようと思って嘘つきました…ごめんなさい。」
愛らしい澄み切った瞳の色が変わるのが不安になって、途中で目をつむってしまったけれど…
ゆっくり瞳を開くと、目の前の名無しさんはにかっと笑っていた。
「なぁんだ!びっくりしちゃった~!」
「…?」
「んもぉ!宗次郎!おいたはだめっ!」
大きな目を細めて笑いかける様は純粋に、僕の心を捉える。
「…なんですか名無しさん。」
「ふえ?」
「それ…可愛らしすぎます。」
「え!かわいい?ありがとうー♪」
少し頰を染めて喜ぶ名無しさんがとても愛らしかった。
* * * * *
……場面は冒頭に戻りまして。
宗次郎に貰った花冠を、嬉しそうに頭に乗せる名無しさん。
「ね!似合う?似合う?」
「ええ、とても似合ってますよ。」
「わーい♪」
笑顔の宗次郎に顔を綻ばせていた名無しさんでしたが。ふと、目を泳がせます。
──小さな蝶々。
ふわふわと漂い、飛んでいく様を見つめながら名無しさんは思い出したように語ります。
「都で見たのとおんなじ蝶々…」
「そっか、名無しさんのふるさとにもいたんですね。」
「…都にいた頃もね、よくお屋敷抜け出してお花畑や川原に行ったりしてたの!」
ぱあっと輝く笑顔。
宗次郎は思わずその光景を想像し、笑みを漏らす。
「…さすが、名無しさんて感じがします♪」
「えへへー♪照れるなぁ。」
「誉めてるんじゃないんですけど…ま、いいか。」
「…えいっ。」
「わ。」
とん、と名無しが抱きついて、宗次郎の体はその場にゆっくりと倒れ込み…
そのまま、二人でお花畑の中に横たわるのでした。
「…?どうしたんですか?」
「さっきのお返し♪」
「そっかあ…」
くすくす、と顔を見合わせて笑う二人。
「ねー、宗次郎。」
「どうしました?名無しさん。」
名無しはじっと宗次郎の目を見つめる。
「名無しね。結婚するんだったの。」
「はい…?」
「しなかったけど。」
「…?どういうことですか?」
思わず瞬きをすると、朗らかに笑いかけられる。
「楽しくなさそうだから逃げて来ちゃった。」
「……?」
「そういう、こと。」
明るさの中に、ほんの僅かだけど寂しそうな笑み。
手を伸ばして彼女の頬に触れる。
「…嫌だったんですか?」
「……」
名無しは何も答えない。
けれど一呼吸置いて、にぱっと微笑んだ。
「でもね…私ね、宗次郎と結婚したい。」
「えっ?」
「宗次郎と結婚したいなぁって思うの…」
──そよ風が吹き、名無しさんのところへ蝶々が舞い戻る。
でも、名無しさんはこちらを暖かい眼差しで見つめたまま。
明るい声を上げた。
「宗次郎といる時が一番楽しい!」
「名無しさん…」
「だからこっちで素敵な女の子になるの!素敵な結婚するの!」
そう、微笑まれた。
結婚…実感が湧かないし、あまりに突然のことでたぶん驚いてるんだけど。
名無しさんの髪にかかった花びらに手を伸ばす。
彼女のさらさらとした綺麗な髪を手櫛で梳きながら…ああこれがそういうことなのかなって、そんなことを思った。
「…僕も名無しさんといるの、楽しいです。」
「ほんと-!?ありがとうーっ♪」
「だから…そういうのいいかもしれませんね。」
僕は名無しさんのこと大好きですし。
目の前の笑顔の名無しさんを見つめて微笑んだ。
お姫様だってお年頃
(志々雄さん♪私ね、宗次郎と結婚するの!)
(ファッ!?)