郵便少女

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志々雄さんの手紙を責任を持って届けたり、管理したり、時には使者をやったりするのが名無しの仕事。




ですが…名無しは今日は使者に行ってて留守なんです。つまらないなぁ…。

それに…ちょうど用事がない僕が郵便物の仕分けをしなくちゃいけないんです。




--宗次郎、お願い!ちょうど暇でしょ?ちょっとだけ私の仕事、代行お願い!!

--やだなぁ。名無しの仕事でしょう?

--だから宗次郎にお願いしてるの!お願いお願いお願い!!

--…いやですよー。

--こんなにお願いしてるのにー!?ねっ、ねっ、そこをなんとか!!



宗次郎らぶー!愛してるー!帰ってきたら何してもいいよ!ちゅーもあげる!何でもする!

………断れないですよ。



…いえ、名無しにあんなことこんなことしたいとか思いましたけど、名無しにあそこまで頼まれたら断れないです。…はあ。





宗次郎は郵便受けからたくさんの手紙を取り、色々と思い返しながら部屋に入る。



「朝だけでこんなに…名無しも大変だなぁ。どうりで僕に頼むわけですね。」



開封して中身を見てみると、地方の志々雄さんの部下、腕利きの剣豪、はては政府関係者なんかも。どれもこれも仰々しいものばかり。

--そんな中、宗次郎の目が捉えたある手紙。赤いもので空け口を止めてある封筒。



「ハート…?あ、違うや…」



形のよい、赤く染まりきった紅葉。宗次郎はそれに気付くと目を丸くした。



「おかしいな。まだ紅葉の季節じゃ、……あ。」



そういえば。






(で?名無しはどこまで走りに行くんです?)

(んーとねー、北の方!山!)

(北?今の時季は寒いんじゃないですか?)

(あ、そうかも。)

(ちゃんと厚着するんですよ?寝る時も脚やお腹出したりしないでくださいよ?)

(まっさかー!子供じゃないんだから!)


充分有り得るから言ってるのになぁ…。僕の思いも知らずに、名無しは笑うだけ。


(心配だなぁ…)

(宗次郎は過保護なんだよ~)

(でも…)

(大丈夫大丈夫!ちゃんと生存してるって手紙送るから!)







…ひょっとして。ひょっとしたら。



そっと封を開けると、何枚かの紅葉が零れ出た。そして残ったのは、一枚の紙。




『でぃあ宗次郎ー!』



手書きのハートだらけの紙の上に、でかでかと書いてある文字。



「…間違いなく名無しですね。」



『元気ー?私は元気だよ!風邪も引いてないし、昨日はあったかいお鍋ご馳走になっちゃったvでさ!紅葉!すっごい綺麗なんだよ!思わず送っちゃった!いやー!こんなに楽しい道中は久しぶり!あと5日くらいで帰れるかな?その間仕事よろ~☆名無し




…とりあえず、元気みたいだなぁ。よかった♪

紅葉を摘み上げ、見つめてみる。

…ほんとに綺麗な朱ですね。これ一枚だけでもこんなに綺麗なんだから、名無しの見た景色はとっても…。


また、いっぱい聞かせてもらおうっと。






……それにしても。

なんなんです、人がこんなに気を揉んでるのに、お鍋だの、楽しいだの、よろ~だの。

…なんだか悔しいなぁ。こんな馨をこんなに心配出来る人はそうそういませんよ…?気楽なもんですね…。




「…ほんと、わかってほしいなぁ…」



なんとなく手持ち無沙汰になり、葉っぱをくるくると翻す。



「…あれ?」


…今、なんか見えた…。



「あ。」


葉っぱをゆっくり裏返してみると、宗次郎は思わず声を漏らした。



--葉っぱの裏。


宗次郎は何度も何度も確かめる。手にした紅葉の葉の裏には。




『宗次郎 名無し』と二人の名前が刻まれた相合い傘。





まじまじとそれを眺め、そしてそうっと机の上に乗せた。



--なんだか、なぁ。かわいいというか健気というか…気持ち悪いというか…。

なかなか掴めないなぁ。

なんなんでしょうね?これを書く名無しも。…この僕も。




「…まぁ、これに免じて…今回は許してあげましょうか。」




溜め息混じりに、真顔で呟いた宗次郎。だけどその顔がほんのりと朱に染まっていたことは誰も知らない。




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